第8話



「っ!」

 腕を、掴まれた。

「あっ、ごめん」

 町田くんはそう言ってすぐに手を離す。私は思わず掴まれた方の腕をさする。

「………」

「………」

 彼は少しの間黙っていたが、やがて何かを言おうとして、口をぱくぱくさせた。

 しかし、発声までには至らなかったらしく、結局黙り込んでしまう。

「………」

 私も、何を言えばいいのか分からなくて、ただなんとなく腕をさする。

「…悪かったな。その、急に掴んで。…痛くないか?」

「うん。大丈夫…」

 私は頷いて答えた。


「…、…っ、」


「…なるかっ」


「おーい!タオル取りに行くのにいつまでかかってんだよ‼︎」

「…あっ」

 振り返るとユニフォーム姿の男子生徒が廊下を走ってくる。町田くんはその姿を見て、慌てて教室に入りロッカーからタオルを取ってくる。


「悪い鳴上。…明日!…明日、昼休みに屋上に来てくれ!」


「え、…」


「気を付けて帰れよーっ!」


 町田くんは、こっちを振り返り、タオルを振りながら走っていった。


 明日、昼休み、屋上…。


「もしかして…」


 本当に、


「町田くんが、…リュウリィ…?」

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