サクラの風

第1話~再会と決意~

 きっかけは、ある事件から。今にしてみたら、これが奇跡の始まりだったのかもしれない。

「あれ、サクラ?」

「え?」

 いきなり名前を呼ばれて顔を上げると、そこには知らない男の人がいた。

 背が高い男の人。嫌な予感がして身構えた。

「は、はい、私はサクラと言いますが、その、失礼だと思いますが、どこかでお会いしましたっけ…?」

 そう聞くと、男の人はきょとんとした後、高らかに笑った。

「アハハ、そうか、覚えてないか!これはいい!」

 そう叫ぶといきなり腕をつかんできた。

「ならば、ついてきてもらおう!」

 そう言って腕を引っ張られる。私は怖くなってベンチの手すりを握った。

「な、何を言ってるんですか?」

「いいから、黙って来い!」

「キャッ!!」

 私の必死の抵抗も意味がなくて立たされてしまう。

 怖い、助けて、いや!

 周りには誰もいない。心の中でそう叫んでると突然指輪が光った。私の家に代々受け継がれている指輪。それはまるで、私を守ろうとするかのように光を強めていく。

「な、なんだ!?」

 男の人がそう言うと、予想外の出来事が起こった。二人とも、別々の方向へ吹き飛ばされた。すぐに地面に叩きつけられる。そう思って身構えていたのに、叩きつけられる衝撃はなく、誰かに抱きとめられる感覚。驚いて後ろを見ると、同い年くらいの男の子がいた。この子に、助けられたんだ。

「大丈夫?」

 優しいその声が何だか懐かしく感じた。

「あ、はい!ありがとうございます!」

 私がそう言うと、男の子は優しく笑った。

「良かった、それなら、間に合ったんだね。…それじゃ、ちょっと後ろに下がって、待ってて。」

「はい。」

 そう言われて、私は優しく降ろされた。彼の声と笑顔に胸がきゅっとなる。すごく懐かしくて、なんだか悲しい。…まさかね?

 私がそんなこと思ってる間に、男の子はポケットから見たことないものを取り出して言った。

「私は、魔導士専門管理局本部所属、フウ・ガルディアン。あなたの名前と出身世界を…」

「ん?『ガルディアン』?…へえ、なるほど、まさか、1日で二人とも見つかるなんてな…。」

 男の子が言い終わる前に男の人はそう言って笑った。『フウ・ガルディアン』…。その名前を、私は知ってる…。

「俺の名はベルゼブル・マルヴェイ。出身世界は、ベスト王国。」

「…!」

 ベルゼブル・マルベイ。この名前も知ってる。国の名前も、知ってる…。そんな、まさか…!

「ウソ、だろ…?」

 前に立っている男の子も、衝撃を受けて固まっていた。やっぱり、彼は…。

「…!」

 私の視線に気づいたのか、彼は少し振り向いて笑った。その笑顔すら、懐かしい。やっぱり彼は、あの人なのかな?

