【その他】ボンデッドから114へ【妄想】

 最終回を前に明かされた企画名、おじいさい!

 残るは打ち上げのみ。だが! まだ打ち上げが残っているのだ!

 暴れるには充分以上、妄想上等、口上冗長! いくぜ、爺ちゃんランページ! 

 お爺祭は! まだ終わらないっ!


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〇ボンデッド ~高校2年 始まり~


 悩みがある。

 口にした内容に反してきっぱりとした態度。

 そのギャップ、彼女との薄い接点、投げかけられた言葉を反芻した瞬間のざらりとした感覚。

 日頃の物言いはハッキリしていて声は大きいほうだが、いまはスリ足の猫のように静かだ。けれど女の子からロックオンされているという未知の感覚で頬のあたりが痒くてヒクつく。あと、顔が近い。

 男勝りなスポーツ少女という印象に違わないターゲットを捉えて離さない釣り目。キュッと結ばれた口元。形の良い眉といつ頃か伸ばしていたらしいセミロングの髪はピクリともしない。

 これはいかがしたものなのか。

 出口のない思考の迷路に迷いかけて固まっていると、視界のなかでふいっと彼女がそっぽを向く。そこで相手も気まずい想いをしたことに気づく。申し訳ない気持ちのまま口をモゴモゴさせていると彼女は顎をくいっと教室の出口へと向けた。

 場所を移すぞ、ということらしい。

 頷き慌てて用意を済ませて彼女を追う。女子との密会あるいはカツアゲされる数分前なシチュエーション。幸か不幸かどちらも経験はなかったが、正直この時の気持ちは後者のそれだった。


 それからファミレスで話したことはよく覚えていない。

 緊張していたこともあるけど、それ以上にまとまりがなく要約し難いというか……なんというか。

 そつなく明るく日々を過ごしている。傍からはそう見えていても女子は大変なんだなぁ、というのが第一印象。

 だけど、それだけじゃない。きっと誰もが不安を覚える類のことで、答えや合格ラインみたいなものもないタイプの問いかけなんじゃないか。そんなことを分からないなりに伝えると彼女は短く、うんとだけ頷いて炭酸の抜けたジューズを呷った。ベタ付いた甘さのせいか、顔をしかめてベッと舌を突き出す仕草は近所の猫みたいだ。流石に四杯目ともなると炭酸であのペースはキツいだろう。どうやら彼女はドリンクバーで粘るテクニックは御存じないらしい。

 そんなちっぽけな余裕から彼女が自分に声を掛けた理由やこの状況を呑み込めかけてきたその時、変な声が漏れ出た。

 財布を忘れた。

 何が悩みなのかも掴み切れず思い煩っていた彼女との会話を覚えていないのはコレが原因だ。おまけに持って来ていたところで持ち合わせは不足しているという情けなさ倍増の懐具合だった。

 そんな事情を余すことなく白状してしまったのは、恥ずかしさからか。それとも彼女には嘘をつくまいという相談を受けた者としてのプライドからだろうか。


 結局ファミレス代は彼女持ちとなり、流れで向かったカラオケも彼女に奢られることとなった。

 イメージと異なり彼女はアニソンばかり歌った。女子同士ではこうはならないのだよ、というのが彼女の言だ。初めて一緒した相手を前に思い切り歌える度胸と、まあまあな歌唱力は羨ましかった。新譜も押さえてるあたり好きなんだと思った。 


 結論、彼女は少しだけ変なヤツだ。



〇114 ~高校3年 卒業式~


 それからの僕らにはこれといった出来事はなかった。

 もちろん借りたお金は返したし、たまに二人でカラオケに行ったこともある。

 けど、それだけ。高校生としては特になしにカテゴライズしてしまうのが妥当だ。

 ああ、うん。下心がゼロだったとは口が裂けても言えないから、そこは認める。だけど、純粋に相談を受けた身として彼女のことは心配だった。上手く思い出すことは出来なくても哲学めいた問いかけ、時として人生の落とし穴めいたものに成るナニカを彼女が覗いていたことは間違いないのだから。

 とはいえ、こちらの懸念と裏腹にその後の彼女は順調そのものだった。

 伸ばし続けた髪に比例するように中の下だった成績は中の上ほどに落ち着き、無事に志望先に合格したようだ。以前の彼女なら漏れ聞こえる声で進学先まで知れただろうが、お淑やかになったものだ。

 ただ、以前と違い漫画やアニメの話で盛り上がってる姿を見かけるようになった。趣味の合うクラスメイトに巡り会えたようだった。

 そんな回想と盗み見た彼女の横顔がチラつきつつ卒業式が終わった。それなりに仲の良い者同士の打ち上げ一次会を終え、誰かに声を掛けたりはず、掛けられることもなく帰宅。ネクタイを外して、制服を脱ぎかけたところで手を止めて自室のベッドに寝転んだ。

 もう着ることのないであろう制服姿にセンチメンタルを感じたけれど、すぐに冠婚葬祭があったら着るかもしれないと節約精神が鎌首をもたげる。

 携帯が震えたのはちょうど着替えが終わった時だった。

 彼女からのメールはいつも狙いすましたようなタイミングでやってくる。


 もう脱いだんだ、最後なのに。

 それが夕日を背にした彼女の第一声だった。

 冠婚葬祭と口にすると彼女はあー、と納得した様子でコクコクと頷く。

 隣に立つと彼女は歩き出す。目的地はいつものカラオケだ。どうするかなぁ、と呟きながら制服を撫でる彼女だったが短大だしスーツ買ってもいいか、と独り納得した様子だ。短大という言葉に彼女の進学先はどこなのかが頭の中で膨らみ始めた。しばし悩んでから思い切って聞こうと声を張った。想像以上にやかましく鳴った喉にピリリと痛みが走る。

 彼女は瞳を丸め、予約してあるから大丈夫だよとカラオケ店を指さした。


 彼女の進学先は訊ねる前に彼女の口から出てきた。やっぱり地元の短大を選んだらしい。

 そして、自身の進学先を告げると共にこちらの進学先も口にした。順当過ぎるくらい順当なレベルの大学がこっちの進路だ。3年の1学期から担任にもっと上を目指してはどうだと尋ねられ続けた進路に彼女はおめでとうとニコリと笑った。

 正直、合格を知った時よりも嬉しかった。報われた。そう思った。

 安牌だろうがなんだろうが、確実に合格することと奨学金がもらえることが自分の進路の必須条件だ。決して妥協だとか、母親への遠慮だとが、我慢ではなかったけど、分かる人からおめでとうが欲しかった。

 それは彼女も同じかもしれない。

 大股で腰かけた彼女の太ももに捕まりかけた視線をグッと上げ、パネルを叩く彼女に合格おめでとうと告げた。今日の自分のやかましさと唐突さに頬が赤くなる。なんだか独り置いてきぼりをくらった気分だ。

 彼女がこちらを見る。

 長くなった髪を揺らしてこちらをキョトンとした瞳が覗く。話しかけられたあの日とは随分違う表情だけど、こっちも似合う。そんな呑気な感慨を置き去りにするように彼女は笑みを咲かせてみせた。


 多分きっと、自分はこの祝福を一生忘れることはないだろう。


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 妄想が過ぎるぞ!

 繰り返す、妄想が過ぎるぞ!

 だけど! 解説などせぬっ!

 何故なら、妄想だから! 酔っ払いの!

 それでも、もういっちょ!


 妄想が過ぎるぞ!

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