第12話~明日への希望~

 数日後、五艦の部屋で休んでいると、いつものようにワタルくんが来た。事件が完全に解決するまでの間、五艦にいてもいいという話なのでお言葉に甘えている。戻っても、住む場所ないしね。

「アリスさん、どうだった?」

 最近はアリスさんの事情聴取が主な仕事になっているから、会った時は必ず聞いてる。愚痴を聞く意味もあるけど。

「まだ黙秘してる。なんか、半分は意地になってるみたいだね。」

 そう言って笑った顔は、かなり疲れていた。そりゃ、そうだよね。朝から今までずっと話を聞いてるのに何にも言ってくれないらしいから。

「そっか~。大変だね。」

「うん、まあもう少しの辛抱かな。」

「え?どういうこと?」

 意味が分かんなくて聞いてみると、ワタルくんは「ここだけの話ね。」と釘をさした。

「実は、あの3人の本部移動が決まったんだ。」

「本部?」

「この組織の親元っていうか、一番偉いところ。三波西呉と佐藤はもう最初から自白してたからあの3人が犯人だってことは確実なんだ。だから本部での事情聴取が始まる。俺がやらなくてもいいんだ。」

「そうなんだ、良かったね!」

 そう言うとワタルくんは「まあね。」と笑った。その顔は、嬉しそうだった。

 でも、私はその前に一つだけ、やりたいことがあった。

「ねえ、ワタルくん。一つだけ、わがまま言っていい?」

「ん?うん。」 

「お父様とお話がしたい。」

「え…?」

 そう、ちゃんと誤解を解きたかった。私がお母様を殺したんじゃないって…。

「…うん、いいよ。移動は明後日だけど、いつがいい?」

「そっか、明後日なんだ。…じゃあ、明日でもいい?」

「いいよ。手続きしとくね。」

「うん、ありがとう!」

 急な話なのにワタルくんはいつも何とかしてくれる。なんだか申し訳ないな。

「じゃあ、その手続きはあとにするとして、ご飯食べに行かない?俺、お腹減っちゃったんだ。」

「あ、もうそんな時間なんだね。私もおなか減ってたの。行こ!」

 

 翌日。ワタルくんと一緒にお父様との面会をした。

「すまなかった!」

 事情聴取の時、ワタルくんが色々話してくれたみたいで、顔を見るとすぐにそう謝られた。その時、お母様を殺したのは佐藤さんだと言う事も知らされた。お母様が殺されたのは、当時からおじ様に仕えていた、佐藤さんの『私を拉致して、その力を奪う』という計画を知ってしまったから、ということらしい。

 そのあとも話をしたら、お父様は人殺しをしたわけじゃなかった。ただ単に操られてただけみたいで、少し安心した。

「西呉さんはそんなに重大な罪を犯した訳ではないから懲役刑になっても2、3年で出てこられると思う。でも、多分執行猶予が付きそうだよ。」

 面会が終わるとワタルくんはそう言った。

「それに、西呉さんはかなり情報操作やパソコンに強いみたいだからもしかしたらMEAの職員の話が出てくるかも。」

「お父様、もともとはITのお仕事してたの。もう、私の世界じゃ就職は厳しい年齢だし、ここでお仕事出来るなら願ったりかもね。」

「そっか…。ねえ、そら。そらはこの先どうするの?」

「え?この先?う~ん、どうしよう。学校も退学しちゃったし、行く当てもないからな~?」

 そう言われてみれば、考えてなかった。この先、どうしよう…。

 私がそう考えていると、隣を歩いていたワタルくんは前に出て、真剣な顔をして私をまっすぐ見た。

「この先どうするか決まってないなら、お願い、俺のパートナーになってよ!」

「え!?パートナー!?」

 確かに、私はこれからの事なんて考えてないし、当てもない。今言ったことだって全部本当だけど…。

「その、ただ、任務とかを一緒にやってくれるパートナーが欲しいって言うか。そらだったら、俺安心して任務が出来ると思うんだ!」

「で、でも私、魔導ちゃんと使えないし…。」

「俺が教える!だから、お願いします!」

 そう言って頭を下げられる。確かにワタルくんとこれからも一緒にいられるのは嬉しいけど、でも…。

「本当にいいの?私みたいな役立たずで…。」

 そう、それが心配だった。学校にいた頃は皆から『役立たず』と言われ続けた。だから、役に立てる自信がない。

「なんで?俺、そらに助けられたよ?」

 なのに、ワタルくんはそう言ってくれた。

「え?」

「だって、西呉さんが襲って来た時、俺瀕死だったけど、そらの魔法を女王様が導てくれたからすぐ手当てしてもらえた。アンジェロ王国では傷を癒やしてくれた。こんなに色々してくれた女の子が『役立たず』な訳ないんじゃない?」

 そう言って優しく笑ってくれる。初めて言われた言葉に、少しだけ泣きそうになった。

「それに、そらの力ならもっと色んな事ができる。その出来る事、俺と一緒にやってみない?」

 そう言って手を差し出された。

 ワタルくんはいつだって強制はしない、強引な事はしない。優しく、手を差し出してくれる。その手を、私は何回もとってきた。だから、今回もその手をとる。今までそうして来たように。これからも、ずっと、

「よろしくお願いします!」

 そう言って私たちはお互いに笑い合った。

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