玉石とすすめ

寧々(ねね)

第1話 チュートリアル

 古来より、石は人を支えた。

 古来より、石は人を守った。

 古来より、石は人と共にあった。



 けれど、それで良しとする時代はとうに過ぎ。

 国家が拡大するにつれ近隣国との摩擦は激しくなる一方。

 石の加護を受ける我が国は妬まれ、遂には攻撃を受けるようになった。

 その脅威から自国を守るために設立されたのが「国家安全保障軍」。

 入隊試験に合格したあなたは、これより隊長として国を守るため尽力することとなる。




 ―――宝兵と呼ばれる‘石ころ’達と共に。



 「玉石とすすめ」



 タイトルが表示され、オープニングムービーが流れ出す。

 キャラクターソングらしき軽やかな歌声と共に、画面上では石を擬人化したキャラクターが走ったり戦ったりし始めた。


「玉石とすすめ」、通称「玉すす」とは最近学校で流行っているスマホゲームだ。


 ストーリーなんてあって無いようなものだが、多大なるキャラクター数によって人気を集めている。

 いつもであれば、太郎がそんなゲームに興味を持つことなんてない。


 だが今回は


「あっ!サファイアちゃん!かっわいいなあ」


 セミロングの青い髪をなびかせて、人懐っこい笑顔を浮かべた女の子が映る。

 彼女はサファイアを擬人化したキャラクターで、プレイヤーに対しかなり好意的な性格だ。

 人気も高く、ファンアートが一番作られているキャラクターでもある。

 だがレアリティが高いうえに、このゲームのガチャはかなり排出率を絞っているという。


 彼女目当てにゲームを始めても金をドブに捨てるようなもの。


 そう思って我慢していた太郎だが、今日、遂に玉すすをインストールしてしまった。

 はじめたからには手に入れたい。

 サファイアの姿を見て、改めて決意が固まった。


 ようやくムービーが終わりタイトル画面に切り替わる。


『ぎょくすす、ですよ』


 タップすると共にキャラクターのボイスが流れた。


「いまの……いまのサファイアちゃんだよな!もう一回言ってくれ!」


 まさかタイトルを読み上げる機能があるとは思わず、完全に気を抜いて聞き流してしまった。

 焦って再び画面をタップするが、無情にもゲームが始まりユーザー名の登録画面が表示される。


「くそっ」


 あれほど人気なのだ。

 サファイアのボイスを集めた動画くらいネットに上がっているだろう。

 唇を噛みしめつつ名前を入力すると、画面が暗転し


『国家安全保障軍への入隊おめでとうございます!あなたのような才能あふれる方に入隊していただければ、国家繁栄間違いなし!国民も枕を高くして眠ることができますよう!』


 丸眼鏡をかけた小柄な女の子が笑顔で現れた。

 赤い髪は肩まで伸ばし、白衣を着ている。


『申し遅れました。私はルーペと申します。国家より派遣された助手のようなものだとお考え下さい。これから一緒に頑張りましょう!』


 ルーペの姿が消えて背景だけが映し出された。

 壁は岩でできており、照明は優しい光を放っている。

 宝石店をイメージして描かれたのか、落ち着いた雰囲気の部屋だった。


『ここは‘鉱床(こうしょう)’と呼ばれる場所です。拠点となる所で、ここから警備に行ったり穢れた宝兵の浄化をすることができます。では早速、警備に行ってみましょうか』


 画面端で点滅する「警備」の文字をタップしようとすると


『その前に、宝兵がいなければ話になりません。ですがご安心を。新米隊長には原石を一つ配布しております。お国に感謝ですね。どうぞ、お好きな石に力を込めて、宝兵としての生を与えてあげましょう』


 ルーペの言葉が終わると、数個の石が表示された。

 目についた十字模様の石をタップすると、癖のあるピンクの短髪をポニーテールにした女が現れる。

 ベールのない修道女のような服を着ているが、ノースリーブで体にぴったりフィットしているためチャイナドレスのようにも見える。


『私はキャストライト。十字石とも呼ばれているよ。正しい判断をしたければ私を頼るといい』


「これでいいか」


 サファイア以外に興味はない。

 それに、攻略サイトには初期石の性能にそれほど差はないと書いてあった。

 どれを選んでも同じだろう。

 太郎が他の石を見ることなくキャストライトに決定すると、ルーペが現れ


『キャストライトですか。さすが隊長殿、良い宝兵を生み出しましたね!これからより多くの仲間を集めて戦力を拡大し、お国のために戦おうではありませんか!ではでは、出発いたしましょう!』


