第3話 

 ——……ハッ!


「そうだ、脇腹のケガは!?」


 思い出したように飛び起きた僕は刺されていた脇腹を確認した。


 「よかった。夢じゃない……夢じゃなかったんだ。

 しかしなんだろう、モヤっとしたこの気分は」


 自分でもわからないもやもやした感情が胸に渦巻き気持ちの整理できない。


「ん?」


 その正体が何なのか分からないが、すぐに落ち着いてきたので考えるのをやめた。


「それより僕(コウイチ)が召喚された国はクイール帝国とか言ってたな……

 この世界にそんな国ってあったかな? うーん。僕(シオン)は孤児で生きるために必死だったから、今いる王都周辺しかわかないな。

 でもスキルは使えるから同じ世界だと思うけど……お! ……いまちょっとだけ思い出したかも」


 それは前世の僕(コウイチ)の記憶だ。


 帝国一の美姫と謳われていた王女に果実水を薦められたこと。そして、その果実水に毒が入っていたことを。


 顔は思い出せないけどとても綺麗な人だった気がする。


 でもそんな王女は、毒を飲み苦しむ僕を見て……あれ? 分からない。ても周りにいた取り巻き共は僕を虫からと罵り、嘲笑っていた。


 僕だけ別室に通されたときに疑うべきだったが、女性にモテた事のない僕は誘われて少し浮かれていたんだ。


 あの時はまったく疑っていなかったから、今まで経験したことのない喉や胸の痛みに焦り、宿したばかりだけど、使えるはずの再生スキルのことにまで頭が回らなかったのだ。


 そして前世の僕は魔法やスキルを一度も使う事なく人生が終了した。


「はあ……腹を立ててもしょうがないけど、過去の僕を思い出したらなんだか悲しくなってきたよ」


 だから再生スキルは成り行きで使ったけど、今度こそ後悔しないように、他のスキルや魔法なんかもどんなものか早めに使っておいた方がいいだろう。


 とりあえず、一番気になっていた【身体魔強化】のスキルを意識してみる。


「おお、これはすごいっ」


 これはどうやら強化魔法の一種のようで、全身を強化するだけでなく、全てのスキルや魔法の威力までも上げてくれるみたいだ。


 視界がとんでもなくクリーンになり何もかも鮮明に見える。


 ダンジョン内の小さな虫の動きさえも捉えることが出来た。というか虫いたんだ。


 これはいいスキルだ。これがあれば魔物からの攻撃もそう簡単には当たらないと思う。


 次は【毒耐性】をと思ったが、これはそのままの意味だろうから試さなくていいや。


 前世で毒を飲まされたから耐性がついたのだろうけど、対価が自分(前世)の命だったと思うと涙が出そうになるし。


「残りは【暗黒魔法】だけど……」


 暗黒魔法って何だろう。よく分からない……と思ったらそれらしい知識が流れてきた。


 ただ僕の知る限り属性は無、火、水、風、土、光、闇、雷、木、聖、の10属性で、そんな属性持ちだと別の孤児院に移されていた記憶しかしないが、その中に暗黒なんて属性はなかった。


 やはり暗黒属性は魔族の魔法なのだろうか。って何もなかった僕からすれば、あるだけで十分。使えるものは使わないと今の生活はかなり辛い。


 荷物持ちなんて卒業して冒険者になったほうが絶対いいと思うし。


「……後は武器の確保と、冒険者ギルドに登録するか。うん、そうしよう」


 そうと決まればこんなダンジョンさっさと出てしまおう。


「身体魔強化」


 僕は一度解除していた身体魔強化を再び使った。


 感覚が鋭くなり周囲にある魔物の気配までもが手に取るように分かるようになった。


「やっぱり。これは凄いや……ん、この気配……」


 安全部屋の扉の向こうにウロウロしている気配が3つある。多分、先ほどのゴブリンどもだ。まだいたのか。


 ——いや、僕がそう感じるだけで、時間はそれほど経っていなかったのか?


 あいつらちょっとして、取り逃した獲物を追い込んだとでも思っているのだろうか?


 そうだとしたら、なんか腹が立ってきた。荷物がないので武器になるようなナイフもないが、それでも何か仕返しがしたい。


「……そうだ!?」


 暗黒魔法の中には暗黒魔装というものある。

 この暗黒魔装は魔力でできた武具を具現化させる事ができるらしいのだ。


「武器だけの魔装はできるのか……」


 魔力に不安があるため、鋭い剣(武器だけ)が現れるイメージをしながら暗黒魔装(暗黒魔法)を発動してみた。


「うっ」


 すると、身体から何かが抜けていくような感覚に襲われるが、それは一瞬のことで、気持ち悪くなる前に僕の右手に暗黒の魔力が集まり、次第に黒い光を放ち始めた。


 やがて、その黒い光がゆっくりと剣の姿へと変わっていく。


「……できた。へぇ、これはすごいな」


 イメージ通りの片手剣だ。全体的に真っ黒く剣身からは臼黒いオーラを放っていた。


「これが暗黒剣か」


 暗黒剣から放たれているオーラは、ゴブリンくらい簡単に狩れてしまうような迫力があったが僕の魔力の都合上、あまりのんびりもできない気がした。


 ——よーし。いくぞ!


 だから、心の中で合図を送り、自分の心を奮い立たせるように勢いよく扉を開ける。


 ガタンッ!


 思った以上に大きな音が鳴り、ゴブリンたちの意表を突けた。


 ギャ!?


 偶然だったけど、これはラッキーだ。驚いたゴブリンが一瞬だけど動きを止める。


 ——まずは、僕を刺したあいつだ。


 僕は尖った骨らしきモノを持っているゴブリンに向かって駆ける。


「!?」


 身体魔強化のおかげで自分で驚くほどの速さで肉薄できた。


 でもここで浮かれてはいけない。今は目の前のゴブリンを倒すことだけを考えよう。


「はっ」


 ゴブリンに肉薄した僕は右手の暗黒剣を軽く横に振る。

 すると、抵抗という抵抗を感じることなく、ゴブリンの首が胴体から離れて飛んでいく。


「!?」


 自分がやったんだけど、ちょっと衝撃的だった。

 驚いた僕は足を止めそうになるが、他のゴブリンが目に入ったことで、気を引き締めて再び駆ける。


「そこっ!」


 結果は圧勝だった。身体魔強化を使い駆ければゴブリンは僕の事を目で追う事もできずに暗黒剣に倒れる。


 僕の初戦闘はあっさりと終わった。


「はあ」


 そんなゴブリン(3体)は、すぐにダンジョンに吸い込まれるように消えてしまったけど、その後には、魔石が3つに、錆びたナイフ、無骨なメイス、尖った骨、が残っていた。これが魔物倒した後に現れるドロップアイテムだ。


「あはは……」


 今更ながら暗黒剣の恐ろしくなったが、力が抜けた瞬間、暗黒剣がスッと消えてしまったため、そんな気持ちもすぐに消える。


 というのも、それ以上に恐ろしく感じていたゴブリンを倒せた嬉しさで僕の瞳からは涙が流れていたからだ。

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