第2話〜狙われた王国〜

 サクラさんたちとの話が終わって、私たちは一度五艦に戻ることにした。

「そら、大丈夫?」

 ワタルくんにそう聞かれて、私は頷く。あの話をしたから心配してくれてるんだ。

「平気。それより、アンジェロ王国が狙われてるとしたら、バドさんに連絡した方がいいよね。」

「ああ、そっか。すっかり忘れてた。なんか、思ってたより話が壮大というか、普通に大きかったから、頭が追いついてないかも。そらは、意外と平気そうだね。」

 言われてみたらそうかもしれない。前世での出来事が、今も続いてて、サクラさんとお互い狙われてるかもしれない、なんて話されたら、普通はパニックだもんね。

「うん。もしかすると、現実だって事、まだちゃんと分かってないのかも。なんか、小説の中の出来事みたい。」

「あ、確かに。それくらい事が大きいもんね。」

 ワタルくんもそう言って笑った。そうだよね、話、大き過ぎるよね。おかしいよね、絶対。…現実的じゃ、ないよね…。

「まあ、話の大きさはすごいけど、俺たちは協力するって言っちゃったし、後に引けない。」

「うん、そうだね。」

 そう、私たちは言ってしまったんだ。協力するって。だから、戦わなきゃいけない。それは今までとは比べ物にならないくらい、大きいものと…。

「頑張らないとね。」

「そうだね。まあ、まずはバドに連絡してみよう。もしかすると、何か情報もってるかも。」

「うん、そうだね。ワタルくん、お願いしてもいい?」

「いいよ!ちょっと待っててね。」

 そう言って、電話を取り出す。しばらく鳴らすけどバドさんが出る気配がない。

「あれ?おかしいな、出ない。」

 まさか、もう…。

 そう思ってると、今度はサクラさんが後ろから走ってきた。

「二人とも、大変!!」

「サクラ、落ち着いて!!」

 二人はそう叫んで来た。ワタルくんが電話中だから、私が応える。

「何かあったんですか!?」

 不安に押し殺されそうで、私も早口になってしまった。サクラさんから言われたのは、信じたくない事だった。

「今、本部の次元捜査隊員から報告があって、アンジェロ王国が襲われてるって!」

「バド、どうした!!」

 そう言われた途端、ワタルが声を荒げた。いてもたってもいられず、私はワタルくんから携帯を奪った。

「バドさん?大丈夫!?」

『その声、そらか。悪い、今、あんま話してる余裕なくて、ちょっと…ブチッ』

「バドさん?バドさん!!」

 いきなり通話が切れてしまった。どうしよう、なんで、なんで、こんな…。

「とにかく、二人とも今すぐ行けますか?」

 サクラさんは冷静にそう言う。バドさんが危険なのは明白だし、今すぐ行きたい。でも…。

「そら、行こう。」

「ワタルくん、でも…。」

「大丈夫、俺が守るから。任せて!」

 ワタルくんはそう言ってくれる。なら、行くしかない!

