第23話
「ごめんなさい....。今まで嘘ついてて....」
ニールはここまで保っていた意思がくじけてしまった。自分が嘘をついていたのはケイやタキタのためだと。そのはずだと。自分に言い聞かせてそして納得して決意していたはずだった。しかし、やはり、どこかで逃げていたのだと思ってしまった。知られたくなかったのだと気づいてしまった。自分が大罪人の末裔だと知られたくなかったのだ。なのに、自分の行っていることは正しいことなのだと錯覚して、あまつさえ笑い合いながら楽しい時間を過ごしてしまったのだと。ニールはそう思ってしまった。罪悪感がニールを襲っていた。
「ごめんなさい。僕は本当はケイさんやタキタさんと楽しく話せるような人間じゃないのに....。ごめんなさい....」
ニールはそうして何度も謝った。
「.......」
「..............」
ケイとタキタは押し黙った。二人にはニールの気持ちの、その全てではないが分かるような気がした。だから、ケイはやはり聞くのは間違いだっただろうかと少し思う。でも、やはりニールに言いたいことがあった。
「ニール、あんたは.....」
と、その時だった。
「何!?」
「うわあ!」
「これは、まさか!」
激しい緑色の閃光、爆音と衝撃。それが発着場の一角で巻き起こった。ドウダン、ニール、タキタは驚愕してその方向を見つめる。ケイは本当に忌々しそうにそれを睨みつけた。そして、言った。
「本当にうざったいやつだね」
そこに現れたのは未知の合金で形作られたボディを持ち、足は獣のような逆関節を成し、目には4つのレンズを光らせたマシン。十二神機ヴァジュラだった。
『 起動。状況把握。Y142L6ポイントに誤差0.001で転移完了』
マシンは変わらない無機質な男性の電子音で言った。その身を黒いナノマシンが覆っていく。
『目標を発見。十二神機ヴァジュラ、状況を開始します』
そう言ってヴァジュラは4人に、ニールに目掛けて吹っ飛んだ。
「クソが!」
それをすかさずケイは止めに入る。ヴァジュラは急停止ししそれをかわすと拳を入れる。ケイはそれを腕で受けさらに返し、それにさらにヴァジュラが応じる。まるで嵐のようにヴァジュラとケイの拳と蹴りが交錯した。そして、その後に両者は一旦距離を空けた。
『障害が発生。前起動時と同一の個体と判断。障害ランクは前戦闘時の計測を踏まえAに変更。現状では障害の排除は困難。ユニットを起動します』
そう言った瞬間、ヴァジュラの周りのアスファルトがめくれ上がった。それらは前の砂と同じ様に青い光となって鋼鉄の刃へと変換、そしてそれらの半分が針のようなアンテナへと変わった。
『コントロールユニット解放』
そのアンテナの表面をナノマシンが伝っていった。
「な、なんですかあれは! なんですかあの得体の知れなさは!」
「前のときより随分反応が良くなってる。これからあいつは能力を使ってくるよ。タキタはニールを.....ちっ!!!」
ケイは忌々しげに舌を打つ。この混乱を逃すドウダンではなかった。ドウダンはニールを術式で拘束したまま船に乗り込んだ。船は魔導機関に灯を入れ動き始める。
『状況が変化。目標が逃走を実行。障害の排除を停止し目標の追跡を優先』
ヴァジュラがその手をかざすと、ドウダンの乗る船の周りが白く曇る。空気が凍結し、空挺も凍結していく。
「させない!」
そんなヴァジュラにケイは蹴りをかました。しかし、ヴァジュラはそれを片手で受け止める。ケイは残った足と拳でヴァジュラにコンビネーションを食らわす。5発までヴァジュラはかわしたが最後の膝蹴りがヒットし吹っ飛ぶ。しかし、ヴァジュラは綺麗に受け身を取り着地した。
明らかに、以前より強くなっている。
「良いんですかケイさん! あのレジスタンスにニール君を奪われますよ」
「くそ! でも、こいつに奪われるよりはましだ! こいつに船落とさせてそこからニールを助け出してさらにこいつから逃げるなんてのは無理だ!」
ケイは最善を思い浮かべてはいたが明らかに実現が困難だと判断した。なのでドウダンは逃がす。幸いニールを殺すということは今のところは無さそうだからだ。ケイは仕事の遂行よりニールの身の安全を優先した。ニールがヴァジュラの手に落ちるよりドウダンに奪われたほうがましだと判断したのだ。ケイがそれ以外の選択肢を選び取るには時間も余裕も思考力も足りていなかった。なによりヴァジュラが以前遭ったときとは別物だ。ヴァジュラを食い止めるのが最優先だと判断したのだ。