「大丈夫、すぐ、片づけるから。」

「はい…。」

 私がそう言うとすぐ前を向いて剣を構えた。

「全次元法第16条、一般市民への脅迫行為とみなし、あなたを拘束します。武装を解除しなさい。」

「誰がするかよ!」

 そう言って男の人は剣を出して突っ込んできた。

「俺からはなれて!!」

「は、はい!」

 数歩下がると同時に男の人と彼の剣が激突した。フウ・ガルディアンと名乗ったその人の顔には、整った顔に似合わない焦りと怒りが表情に表れてた。

 離れたところから、二人が何か話してるのが見えたけど、内容は分からなかった。

 そうこうしているうちに男の人のほうが距離を取ってそのまま消えた。

「くそ!逃げられた。」

 そう言って男の子は私の所に戻ってきた。

「その、さっきも聞いたけど怪我とかしてない?」

 実は剣が激突した瞬間に腰が抜けてしまってその場にへたり込んでて、それを見た瞬間彼はクスリと笑って、手を差し伸べてくれた。その手を借りて立ち上がる。

「あ、ありがとうございます。すごく怖かったので、助かりました。あの、改めてお名前をお聞きしてよろしいでしょうか?」

「あ、そうだね。俺の名前は『フウ・ガルディアン』。多分同い年くらいだろうし、気軽に『フウ』って呼んで。敬語もいらないから。」

 『フウ・ガルディアン』…。やっぱりあの人の名前。ううん、きっと偶然。そう、だよね。

「は、はい…。あ、えっと私は『サクラ・フルール』です。」

 私がそう言うと、彼…フウくんは不思議そうな顔をしていた。

「な、なに…?」

「あ、ごめんごめん。『サクラ』、か…。なんだか、知ってるような、そんな気がする。なんでだろうね?」

 その言葉につい笑ってしまった。彼も同じこと、思ってたんだ…。

「え?お、俺なんか変なこと言ったかな?」

 困惑しながらそう聞かれて首を振る。

「う、ううん、私も今同じこと考えてたから、なんか、びっくりしちゃって。」

「え!そうなの!?俺たち気が合うのかな?」

「そうかもね!」

 そんな話をしてると、電話が鳴った。

「あ、俺のだ。ごめん、ちょっと待ってて。」

「うん、いいよ。じゃあ、そこに座ってるね。」

「ありがと。」

 そう言ってフウくんは電話に出た。とりあえず手近なベンチに座る。そこからフウくんの声が聞こえる。

「お疲れ様です。はい…はい…。え?でも、彼女はかなり疲れていると思いますが…はい…確認してみます」

 そう言うとフウくんはこっちに来た。

「サクラ、これから俺の入ってる組織の本部に来てほしいって言われたんだけど、今から行ける?」

「い、今から!?大丈夫だけど…。」

「ほんと!?」

「うん、一人暮らしだから怒られるようなこともないし。」

「そっか、ありがと!終わったらご飯でも食べようね!」

 そう言ってまた電話を再開した。誰かとご飯か…。何年ぶりかな?

「はい、大丈夫だそうです。はい、はい…わかりました、では後程。」

 そう言って電話を切って戻ってきた。

「お待たせ、なるべく早く終わらせてくれるって。」

「ありがとう!」

「こちらこそ。それじゃ、行こうか!」

 そう言ってフウくんは呪文を唱え始めた。すると、目の前が真っ青になった…。


 目の前の青が晴れると、そこはきれいな通路だった。周りには制服を身に着けた人がいっぱいいた。

「フウくん、ここって…?」

「ん?ああ、初めてだもんね。えっと、ここはいろんな世界で起きる魔導士が関わっている犯罪を取り締まる場所、かな。」

「へ、へえ?」

 よくわかんないけどようは悪い人を捕まえるところってことだよね?警察みたいなものかな?

「フウ、お疲れ様。」

 そう言って現れたのは、白髪の良く似合うおじさん。なんだか、優しいお父さんって感じだな…。

「本部長、お疲れ様です。今回の被害者の『サクラ・フルール』さんをお連れしました。」

 あ、この人が本部長さんなんだ。

「その可愛いお嬢さんかね?」

「はい、こちらの方です。」

「ふむ…。」

 な、なんだか、じっと見られてる。私、変な格好してるかな?そう思って服を見てると本部長さんが笑った。

「おや、これは失礼。…立ち話もなんだ、応接室へ案内しよう。丁度おいしいケーキがあってね。少し長くなるかもしれない、お茶でも飲みながらゆっくり話そう。」

「本部長、失礼ですが、最近事務仕事が滞っていると聞きましたよ。あまり長話しているとまた、秘書の方に叱られますよ。」

「む、フウ、それを言うな。さすがに疲れてきていたんだよ。まあ、お嬢さんを長く引き留めていたらそれだけで大目玉を食らいそうだ。でも、ケーキは食べて行っておくれ。」

 そこまで言うと、本部長さんは歩きだした。フウくんは小さくため息をついて苦笑いしながら私を見た。

「だって。まあ、話し長くなればここの宿泊施設も利用できるから、ケーキくらいは食べてあげてね?」

「う、うん。」

 私がそう言うとフウくんは頷いて「案内するね。」って言って優しく手を引いてくれた。普通なら「いやだな」って思うところだと思うけど、私はそれより「懐かしいな」って思った。

