異世界転生者の奮闘
ぐっちょん
第1話 僕は転生者だった?
「ぐわっ!」
僕の脇腹に鋭い異物が深く刺さった。嫌な感覚だ!!
体からだんだんと力が抜けていくのが分かる。
(まずい、まずい、まずい、とにかくここから逃げないと!)
僕は必死に走った。走って走って、とにかく走った。
……力が抜けていく体を、引きずるようにしてどうにか僕は目的の小部屋に駆け込んだ。
(ここまで逃げれば、大丈夫……っ!?)
でもホッとしたのもつかの間、緊張が切れると同時に視界がぐにゃりと歪み僕は倒れていた。
「うぐっ!! ど、どうし、て、はぁ……はぁ……はぁ」
(僕は倒れた、のか?)
体を起こして確かめようとするが、
「うぐっ!!」
(力が入らない)
ここはダンジョンの地下1階。入口にも割と近い安全部屋なのだが、出入口に近すぎて利用する冒険者なんて殆んどいない。
現にこの部屋には誰もいない。
(ちくしょう)
それに脇腹の刺し傷。ケガの深さからもこんな所で寝ていいはずがない。
(起きないと!)
脇腹を押さえつつ、上体を起こそうとするが、
「ぅぐぐっ……かはっ」
指一歩すら動かせなかった。
今の僕は脇腹を押さえているつもりだが、どんな体勢をしているのかすら分かっていなかった。
その後も何度か体を起こそうとしたのだが全く動かすことができなかった。
(あれ……あはは、もう痛みも何も感じないや)
意識も朦朧としてきた、いよいよ僕はダメらしい。
(あれ……あはは、そんなこともあったな。なつかしいや)
薄れていく意識の中で、僕は不思議な感覚を覚えた。
今日まで過ごした日々の出来事が駆け足で脳裏を過ぎ去っていくのだ。
そう、まるで走馬灯の様ような、走馬灯……
今まで使ったこともない言葉……不思議に思ったが、今の僕にはもう関係ないか……
————
——
僕の名前はシオン、14歳だった。
孤児院の前に捨てられていた所を院長が見つけくれて育ててくれた。
今でも溢れ出る魔物の影響で親を亡くした子供が多く、既存の孤児院の数だけでは足りてないと聞いていた。うまく孤児院に引き取られた僕は運が良かったのだろう。
でも12歳になると有無も言わさず卒院とさせられる。それは国の方針で小さな子供を優先して受け入れないといけないからだ。
今を思うと、孤児院では厳しくも慎ましい生活だったが、それでも寝る所と食べる物がある生活はかなり贅沢だったのだと身に染みて思う。
そう、いざ卒業してはみたものの、孤児で12歳の子供の僕が生活していけるほど稼げる仕事なんてどこにもなかったのだ。
町の清掃など簡単に出来る仕事は孤児院で引き受けている。ゴミ拾いやドブさらいもそう。
僕もそれをやって来のだから分かっている。
でも食べていくには稼がないといけないが、けどどこも孤児で子供の僕を雇ってくれる所などなかった。
ではどうするか。悩んだ僕は、結局卒院した先輩孤児の真似する事にした。
景気のいい冒険者を相手にダンジョン内で荷物持ちをする仕事だ。
でも孤児たちは体が小さい子供が多く余り荷物が持てないから、しなくてもいい薬草の採集やダンジョン資源の掘り起こしなんかの雑用など強要させられるし、僕は自分の身を守る手段がないから危ない仕事だということも。
でもどうしようもなかったのだ。僕は食べ物を盗み見つかり、ボロボロになるまで殴られたり蹴られたり衛兵に連れていかれる他の孤児達を見ているのだから。
同じ様に盗みを働く勇気はなかったのだ。
そうそう。僕の住む町はママール王国の王都アルスレイとだと孤児院で習っていた。
王都だけあって物や人、お金も集まり活気に溢れ都市である。
その理由の1つとして、この王都には都市ダンジョンがある。
ダンジョンからは資源なる大量の魔石や魔物の素材が冒険者達の手によって毎日排出されている。
その為か冒険者達は、毎日美味しそうに、お酒や料理をお腹一杯食べているのを目にしたことがある。
だから僕は他の孤児とは違う。お腹いっぱい食べれるように稼いでやる、そう思っていた。
でも現実は違った。卒院して2年経ったが、辛うじて生きているっていう状況。生活はかなり苦しい。
