第10話~悲しき現実とそらの力~

 目が覚めるとそこはかなり大きい部屋で日本の、私の部屋じゃない。どちらかと言えばヨーロッパとかの、お洒落な街のお嬢様のお部屋みたい…。

「ここ、どこ…?」

 そう呟くと、タイミングよくノックの音がなった。何がなんだか分からなくて、とりあえず扉を開けるとワタルくんが抱きついてきた。

「え!?わ、ワタルくん!?ど、どうしたの!?」

 私が聞いても無言で、どうしたら良いのか分かんなくて固まっているとワタルくんの後ろにバドさんを見つけた。

「あ、バドさん。あ、あの、ここ、どこ?その、どうなってるの?あと、何でワタルくん抱き付いてきたの?」

 私がそう聞くと、バドさんも苦笑いしながら答えてくれた。

「とりあえず、ワタルはそらが起きてかなり安心してるんだ。何せそら、丸2日寝てたんだしな。」

「そ、そんなに!?」

「そんなビックリするなら早く起きてよ。」

 ようやくワタルくんが顔を見せてくれた。でも、き、距離が…。

「わ、ワタルくん。その、か、顔が…。」

「かんけーない。」

 そう言ってまたワタルくんは顔を伏せてしまう。なんかワタルくん、怒ってる?

 なんかバドさんもワタルくんの事を「仕方ないな…」って感じで見てる。うう…、助けてよ~。

「っと、話逸れたな。確かどういう状況なのか説明しろ、だったな。中入っていいか?」

「う、うん。」

 そう言って二人に入ってもらう。そして、バドさんから信じられないことを言われた。

「まず信じられないかもしんないけど、ここは、アンジェロ王国だ。」

「え!?ここが…?」

 私がそう聞くとバドさんもワタルくんも頷いた。

「俺も信じられなかったけど、もう信じるしかなくなったんだ。」

「俺たちをここまで連れてきた人の話を聞いたら、な…。」

 バドさんはそう言うと立ち上がった。

「百聞は一見に如かず、って言うんだっけ?とりあえず、会いに行こうぜ。そうすれば分かるさ。」

 バドさんの言葉に私とワタルくんは頷いてついて行った。

 たどり着いたのはこの建物の最上階、アニメとか、ファンタジー小説によく出てくる王座の間だった。そこには、第五艦で見たきれいな女の人がいた。

「あなたは…。」

「第五艦で俺たちを助けてくれた人。」

 ワタルくんがそう言うと、女の人は軽く頭を下げた。私もそれにならう。

 私が頭を上げたのをみてバドさんが話を再開した。

「この方は、現アンジェロ王国女王だ。俺をそらの世界に行くようにしたのもこの人。で、俺はその家来って感じ。なんとなくわかるか?」

「あ、固く考えないでね。女王って言っても、あまり権力はないから。」

「はあ…。」

 女王様にそう言われて、曖昧に頷く。でも、正直ピンと来ない。助けを求めようとワタルくんを見ると一緒に首を傾げてた。

「つまり、バドはその人の命令でそらに嫌がらせみたいな事したってこと。」

「嫌がらせって言うな!まあでも、考えは合ってる。」

 そう言ってバドさんは答える。なんだかもう、訳が分からなくなってきた…。

 そんな私を見て女王様は少し心配そうな顔をした。

「ねえ、バド。今日はこれくらいにしない?また明日でもいいと思うの。」

「で、ですが…。」

「とりあえず、三波西呉からこの方をお守り出来た訳だし、ここにいれば安全よそれに、そらさんも起きたばかりで疲れてしまうでしょ?」

 そう言って私に同意を求められた。どうするべきか分からなくてとりあえず頷く。

 私の反応を見てバドさんも頷いた。

「分かりました。…とりあえず、それぞれの部屋で休むか。ワタルはどうする?」

「う~ん、そらといるよ。混乱してるだろうから少しでも安心出来るように。」

「分かった。俺は女王と一緒にいるから何かあったら呼んでくれ。」

「ああ。…そら、行こう。」

「うん」

 

「ありがとう。えっと…私が寝てる間の事とか聞いてもいい?」

 部屋に戻って、ずっと聞きたかったけど、雰囲気に負けて聞けていなかった。

「いいよ。」

 そう言ってワタルくんは話し始めた。

 あの日、内部の人にいたというお父様たちの仲間の手引きによって二人は入って来た。夜だったうえにアラートシステムが故障していた、いや、意図的に壊されていたらしい。アラートシステムを壊した人の手引きによって、お父様は私の部屋まで来た。ただ、その前にバドさんとワタルくん、それに数人の職員の人が気付いていたから、私は殺されずの済んだらしい。

 ただ、お父様たち一行の目的が一致していなかった。お父様の目的は私を『殺す』ため。でも、ほかの人たちは私を『拉致』するため…。

 

「さて、これが、あの日の出来事の全て。質問は?」

 そう言われて最後のほうの疑問を言ってみた。

「さっき、お父様以外の目的は拉致だったって言ってたけど、何で?お父様が私を殺そうとしているのはわかるけど…。」

 そう、私もワタルくんも、バドさんも聞いたはずなんだ。『次は殺す』って。

「そうだね、その通り。」

 ワタルくんはそう言って話し始めた。

「他の人の目的が拉致なのは、そらがあの『ヒンメロ・アンジェロ姫』だから。君の力を利用したいから。それは、何となく分かってたんじゃないかな?」

 やっぱり、そうなんだ。それだけの理由で…。

「そしてここからが重要だよ。三波西呉は騙されてると考えられるんだ。」

「だ、騙されてる!?」

 その意味が分からなかった。お父様はお父様の意志で動いてるんじゃないの?

 でも、ワタルくんは更に言葉を重ねた。

「例えば、そらのお母様が殺された時にそらを殺そうとして殺せなかったと知ったときに、『そらを確実に殺せる話がある』って、誰かに言われたとしたら?」

「…っ!」

「まだ仮説段階だからなんとも言えないけど、その可能性だってない訳じゃないんだ。」

 その続きをワタルくんは真剣な顔で話す。

「でも、この仮説が正しいのなら全て辻褄が合う。三波西呉が今まで姿を見せなかったのに、この1ヶ月の間で急速にそらと接触したこと。佐藤と三波西呉の発言の違い。そして何より…。」

 そこまで言うと、いきなり扉が開いた。そこにいたのはバドさんと女王様。

「やっぱ、五艦の牢屋、強化すべきだって!…あいつが出て来た。2人は地下に逃げろ。」

 バドさんの言葉にワタルくんは頷く。誰が来たんだろう?

「そらごめん、一回話は中断。とりあえず身を隠そう。」

「う、うん。」

 そう言って、私達は地下へ行った。

 

「ね、ねえ、誰が来たの?」

 地下の部屋に着くとすぐに私は聞いた。

「…三波西呉の後ろ盾をしてた人物。」

 そう言われてもピンと来ない。だいたい、後ろ盾ってどうやって…。

「そして、その人物がかなり危険な所にいてね。いつでも逃げれるようにはしてたんだ。思ったより早かったけど。」

「その人って、誰なの…?」

 私がそう聞くとほぼ同時に扉が開いた。入ってきた人物を見て、私は悪い夢だと思った。

「…アリス、さん…?」

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