第2章

馬車は私の体を気遣いながら小休憩を挟み、速度もゆっくりの状態で隣国へ行った。本来ならついて直ぐに国王陛下に謁見となるけれどそれは明日になった。疲れているだろうからと用意された部屋へ案内される。

「お帰りさないませ。ダリア様」

赤茶の髪を結い上げ、前髪も邪魔にならないようにオールバックにしている。女性にしては高身長で、左目の下から右目の下まで雀斑がある。顔立ちはあまり目立つ顔立ちではないけれど、姿勢がよく、雰囲気美人の女性だ。年齢は30代前半で、新緑の瞳をした女性。彼女は私を見て、腰を折って私を出迎えた。

母の母国なので間違いではないけれど。でも、私は他国の貴族だ。お客様扱いになると思うのだけど。彼女は私を見てにっこりと微笑んだ。

「お嬢様の母君はわが国の王女殿下です。たとえ、他国の貴族を名乗っていてもここがあなた様の母国であることに変わりはありません。なので、お帰りなさいませ」

私の疑問を読み取った女性はそう言って微笑む。

「ただいま戻りました」

私の言葉に女性は嬉しそうに微笑む。

「私はダリア様の専属侍女となります。ブリジット・スティーヴと申します」

「スチュワート公爵家長女、ダリアです。これからよろしくお願いします」

私はドレスの裾を持って、軽くお辞儀をした。

「はい。ご入浴の準備が整っております。長旅でお疲れでしょうから、ゆっくりと疲れをとってくださいませ」

「ありがとうございます」

「では、お着替えのお手伝いを」

そう言って手伝おうとしたブリジットに私は首を横に振った。

「着替えなどは一人でできます」

その言葉にブリジットは驚き目を見開く。それもそうだろう。下級貴族ならともかく、王族を母に持ち、さらにウッドミル王国建国当初からある公爵家の娘は一人で着替えられないのが普通だ。そもそも一人で着替えられるドレスなど着てはいない。

でも私が着ているのはとても簡易なドレスなので一人で簡単に着せ替え可能だ。それに基本的に放置されていたし、使用人たちも私の部屋の掃除などはしてくれていたけれどこちらが何かを頼まなければ何もしてはくれないのだ。だから、私は自然と一人で何でもできるようになった。

ブリジットは驚いた後に一瞬悲しそうな顔をした。でも、アンドレアの息がかかった公爵家の使用人とは違い、王族が雇っているだけあって彼女はとても有能な侍女だった。すぐに、にっこりと微笑む。

「左様でございますか。では、私はそば近くに控えておりますので何かあった際はご遠慮なくお声をかけください」

「はい。ありがとうございます」

「こちらは、夜着にございます」

ブリジットはとても手触りの良いナイトドレスを私に渡してきた。しっかり持たないと、つるんと手からすり抜けてしまいそうだ。多分、絹で出来ているのだろう。光沢も良い。

私が持ってきた夜着は下級貴族が使っているようなもので、ざらざらしている。それにちょっとほつれたりもしているので一応、目立たないように縫ってある。

「あの、自分の夜着があるのですが」

なぜだろう。にっこりと笑ったままなのにブリジットからブリザードが見える。もちろん、疲れが見せた幻覚だとは思うけれど。

「そちらはだいぶ古くなっておられるようですので。こちらは、陛下とカーティス殿下がご用意されたものです」

王と王太子殿下が自ら選んだとなれば断るわけにはいかない。そもそも、なぜ自ら選んだ。そんなの使用人に適当に選ばせとけばいいのに。

「こちらはお二人からのプレゼントと思って、受け取っていただけませんか」

「・・・・・プレゼント」

「はい。今まで何もできなかった分の謝罪も込めてになります」

父からドレスや装飾品をもらったことはある。誕生日の時も。けれど、いつもベティが欲しがった。結局は彼女の物になり、私の手元には何も残らなかった。でも、ここにベティはいない。このプレゼントは本当に私だけの物なのだ。そう思うと、とても嬉しくて私は手にあるナイトドレスを大事に抱えた。

「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」

「はい」

私の言葉にブリジットは嬉しそうに笑った。そんな笑顔を向けられることに慣れていない私は正直、戸惑いの方が大きいけれど、心は不思議と温かった。

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