 案内された部屋は普通の応接室、というか、客間だった。テーブルにはすでに紅茶とケーキがおいてあった。

「どうぞ。」

 そう言われて、小さく「失礼します」と言ってから座った。

「肩の力を抜いて、リラックスして大丈夫だよ。本部長、怖い人じゃないから。」

「う、うん、ありがとう。」

 本部長さんが書類を取りに行ってる間にフウくんがそう言ってくれた。そう言われても、緊張するよ~。

「お待たせしたね、それじゃ始めようか。」

「は、はい、お願いします。」

 そう言って始まったはいいけど全然答えられなかった。

「そうか、じゃあ、あの男のことは何も知らないんだね?」

「はい。…ただ、あの人が言ってた国、私に関係があるんです。」

「…どういうことかな?」

 本部長さんは不思議そうに、でも鋭い目で私を見た。

 ほんとは、話してはいけない事。おばあちゃんやお母さんからは『絶対話しちゃダメ』って言われ続けてきた。でも、話すなら、今しかないんだ。

「彼の出身国『ベスト王国』は、私の祖先、いえ、前世の人間が滅ぼした国なんです。」

 私がそう言うと、本部長さんは目を見開き―。

「覚えてるの…?サクラ…。」

 信じられないといった感じでフウくんはそう言った。

「フウくん?」

 私の声にフウくんはハッとして本部長さんと私を見た。

「…フウは、何か知っているのかな?」

 そう聞く本部長さんの目は私を見る目より鋭かった。その目を見て、フウくんは首を振った。

「…サクラの話を聞いてから、話すか判断します。」

「…わかった。サクラさん、続けて。」

「あ、はい…。」

 フウくん、私に話すか判断するってどういう意味なのかな?やっぱり、フウくんは『あの人』なのかな?

 とりあえず、それは後回しにして話すことにする。

「私の前世に当たる人は、その王国で姫君として、王政を支えておりました。同時に強力な魔導士として働くものでもあったのです。しかし、それはその身に余るほどの強い力で、ある日、その力を弓の形に変え、この指輪に封印したのです。」

 私の話に二人とも真剣に耳を傾けてくれる。私は、ベスト王国に関して知っている範囲のことを話した。

 すべて語り終えてしばらく沈黙が続いたけど、それを破ったのはフウくんだった。

「ありがとう、サクラ。」

「ううん、ごめんなさい、長々と話してしまって。」

 私がそう言うと、本部長さんは時計を見て「おや」といった。もう2時間くらい過ぎてた。

「あ、もう、こんな時間。」

「そうだね。今日はお開きにしようか。少し、二人で話すといい。…いや、フウは話したいだろう?」

 本部長さんにそう聞かれて、フウくんは静かに頷いた。

「それじゃ、続きはまた明日教えてくれ。」

「はい。すみません、お忙しいのに…。」

 私がそう言うと、本部長さんは「構わんよ」と優しく言ってくれた。

「そうだ、今日は泊っていくといい。明日迎えに行くのも面倒だしね。」

「ありがとうございます。」

 正直、一人の家に帰るのはすごく怖いから、泊めてもらえるのはありがたかった。

「フウ、案内してあげなさい。夕飯の場所も教えてあげるんだよ。」

「分かりました。…行こうか。」

「うん。」

 そう言って私たちは部屋を出た。


 宿泊施設に着くと、フウくんは一通り説明してから普段着になってくると言って出て行った。

 フウくんには、どこまで話していいのだろう?フウくんはあの国についてどこまで知っているのか。どこまで、『私』といてくれた人なのか、それとも、本当に『あの人』なのか…。それによっては…。

