第6話

「・・・・婚約ですか」

「ああ。実に喜ばしいことだ」

真面目に修道院での生活を過ごした私は規定通り五年で修道院を出ることができた。あそこは国税で成り立っているので用のない人間は問答無用で出されるのだ。もちろん、国税だけではなく、あそこにいる貴族の関係者からの支援が大半だが。

修道院を出て2年。私は12歳になっていた。そんな私に第二王子であるコーディ殿下との婚約話が持ち上がっていた。

第一王子であるクリスティアン殿下は現在16歳。彼は既に同盟国であるトロイド帝国の第一王女アルマ殿下と婚約している。クリスティアン殿下は体が弱く、第一王子で、既に16歳ではあるがまだ立太子されていない。それもあって、現在わが国は第一王子派、第二王子派、中立派の三つの派閥がある。

クリスティアン殿下にはトロイド帝国の後ろ盾がある。そうなると均衡を保つためにはエストレア王国の血を引き、尚且つ四大公爵家の長女である私との婚約が妥当と王家が考えたらしい。

王家と縁戚、運が良ければ自分の娘が王妃になれるかもしれないという夢を見ているのか父はとても嬉しそうだ。その隣にいるアンドレアはとても不服そうだけど。

それもそうだろう。自分の娘ではなく、私が選ばれたんだから。でも、こればかりは仕方がない。だって、ベティの半分は平民の血だから。それにアンドレアは元娼婦。父は何の疑いも持ってはいないが、本当に彼女が父との子供だとは限らない。だって、父と同じ茶髪で青い目だけど、ありきたりな色だもの。

「私は反対ですわ。ダリアは修道院に行かなければならないほど出来が悪いのですよ。王族の嫁など務まるはずがありませんわ。それに平民の血が流れているかと言って実の妹を軽蔑するような性格の悪さでは」

不満そうに口を尖らせ、可愛くおねだりをせがんでるみたいに甘い声で言うアンドレア。父はそんなアンドレアの腰を抱き、額にキスをする。仲が良いのは良いことだけど、そういうの他所でやってもらえないでしょうか。・・・・気持ちが悪い。

「仕方がないよ。幾ら四大公爵家の一つと言っても王家からの打診だ。そう簡単に断れるものではないよ。それに修道院の件は、ダリアは療養中ということになっているから外部に情報が漏れることはない。社交界デビュー前の令嬢が外部と接触することはまずないから。ダリアが邸にいなかったなんてまずバレるはずがないからそこらへんは問題ない」

懇切丁寧に的外れな説明をする父。当然のことながらアンドレアの機嫌は治らない。

「5年も修道院に行っていたのに何も治ってはいないようですが。現に私の可愛いベティが未だにダリアのいじめを受けているのですもの」

それは仕方がない。だって、本当に修道院に行かないといけない人間が行ってないのだから。性格の悪さに拍車がかかることはあっても治ることはないだろう。

「ダリアも王族の婚約者になれば自覚が出てくるよ。ダリアはまだ12歳の子供なんだから。長い目で見てやってくれ。ダリアも王族の婚約者になるんだ。くれぐれも浅慮な行動はしないように」

「・・・・承知していますわ」

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