「分かった。」

 私が頷くと、サクラさんとフウさんも頷いて、転移魔法を唱えてくれた。


 アンジェロ王国に着いた途端、私はそこがアンジェロ王国だと信じられなかった。前来た時はとてもきれいだった町並みは、全て崩れさっていた。

「酷い…!」

 町の人たちは騎士さんが守っていて無事なようだった。

「そらさま、それにワタルさまも!」

 町の皆を守っていた騎士さんが来た。

「どうしたんですか?」

「それが、我々も分からないにです。いきなり町が襲われて…。奴ら、城のほうへ向かいました!!」

「ありがとうございます。あなたはここでみんなのことを守っていてください!」

「は!!」

 ワタルくんは冷静にそう言った。  

「ワタルくん、城って言ったらみんなが…!」

「分かってる、急ごう。サクラさん、フウさん、こっちです!」

 ワタルくんがそう言うと、二人は頷いた。抜け道を使って、みんなで走る。お城の裏手はまだ敵が来ている様子はなかった。

「中に入ってるかもしれない。」

「何か、確かめる方法は…。」

 フウさんとワタルくんがそう言って入る事を制した。でも、それよりも先にサクラさんが入って行こうとした。

「サクラ!」

「今、アスカちゃんから連絡があって、お城の中にはまだ敵は入ってないけど、あの三人が王座の間にいるって!応戦中らしいけど、厳しいって!早く行かなきゃ!」

「…!」

 もしかして、あの三人って写真の?なら、急がないと…。

「分かった。ワタルさん、道分かる?」

「はい、何度も来たことがあります!」

 ワタルくんの言葉にフウさんが頷く。私はあまり来ていないけど、ワタルくんは何か事件が起きた時のために、裏道とかの調査に何度か来ていた。

「じゃあ、ワタルさんと俺が先に行こう。サクラとそらさんは後ろから。」

「了解!」

 即席でフウさんが作戦を作ってくれる。説明が終わるとワタルくんが裏口の扉を開けた。

「…っ!」

 中にはたくさんの騎士さんたちが倒れてて、敵が強い事をさしてた。どうしよう、バドさんたち、大丈夫かな?

「大丈夫、みんないるから。」

 私の心情を読んだのか、サクラさんは優しくそう言ってくれた。

「はい。」

 その言葉に勇気付けられて返事をすれば、フワッと笑ってくれた。

「行きます!」

 ワタルくんの声に全員が頷き、近くの階段を駆け上がる。階段の途中にも騎士の人たちが倒れていた。早くいかなきゃバドさんたちが…。早く玉座に…!

 王座の間に着くと、そこには男の人二人、女の人一人が、バドさんを含めた四人を見下ろしてた。息はしているようだったけど、確実に倒れてる。

「バドさん!」

「アスカちゃん!カエデ!!」

 私たちがそういうと、立っている三人がこちらを向いた。

「お前ら、いい加減にしろよ!!」

 フウさんが怒りを込めてそう言うと、剣を持った人がこっちに向かって走ってきた。

「サクラ、そらとワタルを!!」

 フウさんが言うが早いか、サクラさんは結界を張ってくれる。すごく頑丈なのが分かった。

「ごめん、二人とも。ここから出ないでね。」

 サクラさんはそう言うと、一人結界から出て弓を出した。

「あら、私の相手はサクラなの?」

「気安く呼ばないで。」

 相手は楽しそうなのに、サクラさんは冷ややかにそう言った。

「あら、もしかして全部思い出しちゃった?」

「ええ、なので、もうあなたに惑わされる事はないの。ごめんなさい。」

 サクラさんの表情は見えないけど、すごく冷たい感じがして、すごく怖かった。

 サクラさんが弓を構えると光の矢がたくさん出てくる。

「残念だわ。」

 相手の人も冷たく笑いながら真っ黒な球をたくさん出した。多分、サクラさんよりも多く。

「…っ!サクラさん!!」

 私が叫ぶと、サクラさんはこっちを見て小さく頷いた。まるで、『大丈夫』と言っているようだった。

「はぁ!」

 その時、相手の人の方で、知らない女の人の声がした。見ると、さっきまで倒れてた女の人と男の人が立ち上がっていた。いつの間に…。

「な…!」

 その人が放った白い球が相手の人を狙って飛んでいき、真っ黒な球が放たれる事はなかった。

 そして、サクラさんの光の矢は、フウさんの相手の人に向かって全部放たれた。

「…くっ!」

 なのに、男の人には掠った程度で驚いた。あんなに早くて、数も多かったのに…。

「卑怯ね…。」

「あんたらに言われたくないな。」

 そんなやり取りが向こうから聞こえる。その間に、フウさんがこっちに戻って来た。

「サクラ、大丈夫?」

「うん、フウくんは?」

「俺は大丈夫。…全然当たんないね。」

「う〜ん、狙いは良かったんだけどな〜。」

 フウさんたちもそう言ってるなか、いつの間にかバドさんと女王様が消えてるのに気付いた。

「あれ?バドさんたちは?」

「おまたせ!」

 そう言って、ワタルくんが結界の中に入ってくる。そう言えばさっきからいなかった。

「ワタルくん、どこいって…。」

 そう言いかけたけど、バドさんたちも一緒に入って来てびっくりする。しかも、元気そうだし…。

「元気だね…。」 

「ああ、さっきまでの演技だったからな。」

「え、演技だったの!?心配して損した!!」

 なんて言いつつすごく安心したのは内緒。

「いや、全部じゃないぞ!電話の時はマジでやばかったんだよ!でも、お前たちが来る前に本部のアスカさんとカエデさんから、倒れてる演技しろって言われて…。」

「まあまあ、二人とも無事で良かったってことで。」

 ワタルくんがそう締めてその話は終わった。とにかく、みんな無事で良かった。

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