『目標が逃走を継続。ユニット稼働率拡大。追撃。』
ヴァジュラの周りのアスファルトが武具に変換されていく。大槍、大刀、大鎌、様々な武具がヴァジュラの周りを取り囲んだ。そしてそれらがすさまじい勢いで投擲され空艇を襲う。
「っ!」
それが飛ぶが早いかケイは思い切り地面を踏みつけてアスファルトを砕くとそれを蹴り飛ばして武具の軌道を変えた。おかげで空艇に武具が突き刺さることはなかった。
そのままケイはヴァジュラに向かって地面を蹴る。ついでに砕いたアスファルトを弾丸のように飛ばして目くらましにした。ヴァジュラはそれをそのまま光に変え武具に変換する。
「飛び道具は効かないのか」
ケイは思い切り地面を踏み込もうとしてすんでで止めた。そして思い切り横っ飛びする。ケイが踏むこもうとした地面は一瞬で溶解し赤く光っていた。ヴァジュラは高熱でケイを攻撃したのだ。
『目標との距離が拡大。追撃。』
「させるかって言ってんだろ!」
手をかざすヴァジュラにケイは再び蹴りを入れる。しかし、周りを舞う武具がケイに襲いかかった。ケイはそのうちの大刀を二本掴み取り、それで残りの武具を吹き飛ばす。そして、そのままヴァジュラに斬りかかった。狙うは4つのモノアイ。
「どうだ!!」
しかし、それさえもヴァジュラのボディに触れる前に光になって霧散した。その光は再び武具として形を成し、成したそばからケイに襲いかかる。ケイはたまらず距離を離した。そして舌打ちする。
「遠距離がダメで、近距離もきついか。難敵だよこいつは」
ヴァジュラはここまでの流れでケイをまともに見ていない。その視線はずっと空艇に向けられている。空艇はもう随分飛び上がっていった。高度は何百メートルといったところ。速度も乗ってきている。
「ケイさん!! 恐らく空艇が、ニール君が行動範囲外に出れば追跡は止めるはずです! 凌いで下さい!」
「わかってるよ! でも、ギリギリなんだよこっちは!」
「ああはい、失礼しました」
半ギレのケイにタキタはおとなしく引き下がった。
『距離拡大。距離拡大。現状が継続された場合目標の確保が困難。稼働率を拡大』
ヴァジュラがそう言った時だった。その体がふわりと浮き上がった。
「くそ! とうとう飛びやがった!」
ケイはすかさず蹴りつける。しかし、それも躱される。追い打ちに武具が飛ばされた。ケイはその軌道を膝で無理やり変える。
ヴァジュラは一番危惧していた飛行能力をとうとう手に入れたのだ。このままでは唯一の逃走経路だった空でさえ意味を失ってしまう。が、
「な、なんかしょぼいですね」
ヴァジュラの飛行はふわふわとしたものでその動きは頼りなかった。何より速度が出ていない。この飛行能力では到底空挺の元にたどり着くのは不可能だった。
「まだ、飛べるようになったばっかりの雛みたいなもんか」
それでも、頼りない飛び方ながらヴァジュラは空艇に向かって飛んでいた。その目的遂行の意思だけはこれだけ無様を晒しても揺らぐことはない。さすがはマシンといったところか。だが、ほどなくしてその動きも止まった。
『目標をロスト。状況を終了します』
ヴァジュラはそう言った瞬間再び緑色の閃光と轟音を立てて転移した。きれいさっぱり消えた。後には地面の砕けた発着場、ケイとタキタが残された。
「た、助かったんですかね?」
「あいつは消えたね。でも、助かってはいないよ。ニールは連れ去られたから」
ケイは肩を落とした。そして、もはや豆粒より小さくなったドウダンとニールの乗った空挺を見つめた。
「どうします、これから」
「もちろんニールを追うよ。必ず取り返す」
「そうですね。やっぱり」
「でも、その前にスミスに連絡だ。あいつなら何か知ってるはずだからね」
「合点です」
タキタは端末を開いて操作を始める。
ケイはずっと離れていく空挺を睨んでいた。あまりにも悔しかった。助けられなかった自分も、こんな不条理に巻き込まれているニールの境遇も。だから言った。
「必ず助ける。待ってるんだよニール」
ケイは大きく息を吸い込んで吐き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます