2月

11.鐘をつくのは

そのうちに「ロボットが先か、人間が先か」という時代が来るかもしれない

そして「ロボットが先」という結論が出されたなら 私たちに未来はない

それ以前に 私たちの過去はロボットに一蹴されてしまうだろう

文明の利器と持て囃したロボットに 私たちの文明は一掃されてしまうだろう


警鐘はいつも鳴らされてきた

それでも私たちは耳を塞いで前だけを見据えてきた

私たちが見据えてきたのは未来だ

それは明るいもので ロボットに脅かされるような危ういものではない

ましてや私たちが積み上げてきたものを 私たち自身の手で崩してしまうような そんな愚かさも孕んではいない


鐘つき台では二つの影が代わり番こに鐘を鳴らし合っている

遠目からでも仲良さげで 雲の切れ間から射す月明かりに照らされた二人は まるで無二の親友のよう

これでもかと鐘が鳴らされたころ 急に辺りが静まり返り 鐘つき台の二つの影が争いを始めた

議論が口論に 口論がお互いを罵る言葉に変わった それからもみ合いになり 一つの影が地へと落ちていった・・・


暫くして「ロボットが先か、人間が先か」という時代が来て 早早に「ロボットが先」という結論が出された

その時から私たちの地位も威厳も皆地に落ち 又 あのおとぎ話の結末もはっきりと描かれるようになった

「親友を突き落としたのは人間のほうだった――」という解釈が 私たちを破滅へと導いた


ロボットは人間の文明を根絶やしにすべく 人間によって書かれたもの 造られたものなどをすべて焼き払った

その過程で 衣食住を奪われた私たちを燃え去る文明の前に立たせ 並並ならぬ苦しみを与えた

私たちのなかには 我らが文明とともに焼かれる者もいた

・・・それはロボットによる演出だったとあとでわかった

一台のロボットが 焼かれ黒焦げとなったその者を踏みつけながら 自らも焼かれて見せたのだ

皮肉なことに 人間は死ぬように ロボットは死なないように出来ていたため

その違いが示されたことで 私たちは一層の絶望感に打ちひしがれ ロボットの士気は益益高まった――


私たちの文明は一掃され とうとう私が人間として最後の一人となってしまった

結局 私たちの愚かさが脅威を生み それがこうして私の 延いては私たちの首を絞めることに繋がったのだろうか

私は「ロボットが先」でも「人間が先」でもどっちでもよかったのに・・・

そんなことを思いながら 私は死んでいった


鐘つき台では一つの影が高らかに鐘を鳴らし続けている 勝利の鐘を 人間を絞め殺したその金属の手で

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