ロリっ子かけっこ
鵜飼 春
全国の舞台
「秀太ぁー集中!」「腕意識しろよぉー!」「頑張ってくださーい!」
正直僕自身、この競技を始めたたころはこんな舞台にこれるなんて思っていなかった。
というか、想像すらしたことがない、出来なかった。
「シィーー」
審判の声で競技場内が静まる。
「on your mark…」
そのコールが聞こえた途端僕は瞬時に意識を切り替えた。もう癖になってしまっているようだ。
1メートル程前にあるスターティングブロックに向かいその後ろでジャンプし、軸を身体の中心に意識させる。
「よし!」
歩数を図りスターティングブロックに足をかけ、レーンの先を見つめレースに意識を集中する。
「set…」
「バァン!!!」
その瞬間僕は、誰よりも速くブロックを蹴り出す「ガキン」という鈍い音がする。低い姿勢からぐんぐんと加速してゆく。
約30メートル位までくると、徐々に姿勢を上げ始めトップスピードに乗っていく。
50メートル地点まで来るともう、両端のレーンには誰も見えなくなった。
これからは記録との勝負だと僕は思う。
更にスピードを上げ、後ろの選手との距離が更に広がっていく。
タッタッタッタッ
意識が朦朧とし、何も聞こえない。苦しい。
その時ふとレースの前の会話をふと思い出す。
約二時間程前の話
僕は100メートル決勝に向けてアップする為にサブトラックへ向かっていた。
すると横から声がかかる。
「あの!…吉岡秀太さんですか?」
明らかに同年代に聞こえない声で、というか明らかに幼い。
しかし僕は直ぐに振り向く。
やはり明らかに小学生のようだ。
肌は雪のように白く、全く日焼けをしているよいには見えない。陸上やっているわけではないのだろう。
「うん。そうだけど、どうしたの?」
そう疑問に思ったことを聞く
すると直ぐに
「あの!私、吉岡さんが走っているところをこの前の地区大会で初めてみて…」
そして少し顔を赤らめて、しかしじっとこちらの目みつめたまま
「その…凄くカッコいいなって思って…私も陸上やってみたいって思って…」
正直いきなりこんなこと言われてびっくりした。
しかし、僕自身このように直接言われたことなどないし、僕がきっかけで陸上をしたいと言ってくれるのはすごく光栄なことだ。
なんか僕ときっかけは似てるな~と思っていると少女は続けて
「もし良かったなんですけど、迷惑ではなければ私に走りを教えてくれませんか!!」
と全身の勇気を振り絞ったような声で。その証拠に今身体中が震えている。
またまたびっくりだ。見ず知らずのの子にいきなりこんなことを言われるなんて。
しかし、地区大会で僕を見たということは、もしかして知り合いの親戚の子か、近所とまではいかなくとも、かなり近い距離に住んでいるのではないか?ならば一緒に少し練習するくらいいいかなぁといった短絡的思考で
「う~ん…わかった。少しくらいなら」
直ぐ震えは止まり、幸せそうな表情で
「ほんとうですか!ありがとうございます!」
僕はその表情見て少し笑いながら
「大丈夫だよ。だけど今から準備しないといけないから、また後でね」
「はい!決勝、私も精一杯応援しますから頑張って下さい!!」
僕はその言葉を聞き手を振りながら、小走りでサブトラックへと向かった。
「もしかして覚えてないのかな。」
少女は秀太には聞こえないような小さな声で、少し残念そうな顔でそう言った。
僕はスッと意識が切り替わる
残り約15メートル僕は、ゴールに向かって身体の力を抜き誰の追随を許さず1位でゴールした。
ふとタイムをみる、すると競技場内がざわめきだす。
正式タイムがでた次の瞬間競技場内が歓声につつまれた。
「今年の男子100メートル決勝優勝は吉岡秀太選手です!
そして長年破られなかった中学生新記録の更新です!!」
正式タイム10.52
これは僕吉岡秀太が中学校夏最後の全国大会での出来事。
そしてあの少女と再び出会う少し前のお話
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