それも当然である。僕みたいな子供が気性の荒い冒険者達を相手にするだ。はっきりいって大変。
まず、まともにお金を払ってくれない。かといって冒険者相手に払ってくれと強く出ることも出来ない。
下手に揉めるとケガをするのは僕だ。ケガは大変。次の日の仕事が出来ないだけですめばいいば最悪命を落としかけない。
だから加減は大事。
昨日だって1日中、荷物持ちをして500ダネだった。
でも、その前の日の採集も手伝ったのに文句だけを言われ何も貰えなかったことを思えば貰えただけでもマシ。
「そこのお兄さん、荷物持ちしますよ~」
「はんっ。お前みたいなひ弱なガキが役に立つかよ!!」
「あはは、ですよね~。(こわっ、優しそうだと思ったのにな)」
この世界には幾つもダンジョンがあるらしいけど、そんなダンジョンの中でも、ここの都市ダンジョンは広くて深い為、いまだに攻略されていない。
攻略と言っても最下層のダンジョンコアに名前を刻むだけで壊すことしない。
なんでも刻むだけで冒険者ガードにその印が出るんだと、僕にはよく分からない世界だ。
壊さないのは、壊すとダンジョンが消滅するらしいからだと冒険者達が話していた。
未だ地下何階層まであるかも分かってない。
魔物の魔石は地上の魔物よりダンジョン内の魔物の方が質が良く価値がある。
他にも魔物からのドロップアイテムや素材、ダンジョン資源、またダンジョン内に沸いて出る宝箱にも、希少価値の高い物が入っている事があるらしい。
だからこそダンジョンに夢見る冒険者が後を絶たない。ダンジョンは危険もあるが一攫千金を狙えるチャンスが幾つも眠っているのだ。
まあ、今の僕には魔物を倒せる力なんてないから関係ない話なんだけど、いずれ僕も……
そんなことを思いつ今日も僕は、ある中年冒険者の荷物持ちをする事になった。
「そこのお兄さんソロですか? お荷物持ちますよ?」
僕はお腹の出ている中年冒険者に声をかけた。余り強そうに見えない。どちらかと言うと駆け出し冒険者の匂いがするけど、稼ぎが0よりはいいと思った。
「んあ? お前がか? ふむ……まあ、いいだろう。俺はな……」
そう思って話かけたんだけど自慢話が始まった。これはまいった。
何でも自分はこれまでゴブリンを何体倒しただとか、屈強なオークも倒した事があるんだとか……そんな話なんて聞きたくないんだけど。雇ってくれそうなので我慢した。
そして最後に今日は10階層を目指すからとその中年冒険者は言ったのだ。
「そうだったんですか、凄いですね~、じゃ僕は戦闘の邪魔にならないように荷物持ちますね」
僕は荷物持ちの報酬さえ貰えればいいのだ。さりげなく中年冒険者の荷物に手を伸ばした。
「うむ、いいだろう! これが私の荷物だ小僧落とすなよ」
愛想良くした甲斐があった。気を良くした中年冒険者からいい返事が貰えたのだ。
(よし、今日はお腹一杯ご飯が食べれるぞ)
中年冒険者から荷物を預かり僕は気分良くダンジョンに入った。
ダンジョン内は中年冒険者の後を歩いた。
でもおかしなことにダンジョン内を数10分位は歩いたが、中年冒険者は入口から少し離れた辺りを行ったり来たりとふらふら歩いていた。
僕は思った。この中年冒険者はものすごく方向音痴なのではと。そう思い気を利かせてみるが、
「冒険者様。僕、地下2階までの道順なら知ってますよ。ご案内いたしましょうか?」
「ムッ! 案内はいらん。い、今は体を慣らしているのだ。余計な事は言わんでいい!」
「そうだったんですか、すみません。」
(いけない。失敗した。気分を害したら報酬が貰えなくなる、今度は慎重に話しかけないと)
もう余計なことは言うまいと、それから口を閉ざして中年冒険者の後を暫く歩いていると、ゴブリン3体と初めて遭遇した。
「あっ、冒険者様、ゴブリンが3体来ましたね。慣らしには丁度いいんじゃないですか?」
「で、出たよ。やっぱり出るのか……」
「はい? 何です?」
「ぁゎゎゎ、、き、きぇぇぇぇっ!!」
中年冒険者は突然ガタガタ震えて怯えだし、奇声と共に僕をゴブリンの前へと蹴り出した。
ドンッ!!
