雨の中の毅然
ここは戦場であった
前を行く、あの人の背中は大きい
だからこそついていくことを決めた
振り上げられる手、強く踏みしめられる足
あればこそ進めるという確固たる自信が己にも沸いた
進む、進む、進む
終わって雨が降ってきた
先頭のあの人は佇んでいた
ただただ佇んでいた
服に染みを作る頃、撤退を命じられて帰路につく
当たり前の日常、常日頃の光景
屋根の下で空腹を満たした後
あの人が病棟から出、遺体保管庫に行くのを見た
その背は戦場と違って、とても小さく感じる
なんて頼りない背だろうか、あんな感じだったろうか
疑問が浮かび上がり、じっと背中を眺めていると
「アイツが前にいるのは失うのが怖いからだ。だから我先にと進んでくれる。だから俺らは安心して前に進める、そして更に安心するんだ。振り上げた手で殺すのも、それをよしとする足も俺らに責任はない、進んだのはアイツだからだ。大きく感じるだろう? アイツの背は。俺も頼りにしてんだ、だってよ、アイツが進むから殺すんだ。俺は悪くない。進むアイツが悪い。だから大きく見える。頼り甲斐がある、なんてな。失望したか? 今のアイツを見て。しょんぼりしてただろ? 俺は最初から一緒だったからアレが本当だって知ってんだよ。お前、俺が最初に言ったろ? アイツは我先に進むって。先頭はいつだって死にやすい、その分、他の死を見ずに済む、仲間のな。先頭に立って殺すのも精神を病んで自殺するヤツを見るのが嫌なだけだ。仕方ねえって割り切ればいいのによ、ただの臆病者だよ、アイツは」
煙草を吸う人は、同じようにあの人の背を見ながら続けた
「でもよ、臆病者って言ったけどな新人。誰もがすげえ誇らしい頼りになるとか言うけどよ、俺はな、俺は……」
言い澱み、目を逸らして地面を見ながら呟く
「アイツ、優しすぎるんだよ。優しいから、あんなことをする。先頭を走る勇猛果敢な俺の友人様にゃ早く死んでほしいよ」
まだ点けたばかりの煙草を捨て、その人は去っていく
その人の背も、俺は小さく感じた
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