プリンセスの手

「どうして、こんなことに……」





少女たちと父は、何者かに連れ去られた。





 勘違いでなければ、このゲームの筐体の中へ。





 これが夢なら早く醒めてほしい。そう思うが、侵入者を追いかけてきたために上がった息と、夜気に冷やされた頬の感覚、スーパーマーケットから聞こえる音楽はどこまでもリアルだった。





 筐体の画面に浮かんでいた波紋が、完全に凪いだ。





 扉は閉ざされてしまった……。そう思ったが、





「……?」





アキラの上着の胸ポケットから、白い光がぼんやりと溢れ出した。と、それと共鳴するかのように再び画面が輝きだし、そこにプリンセスの姿が映し出された。





 月の光を集めたような白銀の長い髪に、ミルク色の白い肌と、エメラルド色に澄み切った瞳、そしてフリルが目一杯ほどこされた純白のドレス――





 それは紛れもなくプリンセス。しかしシリーズが変わって、それと共にプリンセスもゲームから『引退』をしたはずだ。だから、この画面に映るはずがない。





『アキラ……』





 気のせいだろうか、今、画面の中のプリンセスがこちらの名を呼んだ気がした。





 立ち尽くすアキラに、プリンセスは悲愴な表情で手を伸ばしてくる。





『お願い、アキラ……みんなを、助けて……!』





「――――」





 プリンセスが自分の名を呼び、自分に助けを求めている。





 何もかも夢のようで、理解などできるはずもない。だが、アキラはプリンセスの手へと手を伸ばす。まるでアキラのほうこそが助けを求めているかのように。





なんの感触もなく、アキラの手は画面の中へと滑り込んだ。そしてその手を、柔らかく、冷たいプリンセスの手が確かに握った。





 瞬間、身体は重さを失って浮き上がり――画面の中へと吸い込まれていった。

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