「えっ!! ちょっと……押さな」
そこで僕は囮にされたと理解したのだが、運が悪かった。
倒れない様にへんに踏ん張った僕は蹴られた事と担いでいた荷物の重さで体勢を崩した。
倒れて荷物を捨ててしまえば良かったのだ。でも、そうするにはすでに遅く、僕の目の前にはゴブリンがすぐ目の前まで迫っていたのだ。
ザクリッ
「……ぇ!?」
体勢を崩していてどうしようもなかった。僕はゴブリンの持っていた鋭い骨のようなもので脇腹を刺されていた。
ゴブリンのニヤリとした凶悪な顔がチラリと見える。
あっ、という間の出来事だった。
「あっ、ああ……」
異物の刺さる嫌な感覚だ、刺された箇所が熱くなるが、キズは思ったほど大したことなかったのか? 不思議と痛みはない。そう思ったが、ギャーギャー嬉しそうにゴブリン達が僕を取り囲もうと動きだし始めた。
(ま、まずいここにいたら殺される。逃げないと……)
僕は慌てて背中の荷物を捨て、入口に向かって駆け出した。
後からはゴブリンの足音がすぐ聞こえ始めた。どうやら僕を追いかけてくるようだ。
(逃げろ、逃げないと)
「はぁ、はぁ、はぁ、…はっ!?」
しばらく走るがゴブリンの足音を引き離せない。僕は焦った。でもそんな時、思い出したのは安全部屋のこと。
(あそこなら!!)
良い考えだと思い足に力を入れる。
(あれ?)
走り出して何れくらい経っていたのだろう? 長いような短いような自分でもよく分からないが、でも一つだけ分かったことがる。自分の身体に違和感を覚えるのだ。
ふわふわと地に足がついてない感じだ。
(おかしい)
しかも、だんだんと力が抜けていく。でも以前としてゴブリンの足音は聞こえている。ここで止まる訳にはいかない。僕は必死に足を動かす。
(見えたっ、あそこだ!!)
すぐ目の先に僕の望むトビラが見えた。
(あの安全部屋に行けば、逃げ切れるんだ)
僕の頭にはその事しかなかった、力を振り絞って走る。必死に足を前に突き出す。
吐く息は荒く口の中が鉄の味がする。
「はぁ、はぁ、はぁ!!」
(くっ、感覚がない、はぁ、はぁ、僕は走ってるんだよな?)
僕はもう走っているのか歩いているのかも分かってらいなかったが、
(ここだ! 助かっ……!!)
僕は安全な小部屋に転がるように逃げ込み、
(あれ、力が入らない)
ホッとする間もなく倒れていた。
そこで僕は初めて自分のケガの深さに気がついた。
(血が……)
押さえていた手にもべったり。よくここまで走ったもんだ。自分で自分を褒めてやりたいが、
(あれ、あはは、なんだ、もう痛みも何も感じてないや)
それも無理そうだと理解した。今の僕にこれ程の大ケガを治す術がない。
逃げるために荷物を捨てたせいでポーションもこの場にない。
(くそぉぉ……)
飛びそうになる意識を唇を噛み締めて辛うじて意識を繋ぎ止める。
悔しくて右手を地面に叩きつけようとしたが、それさえも叶わなかった。
力はすでに入らない。
「ははは、なんだ、よ、これ……もう……終わりなのか……ぁぁ、悔しいな……くそぉっ、くそぉぉぉ……」
涙で視界が歪む。
僕は孤児で親が居ないことよくバカにされてきた。
奉仕先では孤児と言うだけで見下され奴隷の様に扱われた。
冒険者達には役立たずはいらない、お前は足手なんだよと罵られた。
(くそぉぉ)
何時か僕も冒険者になってそんな奴らを見返したかった。力を示したかった。
(違う)
僕は誰かに必要とされたかったのだ。僕の存在を認めて欲しかったのだ。
(それなのに僕は……)
意識も朦朧としてきた、いよいよ僕はダメらしい。
(あれ…… ははは、懐かしいなぁ、思えば孤児院の頃は楽しかったなぁ、彼奴元気だろうか)
薄れていく意識の中で、僕は不思議な感覚を覚えた。
今日まで過ごした日々の出来事が駆け足で脳裏を過ぎ去っていくのだ。
そう、まるで走馬灯の様ような、走馬灯……
今まで使ったこともない言葉……不思議に思ったが、今の僕にはもう関係ないか……
朦朧とするなか記憶が更に遡り、過ぎていく、10歳、7歳……3歳……16歳、15歳、と僕の知らない深い深い記憶にまで。
