メモリー

勝利だギューちゃん

第1話

古びれた写真がある。

もうセピア色に、あせている。

写真の中では、ひとりの女子高生が微笑んでいる。


時代を感じる制服だ・・・


俺と同じ歳だから、もう40近いな・・・

今はどうしているのかは、分からない。

俺の中では、彼女の時は止まっている。


今はどうしているのか、わからない。

ただ、幸せに生活している事を祈る。


『かつて、俺が一度は愛した人よ』


彼女と付き合っていたのは、高校時代。

しかも、わずか3カ月だった。

喧嘩別れしたわけでも、振られたわけでもない。

最初から、期間限定の付き合いだった。


お互い、異性に縁がなかった。

なので、お試しで付き合う事になった。


言わば、練習。


そして、3カ月がたち、期間は終了。

ふたりとも、互いの生活に戻った。


そのせいか、名前は情けないことにこぼれ落ちてしまっている。


だが、俺はそのお試しは、全く生かされていなく、

その後は、彼女は出来ていない。


よって、独身・・・


情けない限りだ。


「主任、緊急会議です」

「わかった。今行く」

部下である女子社員に、言われて、会議室へと出向く。


俺は、おもちゃ会社に勤めている。

今日は、新企画のおもちゃの発表会だ。


新製品のラジコンを走らせる。

これが遊びではなく、真面目にやっているのだから、

微笑ましいものだ。


購入者の方に、もしもの事があってはいけないので、神経を使う。

傍から見ている程、楽ではない。


「そういや、あの子とお試しで付き合った時も、おもちゃで遊んでいたな」

ふたりとも、超インドア派だったので、外で遊ぶということは、希だった。


お試しで付き合っていた3カ月の間に、俺の誕生日があった。

ささやかながら、誕生日のお祝いをしてくれた。


そして、プレゼントをもらった。

新幹線のおもちゃ。

鉄道模型なんて、高価なものではない。

ブリキのおもちゃだ。


でも、俺は嬉しかった。

今でも、部屋に飾っている。


100系なところに、時代を感じるが・・・


もう廃車になった100系新幹線だが、今でも好きな車両だ。

特に2階席にあった、食堂車で食べる食事は、やたらと美味しく感じた。


「久しぶりに、買おうか・・・」

会社の帰りに、デパートの模型店による。

そこで、100系新幹線のNゲージを、16両フル編成で買うという大人買いをした。4万円近くした。

(たまには、贅沢もいいだろう)


動作チェックをしてもら、代金を支払い包装をしてもらう。

そして、紙袋に入れてもらい、帰ろううとした。


「ねえ、ママ。どうして100系なの?古いよ」

「だめ。ママの思い出なのだから」

「どんな思い出なの?」

「内緒よ」

「ケチ」

母親と小学生くらいの男の子が、会話をしていた。


今の子供に100系の良さはわからないだろう。

となると、何だ?


「ママ、N700系Aがいい」

そっか、その世代か・・・


母子で言い争いをしているのが、聞こえてくる。


時代と共に、新幹線も変わる。

そう思い立ち去った・・・


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メモリー 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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