「おまたせ。」

 そう言ってフウくんは帰ってきた。さっきまでと違い、すごくラフな格好に、少しホッとした。

「えっと、俺の事、話したほうがいいのかな?」

 手近な椅子に座るとフウくんはそう言った。

「そう、だね。うん、教えて…?」

 私がそう言うと、フウくんは優しく笑って言った。

「サクラが名前そのままなのと同じように、俺も一緒。前世の名前は『フウ・ガルディアン』。君のそばに、誰よりもそばにいた騎士だよ。」

「…!ほんとに?ほんとに、『フウくん』、なの?」

「ほんとだよ」

 そう言ったフウくんの顔と、遠い遠い記憶の、大切な人の顔が完全に重なった。

 ―もう、疑うことなんて、できなかった。

「…奇跡って、ほんとに…ほんとにあるんだ…。」

 そう言って私はボロボロ泣いてしまった。必死に涙をぬぐっていると、フウくんは優しく包み込んでくれた。

「ご、ごめんね…。こんなに泣いて…。迷惑、だよね…。でも、止まらないの…。」

「いいんだよ、たくさん泣いて。やっと会えたんだから、いっぱい甘えて?」

 ああ、本当に、フウくんだ。やっと、会えたんだ。ずっと待ってた人。もう、一人にならなくていいんだ。

 でも、私には…。

 そう思っていると急に警報音が鳴った。

『本部長、及び全職員に報告!魔導士が先ほど本館へいらしたサクラ・フルール様の家へ不法侵入を行っている模様。映像、出します。』

 そう言われて目の前のモニターに映ったのは私の家。さっきの男の人と、他に女の人が二人。一人の人は止めている様にも見えた。

「あれ、私の家。」

「だよね。さて、本部長。」

 フウくんがそう言うとモニターの隅に本部長さんが写ってた。

『フウ、行ってくれるかな?サクラさんも一緒に行ったほうがいい。』

「分かりました。サクラ、話はまた後でしよう。もしかすると、今日もう一人の関係者が帰ってくると思うから。」

「…?うん、分かった。」

 まさか、もう一人も近くにいるの?なら、早く会いたい。でも、その前に、フウくんから離れないようにしようそう思っていると視界が青くなった。


「フウ、その子を守って!」

「まずい!」

 着いた瞬間にそう言われたと思ったら、フウくんが私を覆うようにして抱きかかえた。そして聞こえる爆発音。

「く…!」

 フウくんの苦しそうな声が聞こえた。そして少しよろける。あまり力があるほうではないけど、それでも力一杯支えて、倒れるのを防いだ。

「フウくん、大丈夫!?」

「俺は、大丈夫…。サクラは、怪我してない?」

「う、うん。」

 大丈夫って言ってるのにフウくんはかなり苦しそうな顔で、肩で息をしていた。

「良かった…。それじゃ、ここから、動かないでね。」

「わ、分かった。」

 私がそう言うとフウくんは私から手を放して男の人がいるほうを向いた。背中にはひどい火傷を負っていて私は息をのむしかできなかった。

「フウ!」

 そう言って向こうにいた女の人がこっちに来た。

「アスカ、俺は大丈夫だから、サクラを…。」

「…わかった、無理はしない事。サクラが悲しむよ。」

「うん、分かってるよ。」

 そう言ってフウくんは剣を構えて、女の人は私の隣に立った。女の人もフウくんの傷を見て眉をひそめた。

「この家に何の用だ。」

 フウくんは落ち着いた、それなのにすごく低い声でそう言った。

「へえ、君たち、俺のことわからないってことはないでしょ?サクラに用があって来たんだ。」

「気安く呼ぶな!」

 そう言ってフウくんはそう叫んで男の人へ突っ込んでいった。あんな怪我をしているのに…。

「フウくん…。」

「大丈夫、フウだもの。」

 そう言ったのはアスカと呼ばれていた女の人だった。アスカってもしかして…。

「あなたは…?」

「…アスカ。話は後でゆっくりしましょ?」

「うん。」

「あら、アスカ、そっちの人間だったんだ。」

 そう言ったのはアスカさんと一緒にいた女の人。裏切られたはずなのになんだか楽しそう。

「ええ、あなたたちの行動をずっと監視してたの。でも、もう必要ないから。」

「そう、なら、…死んで。」

 そう言って女の人は真っ黒な魔導弾を出した。アスカさんは一歩前に出て私に言った。

「サクラ、そこから動かないで!」

「は、はい!」

