JSとお話

 最後にJSと話したのはいつだっただろうか? 最近ではJSに話しかけようとするだけで通報されてしまうので、あまり覚えてない。


 しかし今、俺はJSと対話の場を得られた。合法的にJSとお話できるなんて、しかも対価は飴。これって許されるのか? 俺、後から訴えられたりしないよな?


 だがいつまでもウダウダ考えていても、佳澄ちゃんに失礼だ。野生のポリスメンが周辺に潜んでないかという不安を振り切る。


 意を決して口を開、


「う……ッ」


「ちょっ、あんた何で泣いてるのよ!」


 口を開くより先に涙腺が崩壊した。


 だって仕方ないだろ!? 誰にも咎められることなくJSとお喋りができるのなんて、本当に久しぶりなんだから! 久々の生JSを前にしたら泣くのは当たり前だろ!?


 そんな感じで泣いてる俺を心配したのか、胸元に飴の袋を抱き締めた佳澄ちゃんが声をかけてくる。


「あの……お兄ちゃん大丈夫?」


「……今なんて?」


 JSから声をかけてくれたこと以上に、今とんでもない呼び方をされた気がする。


「え? だからお兄ちゃんって……呼んじゃダメだった?」


「そんなことはない! そのままでお願いします!」


 お兄ちゃん。妹が兄を呼ぶ際に使われる単語の一つ。他にも兄貴、兄ちゃん、お兄たまなど様々な呼び方があるが、ここでは割愛しよう。


 重要なのは、俺がお兄ちゃんと呼ばれたことだ。俺は佳澄ちゃんと血は繋がってないが、親しい年上の男をそう呼ぶこともあるので珍しいことではない。


 問題は呼ばれた際の破壊力。


 JSとお兄ちゃん呼びの組み合わせ……これは最早核兵器並の破壊力じゃないか? 今すぐ国連にJS妹禁止条約の必要性を訴えるべきでは?


「本当に大丈夫?」


「大丈夫だよ。久々の生JS――じゃなくて、佳澄ちゃんが可愛いすぎて少しクラっときただけだから」


 ちょっとキザなセリフだが、JSを悲しませてはいけないのであえて使う。


「私が可愛い? えへへ……」


 頬を赤く染めながらはにかむ佳澄ちゃん。どうやら警戒心は解けたようだ。これで心置きなく取材ができる。


 しかし、ちょっと照れるJSもいいものだ。……ヤバい、可愛いすぎて興奮してきた。


 静まれ俺の煩悩! ここでよくを見せればヤクザの手によって海の藻屑と化すぞ!


 煩悩を沈めると、気を取り直して佳澄ちゃんに話しかける。


「まずは自己紹介をしようか? 俺は菱川透。君のお父さんと一緒の会社で作家として本を書いてるんだ」


「そうなの? お兄ちゃん凄い!」


「いやあ、それほどでも……あるかな?」


 ヤバい。JSに誉められるって、こんなにも心ときめくものなのか。これ、お金取ってもいいレベルじゃないか!


「ええと、じゃあ次は私だね。私は矢沢佳澄。小学三年生です!」


「へえ小学三年生か……ゴクリ」


「ねえ変態。今何で喉を鳴らした?」


 紅葉がドスの利いた声と共に俺の肩に手を置く。ミシミシとおかしな音と激痛が走るのでやめてほしい。


 俺はちょっと『小学三年生』という単語から『食べ頃』という単語を連想しただけ。決して他意はない。ゴクリンコ。


 そんなことよりも今は佳澄ちゃんだ。自己紹介は終えたので早速取材に入ろうと思う。


「佳澄ちゃん今どんなパンツ穿い――」


「何か言い残すことはあるか?」


「目にも止まらぬ速度でどこから持ってきたのか分からない縄で俺を縛りあげるまでの手際……流石はヤーさんだな」


 ヤーさんに肩で担がれながら拘束するまでの手際の良さを称賛する。


「はっはっは、そんなに褒めても君を海に捨てることに変わりわないぞ?」


「ですよねー」


 何となく分かってたよ、チクショウ!


