ヅラハンさんの日常
余記
第1話 ヅラハンさん is 何?
ヅラハンさんについての情報は少ない。
ヅラハンさんとは、数ヶ月ほど前から突然、あちらこちらで目撃情報が寄せられるようになった怪人物の事である。
彼の特徴はだいたい以下のようにまとまっている。
1. 黒い背広を着ている
2. 肥満である
3. 黒縁のメガネをかけている
4. 頭に毛髪が無い
5. いつの間にやら現れ、いつの間にか消えてしまっている
6. 左脇に、ボリューミーなカツラ(?)と思われる黒い毛の塊を抱えている
7. 顔の特徴を覚えている人がいない
前半は比較的普通の人だが、6番は少し変な人。
7. にあるとおり、顔に関しては覚えている人がいない。
ふつうなら目やら鼻やら何かしら特徴を覚えているものだが、メガネの印象で消されてしまっているのだろうか?
似顔絵を描こうとしても、曖昧な輪郭線の上にはっきりと、メガネだけは黒縁で書き込まれる事になる。
***
「ウーン。これだけの情報じゃ、雲を掴むような話ですよね。よく現れる場所とか決定的な情報って無いんですか?」
こんな事を言ってくるのは、うちの雑誌社の新人、荒川美芳だ。
そして、うちの会社は世間を流れるゴシップを面白おかしく紹介する雑誌を売りにしている。
「もう、ずっと悩んでたりしないでお茶でも淹れて休憩しましょうか。」
「それがいいな。って、お茶受けは無いのか?」
手早く準備を整えると、部屋に紅茶の香りが漂った。
美芳は凝ってるので、おいしい紅茶は淹れるのだが・・・ちょっと抜けているところがある。
と、どこからともなく、
「おう。ありがと。。。って、紅茶に飴かよ。あ。でも、ラムレーズンとかなかなか洒落てるな。」
「私の方は、バラの香りのするキャンディーですよ。こんなのもあるんですね。紅茶と合わせるとロシアンティーみたいな味になって意外と面白いです。」
しばらく、なめなめかじかじと飴とお茶を味わいながら考えをまとめる。
「そういえば、ヅラハンさんの噂、飴をくれるとかいうのありましたね。」
さきほどのリストに、8. と加えて、飴をくれるとか書いている。
「私の子供の頃、田舎に住んでいたんですが、友達とはぐれて泣いちゃってた時に、こんな感じの大きな
先ほどの飴をぺろぺろ舐めながら、何か遠くを見ている目つきをしている。
「ひょっとしたら、あの人もヅラハンさんだったのかもしれないですね。」
「おい、ちょっと待てよ?ヅラハンさんって、ここ数ヶ月で現れた人じゃないのか?お前の話はもう10年以上前の話だろ?」
「うん。そうなんですけどね。飴をもらった事ははっきり覚えてるのに、そのおじさんの顔とか・・・どういう目をしていたのか?なんて事をはっきり覚えてないんですよ。他の人の顔見るときは一番に目を見ているはずなんだけどなぁ。」
必死に思い出そうとしているような表情をしているが、なぜかどうしても思い出せないようだった。
「と、、、なると・・・」
と、の部分でふと思いついたかけらが浮かび上がって、口をついた
「昔話なんかを調べて見ると、案外、似たような事例があったりするんじゃないか?」
「昔話で飴というと・・・子育て幽霊くらいしか知らないんですけど。」
美芳が飴の端をがりっ!とかじりながら口出しする。
「案外、昔話で飴が題材のものって無いんですねぇ。」
昔は、甘いものが贅沢品だったようだから話のネタにしようにも定着しなかったのだろうか?
「噂というと、こういうお化けっぽいものの話なら、子供たちの噂話なんかを調べてみても面白いんじゃないですか?」
こういった都市伝説の類は子供たちの噂から広まったものもある。
近所の子供たちに聞いてみるのもいいかもしれない。
「そういえば、この飴ってどこで買ってきたんですか?結構おいしいですよね?」
「ちょっと待て。お前が買ってきたんじゃなかったのか?」
***
とある雑誌社の建物の中で騒ぎになっている頃、その側で様子を伺っている不審人物がいた。
ヅラハンさんの頭は、今日も光り輝いているのである。
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