(……? こういち……ってだれ? 僕? あ……僕なのか)
それは前世の記憶だった。日本という別世界で生きていた記憶。
クラスメイト30人と突然異世界に召喚され勇者と呼ばれた記憶。
クラスのみんなは勇者の証である光魔法のスキルを持っていた記憶。
自分だけ魔族が使うと言われた【暗黒魔法】のスキル所持者だった記憶。
他にも【身体魔強化】と【再生】という人族ではありえないスキル所持者だった記憶。
帝国に表面上はクラスメイトみんなを歓迎されていた。
凄いご馳走とかなり偉い人たちに歓迎されて……そこで記憶がかすれ飛び、僕はその日の内に毒殺された記憶だった。
(……)
(ああ、そうだよ。思い出した)
(僕は前世で江藤光一(エトウコウイチ)だった)
(あの日殺された僕は転生したのか? ははは、笑っちゃうな。折角思い出したのに僕はまた死ぬらしい)
僕は唇をより強く噛み締めてた。噛み締めすぎて唇からは血が滴れた。
それでも感じる痛みは微かなものだった。
だが、その少しの痛みが飛びそうになる意識を繋ぎ止めていたのだ。
すでに視界は真っ暗、体の状態も分からない。でも無意識に、
「ぃ、嫌、だ」
僕はかすれる声で呟いていた。
半分は諦めていた僕だが、転生していたと理解した僕、いや前世のコウイチがまだ死にたくないと訴えてくる。
「死に、はぁ、たく、ない」
僕は藁にもすがる思いで刺されたキズなど治ってしまえと念じた。
いや正確にはコウイチなのだが。異世界に召喚された際に所持していた【再生】スキルを思い出してのこと。
そんな都合のいいことなどあり得ないことなど分かっているが、それでも死にたくなかったのだ。
「はぁ。はぁ。僕は……まだ、死に、たく、ない……」
(【再生】)
(【再生】しろ)
「再、生、して、くれ……よぉ、たの、むっ」
(【再生】)
(【再生】するんだ)
「さ、い、せいぃぃ」
そんな時、
ズキンッ!!
感覚がなくなって僕の頭に激しい痛みが走る。
(痛いっ、頭痛がする)
ズキ、ズキッ!!
(うぐっ! 頭が割れるようだ)
額から玉のように冷汗が流れ落ちる。
尋常じゃない頭の痛さに僕は薄れていた意識が一時的にだが、はっきりとしてきた。
感覚も少し戻ってる?
ズキズキッ
(ぐぅ、頭が、中の血管がはち切れそうだ!)
「ぐっぁぁぁぁ!」
それでも何もしなければ死ぬだけだと理解している僕、いやコウイチなのかもうよく分からなくなっているが、それでも僕は信じるしかなかった。
(【再生】)ズキッ!
(【再生】)ズキッズキッ!!
ブチッ!!!!
血管が千切れるような激しい痛みが走るが、それでもやめることなどできない。
(ぐぁぁぁっ! さっ、【再生】)
ズキッ、ズキッ、ズキッ! ブチッブチッ!!!!
(く、そ、ま、負ける、も、んか……【再生】)
何度か頭の中の血管が弾ける感覚が襲い。痛みでどうにか繋とめていた意識もすでに限界。そう感じたときだった。
「ぐあぁぁぁ…!!」
ビリリッ!
突然、頭に中に電撃ような刺激が走り【再生】スキル発動と共にスキル取得のイメージが流れてきた。
【シオンは身体魔強化、再生、暗黒魔法、毒耐性スキルを再取得した】
僕の頭の中に無機質な音声が響いてきたのだ。
「っ!?」
(今のは? それに、なんだ? 脇腹がムズムズする)
頭痛はすでにない。腹部は元から感覚がない。僕はうっすらとだが目を開ける事が出来るようになっていた。
(なっ、こ、これは!?)
目を開けるとびっくり。僕の脇腹の傷が盛り上がり少しずつ塞がっていっているではないか。
モゾモゾと蠢いているようで見ていると気色が悪い。
「これが再生の力なのか?」
そんなキズも数分後には綺麗に完治していた。
「ははは」
思わず笑いが込み上がる。
「ははは、やっ、やった。やったぞ。僕は生き延びたんだ」
でも血を流し過ぎたせいだろうけど、体がすごくだるい。キズが治りホッとして僕はいつの間にか眠りについていた。
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