そしてJCは……
「それじゃあ、結局華恋は作家になれたってこと?」
「一応な。あ、まだ結果は一般公開されてないから下手に周りの人間に言いふらしたりするなよ?」
「別にしないわよ。それにしても、華恋もこれで作家の仲間入りか……」
我が家のリビングのソファーに腰掛けながら、華恋が作家になったことを伝えると紅葉はしみじみと呟いた。
新人賞の結果関連の騒動から一週間の時が過ぎた。
本日は土曜日。毎日が休みの俺には関係ないが、世間一般では休日と言っていい曜日だ。
「でも華恋が作家になれたってことは、透は華恋の師匠ってことよね?」
「何でだよ?」
「だって華恋と約束してたじゃない」
「約束? ……ああ、あの時のやつか」
確か弟子にするとか何とか。そういえば、そんな約束もしてたな。完全に忘れてたよ。
「まさか忘れてたの? 酷い男ね。そんなんだと、そのうち華恋も愛想を尽かしちゃうわよ」
「うるせえ、余計なお世話だ。……そもそも、あいつか俺の弟子になるのは無理だぞ?」
「え、どうして?」
「どうしても何も、華恋との約束の内容をよく思い出してみろよ」
「約束の内容? ええと確か……あ」
そこで何かを思い出したかのように、紅葉は声をあげた。
俺と華恋の約束は、あくまで
華恋の母親も大賞を取ることを作家になるための条件としていたので、紅葉の中では作家になること=俺の弟子になれると勘違いをしてしまったのだろう。
「だから今の華恋は、俺の弟子を自称する頭のおかしいJCというわけだ」
「肩書きだけならあんたと並んでヤバいわね」
「失礼な。俺をあんなイカレJCと一緒にするなよ」
俺のようなJSへ無償の愛を注ぐ紳士と、わざわざ京都から来て人様の家に不法侵入をするクレイジーJC。月とスッポンぐらいの差がある。
「華恋はこんな変態のどこを好きになったのよ……」
紅葉が何事か呟いてるが、どうせ大したことではないだろうしあえて無視する。
「まあ、せっかく頑張って作家になったんだ。何かご褒美でもとは考えている」
いずれあいつが出す本の帯に推薦文書いてやったりすれば、喜ぶかもしれない。
まああいつの本が出版されるのはもう少し先だ。ゆっくりと考えるとしよう。
「そういえば気になってたんだけど、今日華恋って来ないの?」
華恋がリビングを見回しながら俺に訊ねる。
「何で俺に訊くんだよ」
「だって華恋のことならあんたに訊いた方が早いだろうし」
「お前の言いたいことは分かるが、別に俺はあいつのことなら何でも知ってるわけじゃねえよ。ただ、今日華恋は旅館の手伝いをしてから来るから遅いらしいぞ」
「やっぱりあんたに訊いた方が早いじゃない」
紅葉のどこか冷めたような視線が突き刺さる。
「でもそっか。華恋は旅館の手伝いで遅くなるのね……ん? ねえ透。確か華恋は母親に作家になることを認められたのよね?」
「ああ、そうだ」
「それならどうして旅館の手伝いを? もう旅館の跡を継ぐ必要はないんでしょう?」
「華恋曰く、『別に旅館が嫌いなわけじゃありません。ただ、作家の方が好きなだけです。だから旅館の跡は継ぎませんが、お手伝いはこれからもするつもりです!』とのことらしい」
せっかく旅館の縛りから自由になったのに、わざわざ自分から旅館の手伝いなんて面倒事をするとは、あいつも中々の物好きだと思う。まあ変に真面目なところは、華恋らしいと言えば華恋らしいが。
「華恋は真面目ねえ。どこかの変態に見習わせたいわ」
なぜか紅葉が俺の方を見てくるが、まさか変態というのは俺のことじゃないよな?
今の発言の真意を問い質そうと俺が口を開いたその時、軽快なインターホンの音が耳に届いた。
「…………!」
そして気付けば、俺は玄関へと駆け出していた。
このタイミングだ。誰が来たのかなんて嫌でも分かる。
会うのは一週間ぶりだ。たったの一週間なのに、なぜか随分と久しぶりに会うように感じてしまう自分に思わず苦笑を浮かべてしまう。
気付かないうちに、菊水華恋の存在は俺の中でかなり大きくなっていたようだ。
俺は手早い動きでドアを開く。するとそこには、
「師匠、弟子にしてください!」
――相も変わらず弟子入りを懇願する一人のJCが立っていた
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