アイドルのSNSの安全とその代償

ちびまるフォイ

見えるマネージャーの優しさと人間性

「マネージャー。それで今回の手術はなんだったの?

 私にどこか悪いところでもあったの?」


「いやいや、そんなことはないよ。むしろ健康体さ。

 だからこそ、脳にSNSアカウント機を入れたんだ」


「なにそれ!? 何勝手にやってんの!?」


「あっちゃん、最近アイドルの人気が出てきて忙しいでしょう?

 それに加えて、SNSでの宣伝や情報発信も重荷になっている」


「まぁ……それはそうだけど」


「その脳SNSなら、あっちゃんが感動したり

 心が大きく動いた瞬間を自動でSNSに投稿してくれるよ。

 いちいち写真を撮ったりする必要もないから手間いらず!」


「マネージャーがそういうなら」


あくまでも自分のことのためにやってくれた

マネージャーの気持ちに答えたいと思った。


仕事場を出ると、すぐにファンが出待ちしていた。


「あっちゃん、お疲れ様ー―!!」


「え、マネージャー。今回の仕事って非公開じゃなかったっけ?」


「ああ、熱心なファンはSNSの情報で場所を特定できますから。

 それにほら、脳SNSで自動送信されてるし」


「いや私ぜんぜん心動いてないよ!?」


「まぁ自動送信の設定値を最低にしてますからね」

「なにやってんのよ!!」


マネージャーの設定のおかげであらゆる行動がSNSに投稿された。

以前からプライベートなんてないようなものだったが

脳SNSアカウントをつけてから一層なくなった気がする。


「マネージャー。脳SNSやめたいんだけど」


「どうしてですか? 導入してからフォロワーも順調に増えてます。

 SNS上でお仕事の依頼もどんどん入るようになったんですよ」


「自動送信で更新頻度が増えるのはいいけど……。

 なんか最近すごく息苦しいの」


「これも有名税だと思ってください。

 それに、これを取り付けた理由はSNS宣伝だけじゃないんです」


「どんな?」

「あ、もう出番ですよ」


バラエティ番組の収録がはじまり、ステージへと出ていった。

マネージャーはああいったものの自分の時間が取れないストレスは日に日に大きくなっていった。


そして、お忍びである店を訪れた。


「いらっしゃいま……あれ!? アイドルのーー」


「しーーっ! 大きな声出さないで!」


「うちみたいなレンタル人間になんの御用ですか?

 アイドルくらい容姿端麗なら、ほかの人の体に入る必要もないでしょう」


「おおありなのよ。今はこの脳から離れたくてしょうがないの」

「まあいいですけど」


利用料を払い、自分の体を捨てて、どこにでもいそうな別人になった。


「いかがですか? もう誰もあなたとは思いませんよ。

 別人ライフをお楽しみください」


「あーーやっと解放された!!」


レンタルなので時間は制限されているが、自分の体を捨てて初めて自由になれた。

普通に買い物をしても、お出かけをしてもSNS投稿されることはない。


さんざん自由を満喫してから店に戻ると、ひどい惨状になっていた。


「ちょっと、この荒れようはなに!? いったいどうしたの!?」


「ああ、すみません……実は強盗に入られまして……」


「あれ? あれ? 私の体は!?」


「それがあなたの体も盗まれてしまったんですよ。

 今はどこにあるのか……」


「そんな!? 私の体なのよ!? 一生このままなんて無理!!」


すぐにマネージャーに連絡しようとしたが、ふと手を止めた。

SNSで私がコメントを発信しているのに気づいた。


「盗んだ人、私の体を使ってる!」


SNSに自動投稿されることを知らないのだろう。

随時更新されるSNSの情報から場所を特定すると、すぐに急いだ。


近くまで行けばどこにいるかはすぐにわかった。


「あの人だかりね!! 待てーー!!」


ざわつく人の視線の先を追っていけば私がいた。

学生時代に習っていた護身用レスリングの低いタックルで私を仕留めた。


「ちょっと! 私の体を勝手に盗むなんて許せない!

 変なことしなかったでしょうね!?」


「め、めっそうもない!! 大好きなあっちゃんの体を雑に扱うなんて、

 そんなこと絶対にするわけないです!」


「え……? あなた、もしかして私のファン?」


「はい! ずっと、デビュー当時から応援してました!!」


傍目には馬乗りになる一般人と、

下敷きになっているアイドルの立場逆転会話に見える。


「あっちゃんのことを追いかけるうちに、どんどんあなたみたいになりたくなって……。

 あなたが人間入れ替えの店に入る情報をSNSで見かけたら

 自分でももうどうしようもなくなって……」


「そうだったの。でも、結局は自分のわがままじゃない」


「はい、この体はすぐに返します。

 あっちゃんが悲しむ姿なんて見たくないことわかったんです」


奪われていた私の体は返却されもとに戻った。

騒ぎを聞きつけて遅れながらもマネージャーがやってきた。


「ああ、見つけた。あっちゃん、大丈夫でしたか?」


「なんとかね。今回ばかりはSNSをやっていて良かったわ」


「そうでしょう。その脳SNSアカウントさえあれば

 なにか困ったり、ピンチのときも心が動かされて投稿されます。

 つまり、あなたのフォロワー全員が味方にもなってくれるんですよ」


「そういう方向では考えなかった」


「そう。だからあなたに取り付けたんです。

 アイドルはいつどんなときに襲われるかわかりませんから」


「なるほどね、たしかにこれなら一番安全な気がする。ありがとう」


「まぁ、気をつけることといえば、不適切なことを載せて凍結されるくらいですかね」


「え? アカウント凍結されたらどうなるの?」


マネージャーの言葉に心が大きく震えたのを感じた。




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あっちゃん@アイドル隊長 1分前

@Achan.com


アカウント凍結で脳も凍結されるなんて聞いてないよ~~!><


#脳SNS #パンケーキ

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