 そう言った直後、フウくんが私の足元に飛ばされてきた。さっきよりも酷いケガをして苦しそうだった。

「フウくん!」

「はっ!」

 私が叫ぶのとアスカさんが真っ白な魔導弾を飛ばしたのはほぼ同時だった。

「くっ…!」

 でも、向こうのほうが多くて、アスカさんはかなりの数の魔導弾を受けた。

「アスカさん!」

 両脇に二人が倒れてて、向こうの二人がゆっくり近づいてくる。二人にとどめを刺すために。

 でも、そんな事させるわけにはいかない。だって、フウくんはもちろん、アスカさん、いや、アスカちゃんも、私にとって大切な人のはずだから。

「…あら。」

 だから、私は二人の前に立って両手を広げた。二人を守るために。

「へえ、泣き虫のお姫様が、二人を守れるの?」

 そう言われると、分からない。魔導のことだって勉強したわけでも練習したわけでもない。それでも…。

 私は弓を出した。昔、私のご先祖様が残してくれた、唯一の武器。

「それでも、私は、大切な人たちを守ります。」

 私がそう言うと目に前の二人は私のことを忌まわしそうに見た。

「サクラ、君がまた俺たちのことを裏切るなら、今度こそ許さない。」

 そう言って男の人は私に剣を突きつけてきた。裏切る?裏切るって何?前世の事は分からない…。

 怖い、でも、退けない。

 そう思っていると、腕を後ろに引かれる。そしてたくましい腕に支えられた。

「フウ、くん。」

「ありがとう、守ってくれて。」

 そう言うとフウくんは私を静かに座らせてくれた。

「この子には、触れさせない。」

 そう言って私の前に立った。酷い怪我してるのに、守ってくれる…。昔のまんまなんだ…。

「あら、そう。」

「ここは退こう。」

「そうね。じゃ、またね。」

 そう言ってあの人たちは行ってしまった。しばらくして本部からの救護車が来て私たちはそれに乗って本部まで戻った。


 フウくん達は医務室に、私は本部長さんに呼び出されて本部長室に連れていかれた。

「すまないね、本当はフウたちが心配だと思うが、話が終わるころには回復していると思うから少し話を聞かせてほしい。」

「はい、分かりました。」

 そう言って事情聴取が始まった。ほとんどのことはあの人たちについてで、あまり答えられなかった。

「ふむ、ありがとう。また、フウたちも交えて話を聞くことがあると思うけど、その時も頼むね。」

「はい、お役に立てず申し訳ございませんでした。」

 そう言って私は部屋を後にした。

 急いで医務室に行く途中でフウくんが前から歩いてきた。

「あ、サクラ。」

「フウくん!もう歩いたりして大丈夫なの?」

 そう言いながら駆け寄るとフウくんは私を抱き留めてくれた。

「うん、心配かけてごめんね。もう大丈夫。」

 そう言ってフウくんは私の手を取った。本当にフウくんは元気になっててびっくりした。

「部屋行こうか。アスカがご飯作ってくれてるよ。」

 そう言われた時にお腹が鳴った。

「あ…。」

 そう言ってフウくんを見るとくすくす笑ってた。

「き、聞こえた?」

「ふふ、可愛い音だなって思っただけだよ。」

 うう、聞こえてるじゃん…。すごい恥ずかしい…。

「さ、早く行こ。」

 優しく引かれるその手に私は導かれていった。


 部屋に着くと、アスカさんがご飯を作ってくれてた。

「お、丁度いい感じかな?」

「フウ!それにサクラも!おかえり!丁度ご飯出来たよ!ささ、話は後にしてご飯にしよ。私、お腹空いちゃった。」

「は、はい…。」

 そうして3人でご飯を食べた。その間昔からの友達みたいに、ううん、本当に昔からの友達なんだ。フウくんだけじゃなくて、アスカさんも。

 ご飯を食べ終わって片づけてから話が始まった。

「それじゃ、まず私の話からね。」

「はい。」

 そう言うとアスカさんは少し、目を伏せてから静かに言った。

「私の名前は『アスカ・シエル』。昔の名前と変わってないけど、サクラ、私の事分かるかな?」

「…うん、分かるよ。」

 ああ、神様。どうしてもっと早くこの二人に会わせてくださらなかったんですか?早く会っていれば、私は一人きりになることはなかったのに…。

「良かった。サクラ他人行儀だし、忘れられてるかと思った。」

