いつもと違う夜

帰り道そろそろ本格的に寒くなってきたと僕は感じる。さっきまでは、伊藤さんの話が衝撃的すぎて寒さを全く感じ無かったのに。


「あっ!そうだ。明日雪乃と学校行くんだった!」


緊張の糸が切れて不意に思い出した。腕時計を見ると8:30分を指していた。

「ヤバっ。早く帰らないと!」

僕は、そう言い一呼吸置いて、少しの街灯が照らす夜道を全速力で駆け抜けた。



約10分程で家まで着いた。途中久しぶりに全速力で走って盛大にこけたとは、口が裂けても言えない。

「ただいまー」

リビングのドアを開けると、妹が一人ドラマを食い入るように見ていた。


吉岡千尋。

小学四年生。僕の唯一の兄妹だ。僕と違って陸上を本格的にやっているわけではない。ただ母さんの話を聞く限りでは、体育それに加えて勉学の成績が学年でもトップクラスらしい。


すると、ふと千尋は僕の顔を見て

「寒いから早くドア閉めてよ」

そう一言言い放ってまたテレビへと視線を戻した。

最近こう言った風に必要最低限の会話しかしてくれなくなった。僕以外の家族とは、普通会話してるのに。正直寂しい。



僕は、その後風呂入ったりなどの寝支度を済ませ、少しリビングで妹とテレビを見た後

「じゃあもう寝るから」


「なんか今日寝るの早いね」


ほう、これまた珍しい。正直「うん」の一言だけしか反応してくれないと思っていたのに。

今までは部活の朝練なんかで寝るのが早かったのだが、もう中学の部活は引退したので、一時間ほど寝るのが遅くなっていた。久しぶりに早く寝ると聞いて、少し気になったのだろう。


「今日少し疲れてるからね。後、明日雪乃と一緒に学校行く事になってるから。」


「…雪乃ばっかりズルい」


「なんか言った?」


すると再びいつもの調子で

「何でもない、おやすみ」


「うん、おやすみ」



そう言って僕は、二階の自分の部屋へ戻った。

「明日、青葉陸上競技場で何があるんだろう。そこで色々聞けるって伊藤さんは言ってたけど。」

そして僕は、ずっと楓ちゃんの苦しそうな顔が頭から離れなかった。

もう寝よう、明日全部わかるから。

そう心の中で思い、意識が途切れるのは五分もかからなかった。




ピピッピピッピピッピピッ

カーテンの隙間から差し込む朝日と、スマホのアラームで意識が徐々に覚醒していく。やはりこの時期になると、朝布団から出るのは、中々に苦痛だ。ここ最近は、少し時間に猶予ができたので、このまま二度寝へとシフトしていたのだが、今日はあまり眠りが深くなかったようで、大会当日の時のように起きる事ができた。

よしっ!下に降りよう!

そう決心して、慣れない寒さの中へと足を踏み出した。



下へ降りてリビングを開けると、母さんと千尋が朝食をとっているとおもったのだが…

「あっ、おはっよー秀太!遅かったね。あと、集合時間分かってる?」

そこに居たのは、いつもと変わらない様子の千尋と不気味なほどの笑みを浮かべた雪乃がいた。

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