 指示されるままにタップすると、画面には村の俯瞰図が表示される。

 片田舎の素朴な村、といった素朴な雰囲気だ。

 マップ上には双六のようなマス目があり、ダイヤマークが浮いている場所がスタート地点なのだろう。


『こちらが警備していただく尽場村(つくばむら)です。マス目ごとに、襲い来る隣国の兵士と交戦します。勝てば先に進むことができ、負ければ自動的に研究所へ帰還します。すべてのマス目を巡回し終えると、別の場所の警備許可が下ります。どうぞ、お進みください』


 タップするとマークが一つマスを進む。


 すると画面が村の中の絵に切り替わった。

 藁でできた屋根の家に、舗装されていない踏み固められただけの道。

 穏やかな時間が流れそうなイラストだが、不穏なBGMと共に三体の敵が現れた。

 三体とも黒いモヤがかかっており、目だけが異様にギラついている。

 おどろおどろしいその姿に


『民を恐がらせているのは君たちかい?』


 先ほど仲間にしたキャストライトが対峙する。


『攻撃は軽い宝兵から行います。攻撃は穢れとして蓄積され、許容量を超えると戦闘不能になります。戦闘は、どちらかが敗走または全滅するまで続きます』


 ルーペの説明が終わると、戦闘が始まった。

 ターン制のようで、こちらが攻撃すると、三体順に攻撃をしてくる。

 すべての攻撃を受け終えると、キャストライトの下にあるゲージが溜まっていた。


『すごい!この短時間でゲージを溜めるとは、さすが隊長殿!これが溜まると波動が打てるようになります。波動の種類は宝兵によって異なります。かなり強力な攻撃なので、タイミングを見計らって打ちましょう』


 タイミングも何も、すでにキャストライトの体力は残りわずか。

 あと一体分の攻撃くらいしか耐えられないだろう。

 太郎は早速タップして波動を放つ。


『罪の意識をその身に刻め!』


 キャストライトが叫び、敵の足元から大小さまざまな黒い十字架が生える。

 そしてそれは砕け散り、敵を二体倒し、残り一体の体力も半分以下に減らした。


 だが、彼女のターンはそこで終了。

 敵のターンとなってしまい、攻撃を受ける。

 キャストライトの体力がギリギリになってしまったが、ゲージは溜まっておらず波動も打てない。

 次の通常攻撃で敵を倒せるとは到底思えなかった。


『おや、初仕事にしては荷が重かったのかもしれませんね。一度鉱床へ帰りましょうか。穢れた宝兵を浄化してあげましょう』


 心配そうなルーペをタップすると、敗走の文字を映した後、画面が鉱床に戻った。

 再び現れた彼女が


『穢れた宝兵を浄化するには時間経過に加えて、‘太陽の光’あるいは‘月の光’が必要です。どちらが必要かは宝兵によって変わりますので注意してください。‘クロス’を使用することによって待つことなく浄化し終えることができます。』


 黄色く光る液体が入っている小瓶と布が表示された。

 ルーペが照れたように笑って


『これは私個人からの入隊祝いです。さっそく使ってみてください』

 言われるままにキャストライトの浄化をする。


『癒されるよ』


 キャストライトのボイスが流れ、彼女の体力が回復した。

 再びルーペが現れて


『これで全ての穢れを払い、浄化ができました。先ほどの戦闘では、圧倒的に兵力が足りませんでしたね。新たな宝兵を手に入れるためには原石を手に入れる必要があります。入手経路としては、市場で購入・探索先での発見・敵のドロップがあります。先ほど国より配布された原石は既に研磨され、どのような石なのか判明していました。けれど、今後入手する原石は研磨するまでどのような石なのか分からないので注意してください』


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