第146話
崇人が目を醒ましたのは、その直後だった。そして直ぐに感じたのは座っている場所の冷たさ。――どうやら彼は床の上に毛布一枚で眠らされていたらしい。
ただそれだけだというのに、寒気など感じなかった。
「ここは……?」
崇人は辺りを見渡す。
そこは独房のようだった。黒い壁に三方を囲まれ、残りの一方は鉄格子のようになっている。
窓も鉄格子になってしまっているし、頭上を見上げればカメラも回っているらしい。少なくともこの状況ならば脱出は不可能だろう。
「お目覚めのようね、タカト・オーノ」
鉄格子の向かいに、誰かが立っていた。
ハンチング帽が良く似合う少女だった。
「あ、あの……。ここはいったいどこなんですか? それに君は……?」
「姉さんのこと――忘れたなんて言わせないわ」
その言葉を聞いて、崇人は思い出す。
それは彼の中に今でも染み付いている、ある少女の記憶だった。
目の前の女性は言った。
「確かにあなたは世界的に有名なリリーファーの……その起動従士だったかもしれない。でも、あなたが目の前にいながら姉さんは死んだ! あなたが敵にみすみす捕まってしまったから母さんも父さんも死んでしまった……! あなたのせいで……私はひとりぼっちになったのよ……」
彼女は鉄格子を思い切り殴り付ける。
しかしながら女性の力で鉄格子を破壊するなど荒唐無稽な話である。そんな簡単に壊れるわけがない。
「あなたが、あなたさえ生きていなければ――!」
「やめろ、シンシア!」
その声を聞いた彼女――シンシアは思考を停止した。そして直ぐにその声の主が誰であるか理解し、踵を返し敬礼する。
そこに立っていたのは、マーズだった。
「ま、マーズ……。お前なのか?」
崇人の言葉にマーズは反応しない。
崇人の言葉は矢継ぎ早のように続く。
「僕はあれからいったいどうなったんだ? インフィニティに乗り込んだところまではギリギリ何とか覚えているんだが……」
しかしマーズは彼の話を最後まで聞くこともなく、踵を返した。
「お、おい! マーズ、どういうことだよ! 何か一言くらい言ってくれてもいいんじゃないのか!?」
しかし、それでもマーズは反応しない。
それに付いていくシンシアは崇人に冷たい視線を一瞬だけ送り、そして去っていった。
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