「菱川君、君のことは五分ほど忘れないでおこう」


「俺の命はカップ麺と同レベルか!」


「さらばだ菱川君!」


 ヤーさんが大きく振りかぶって俺を投げようとした次の瞬間、


「待ってください!」


 紅葉の制止の声がその場に響く。


 もしや俺のことを助けてくれるのか? 流石は幼馴染。今ほどこいつが幼馴染であることを嬉しいと思ったことはない。


「万が一浮いてきても困りますから、捨てるならコンクリ詰めにしてからにしましょう」


 違った。ヤーさん以上にヤクザらしい手口で俺を殺しにかかってる。この幼馴染の辞書には『容赦』の二文字はないんだろうな。


「お前らには血も涙もないのか!?」


「今から海に捨ててあげるから黙りなさい変態」


 ダメだ。紅葉の瞳は殺意に染まってる。あまり頼りたくはないが、最後の手段としてイカレJCに助けを求める。


「助けてくれ華恋!」


 最後の手段なのは、仮に助けてもらったとして後で何を要求されるのか分からないから。だがこの世に命に変えられるものはJS以外はない。


 仮にも俺を師匠と呼ぶのだから、助けを乞われたら応じるのは当たり前だよな?


「さようなら師匠。師匠のこと、三分は忘れません」


 俺の目論見はあっさりと崩れ去った。あと覚えてる時間がヤーさんより短いのが地味に心を抉られる。


「どうしてだ華恋!? 俺の弟子を自称するなら助けてくれよ!」


「嫌です」


「なぜ!?」


「師匠は一度痛い目を見るべきだと思います。……別に佳澄ちゃんにデレデレしてるのが気に喰わないとか、そういうことじゃありませんから」


 何かよく分からないとこを言ってるが、とりあえずこの場に俺の味方がいないことはよく分かった。


「コンクリ詰めは手間がかかるからこのまま海に捨てよう。縄で縛ったままなら、万が一にも浮いてくるようなことはないだろう」


 最早希望はない。あるのは死のみだ。……もし来世というものがあるのなら、JSの自転車のサドルになりたい。そして思う存分JSの柔尻を堪能できますように。


 そんな想いを胸に俺はヤーさんの手によって海面へとダイビング、


「待ってパパ!」


 しそうになったところで、佳澄ちゃんの一声でヤーさんが動きを止めた。


「どうしてこんなことをするの、パパ? お兄ちゃんが可哀想だよ」


「佳澄……確かに彼は可哀想だ……主に頭が」


「おい」


 何だこのヤクザは? 人を煽る天才か?


「佳澄分かってくれ。これは彼――ロリコンには必要な仕置きなんだ」


「ろりこんだって人間なんだよ? 縄で縛って海に落としたら死んじゃうよ」


「それが世のためだ」

 

 人のことロリコン呼ばわりすることと、さらりと人の死を世のためと言い切ったことにツッコミたい。


「お願いパパ! お兄ちゃんを許してあげて!」


「むう、しかしだな……」


「言うことを訊いてくれないなら、もう口利かないから!」


「菱川君大丈夫か? 縄の跡が付いたりしてないか?」


 この変わり身の早さ、いっそ清々しいな。まあ俺も逆の立場なら同じことをするので気持ちは分かるが。


「ほら佳澄? 菱川君の拘束はもう解いたぞ? だからもうパパと口を利かないなんて言わないでくれ?」


「うん、ありがとうパパ。口を利かないのは島に着くまでにしてあげる」


 佳澄ちゃんは可愛いらしい外見とは相反して、強かなSだった。


「……グスン」


 実の娘に泣かされるというのは、父親としてどうなんだヤーさん。あといい年した大人の男が泣くのは、見てる側としても辛いものあるから他所でやってほしい。


 そんなやり取りをしながらも、船は目的地に向けて着々と進むのだった。


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