「そんなことないよ。忘れられるわけない。…でも、違ってたら恥ずかしいなって思って…。」

「あはは!そう言えばサクラって昔からそう言うこと気にしてたよね~。」

 そう言いながら皆で笑う。ああ、本当にうれしい。やっと、願いが叶うから。

 そのためにもう一人、会いたい人が、ううん、会わなきゃいけない人がいる。

「サクラ、カエデに会いたい?」

 そう言ったのはフウくんだった。アスカちゃんも、私をジッと見てた。

「カエデにも、会えるの?」

 そう言うと、楓くんは申し訳なさそうに首を振った。

「まだ見つかってないんだ。もちろん、俺とアスカはずっと探してる。だから、一緒に探してほしいんだ。」

「カエデに会えるなら、なんだってする!あの頃の、昔の記憶を取り戻せるなら!…皆との思い出を、思い出せるなら…!」

 私は泣きそうになりながらそう言った。

 私の前世は、私にある魔導をかけた。それは記憶の魔法。一国の姫でありながら、彼女は一人の大魔導士だった。だからこそ、彼女を巡って悲しい争いが起きた。その記憶を、彼女は封印し、そのカギを設け、カギと出会って儀式を終えないと記憶を取り戻せないようにした。

 そのカギが、当時私の一番近くにいて、守ってくれた『フウ・ガルディアン』。それと、私の双子の兄だった『カエデ・フルール』、そして、私の唯一無二の親友の『アスカ・シエル』。

「あの日、君が記憶のカギを俺たちに託した日、俺は君に聞いたんだ。『その時、俺たちがどんな状況であろうと、君にその状況を話して、一緒に鍵を探してもいいのか』と。君の答えはなかった。」

 そのことも、ううん、封印した時の記憶がない。私があの国にいた時の記憶は幼少期しかなかった。ベスト王国の事は、私の家に代々伝えられてきた事だった

「それでも、今君がそれを望むなら、俺は手を差し出すよ。この手を取るかは君の、サクラの自由だ。」

 そう言って差し出される手。同時に、アスカちゃんが隣で優しく言ってくれた。

「大丈夫、絶対守ってみせる。だって私は…、サクラの親友だもの。」

「む、俺だってサクラの騎士なんだけど、言わなかったのに…。」

 アスカちゃんにそう言われてフウくんはふてくされたように言った。

「言わないほうが悪いわよ、ね、サクラ?」

「うわ、ひど!どう思う、サクラ?」

 その二人の会話は、幼少期の思い出しかない私でも、とても懐かしいものだった。そして、こういう時、わたしは―

「ふふ、アスカちゃんの言う通りだと思うな!」

 いつだって、アスカちゃんの見方をした。

「サ、サクラまで!」

「どうよ!」

 アスカちゃんがそう言っていつも終わり。今は、カエデはいないけど、きっと、カエデも戻ってくる。いや、探してみせる。

 だから―

「行く。二人と一緒に、今度こそ、はぐれないように。」

 私がそう言うと、二人は優しく笑った。

 こうして、私たちの戦いは始まった。


 そして次の日、私はあるお墓の前にいた。ここに眠る人に、報告することがあるから。

「お母さん、おばあちゃん、フウくん達が、迎えに来てくれたよ。」

 そう言っても、返事は帰ってこない。分かり切っていることだけど、全部話す。

「カエデとも、会えるらしいけど、まだ見つかってないんだって。とりあえずは、魔導士専門管理局でお仕事しながら魔導のお勉強もしていくつもり。…ちゃんと、取り戻すから…。」

 私の家は代々『サクラ・フルール』の血を受け継ぎ、記憶を受け継いできた。それは、呪いのようなものだ。だから、私がしようとしているのは先祖代々の悲願。頑張らないといけない。

「…それじゃ、行ってくるね。」

 私はそう言ってお墓を後にした。

 墓地の入り口で、フウくんとアスカちゃんが待っててくれた。護衛の意味もあると思うけど、私は一人でいるよりも安心していた。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう、ついてきてくれて。」

「いいよ、そんなの。ほら、早く行きましょ、本部長張り切っちゃって、もう制服用意したって。」

「うわ、早いね!」

「そりゃ、急がないと怒られそうだ。」

 そう言って3人で笑いながら歩いた。

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