デスペラードファミリー

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デスペラード・ファミリーマート

「お弁当おひとつのお会計で269円になります!爆発させますか?」

「ボクがさせるかぁー!お客様失礼しましたっ、お弁当温めますか!?」

「今電子レンジが故障中だから、代わりに爆弾で代用しようと。」

「それは一番やっちゃいけない代用法だ赤霧さん!」


 ここはファミリーマート、デスペラード店。無法者の集まる危険地帯のコンビニエンスストアだ。ちなみにボクの名前は北ノ浦 玄武丸、われながら長い名前だとつくづく思う。来年二十歳を迎えるこのコンビニのしがない店員である。

 真面目に働こうとするボクに突然ついた新人バイトのこの子、赤霧 由乃。最近になって入ってきた子で、たまたまシフトが同じになったので店長に面倒を見るよう頼まれてしまったのが運の尽き。話をする時の店長がなぜ目を合わせてくれなかったのか今なら痛いほど分かる。

 彼女とくれば何かにかこつけて爆発させようとするのだ。この前なんて分別しない客対策にゴミ箱周辺に感知式爆弾を取り付けようとしていた。意味が分からない。


「しょーがねーなー、わかったよ北にい〜。」

「……ごめん赤霧さん、北にいはやめてくれない?めちゃくちゃ不潔に聞こえるから。」

「えー、でも北ノ浦ってなげーし。」

「先輩に対する態度じゃねーし……」

「北にい北にい北にい北にい、きたねえ。」

「人に悪口言っちゃいけませーんっ!あとそれは性別変わってるから!」

「玄武にい!」

「うん……もうそれでいいや……」


 ボクは深いため息をつく。正直に言ってボクは年下が苦手だ。男子でさえ得意じゃないというのに女子ならなおさらである。これで至って真面目なのだからホントにどうすればいいのか。げんなり顔をなんとか引き締めて注意を施す。


「とにかく、次はちゃんと接客してくれよ?」

「はーい、爆発させた方がぜってーおもしれーのにさ……」


 おもしろいのはキミの思考回路だ。

 コンビニのバイト内容は簡単そうにみえて案外難しい。多岐に渡る業務を覚えるのはなかなか骨が折れるくらいだ。ボクはその一つ品出しをすることにした。

 と、レジを離れたちょうどそのとき、新たな客が来店する。


「「いらっしゃいませー!」」


(今度はよろしく頼むよ!?)

(なんとかするから任せとけって!)


 もはやアイコンタクトで分かるくらい何度も交わしたやりとりを得て業務に戻る。まあ僕は心配で集中できないわけなのだが。


「えっとお客さん、何お買い求めなんですかねー?」

「おめーら、騒ぐんじゃあねえぜ。」


 客がブレザーの内ポケットから取り出したものは……拳銃だ。特徴的な回転式拳銃(リボルバー)に鋼色の細い銃身、ほぼ間違いなくエンフィールド・リボルバーだ!他のリボルバーと比べて華奢で美しいフォルムの凶器がまっすぐ、赤霧さんに向けられていた。


「うわっ、おっさんコンビニ強盗かよ!」

「あ、赤霧さん!」

「おっとそこの糸目、動くなよ?不審な行動は取らないのがお互いのためってもんだぜ。金さえ渡してもらえれば撃ちゃしねぇよ。」


 男が一瞥して僕達二人の動きを阻む。ちくしょう、強盗来るの今月だけで三回目だぞ。お前達もっと他に狙うとこあるだろ。隣のLAWSONになんで行ってくれないんだ、接客態度絶対そっちの方がいいから。なんとかしなくてはいけない。なんとかして……強盗を守らなければ!

 実を言うと過去2回とも一応強盗は撃退できているのだ。ほぼ瀕死の状態で。主に赤霧さんのせいだが相手を爆殺しかねないような爆弾反撃を見舞い返り討ちにしている。その結果、被害者はこちらのはずなのに過剰防衛で何度も厳重注意を受けているのだ。今度こそ新たな被害者を出してはならない。

 強盗を捕まえる、後輩を抑える。両方しなくちゃいけないのが先輩の辛いところか。


「早くレジの金を出してもらおうか。」

「ったく、仕方ないな〜。」


 不満そうな顔で赤霧さんはレジを開ける。もはや強盗を捌くのも慣れたものだ。銃を向けられた人の態度じゃない。大人しく従ってるようにみえるけど……あれは、目が完全にヤる時の目になっている。相当いらついているな。ここのところ爆破させていなかったからストレスがたまっているのだろう。ホントにプライベートでストレス発散やってくれませんかね。


「そうだ、引き出しごとこっちに渡せ。ゆっくりだ、妙な動きはするな。」

「はいはい、分かってるから。」


 そう指示され、ゆっくりとレジの引き出しを前に突き出した。

 そのとき横からちらりと見えたが引き出しの裏になにか仕込んであるのが見えた。あれは小型プラスチック爆弾……前にレジ前の商品棚に並べようとしていたやつだ。あれはもう全部処分したはずだったのに、こっそり隠し持っていたのか!あれは遠隔操作式のやつで爆弾から離れたところで爆破できる。このままでは第三の被害者が……


「そ、そういえばまだお金あるんでしたーっ!」


 受け取る直前、おもいきり叫んで阻止する。金に手を伸ばしていた強盗の手は止まり、かわりにこちらに銃が向けられる。


「お前、叫ぶんじゃねえ、ぶっ殺すぞ。」

「チッ……」


 今小さく舌打ちが聞こえたような気がしたが気のせいだろうか。どちらかといえば銃をもった強盗よりもその後ろで何してくれてんだと静かな圧力をかけてくる赤霧さんの方が怖い。無視しよ、無視。


「は、はい!金庫にしまってあるのがまだありまして。」

「なんでわざわざ言うんだ。」

「え、えっと……何ででしょうか……?」

「……ふん、まあいい。騙そうとしたと判断したらその場で撃つからな。」


 そこで強盗は赤霧さんに向き直りガンをつける。


「おい、そこの短髪女ーーー」


 強盗さん、それ地雷です。


「女って言うなぁーっ!!」

「ぐぽおえっ!」


 赤霧さんの怒りが爆発した。手に持った引き出しをサッカーのスローインをするようなフルスイングで強盗の腹に叩きつけたのだ。一瞬おもしろい声を出した強盗がそのまま床に崩れ落ちる。ヤバい、赤霧さんが起爆スイッチ取り出してきた。あれは即死コース不可避なやつだ。


「いっぺん死ねやー!」

「いや僕も死んじゃうから!?」


 そしてリアルに爆発した。引き出しに取付けられた爆弾がけたたましいアラーム音を発して炸裂する。光と爆風と音と、全てがごちゃまぜになっていき、黒煙がはびこった。

 煙がうす立ち込める中、僕はフラフラと立ち上がる。店の被害は……そこまで酷くない。爆発する瞬間、爆弾に覆いかぶさって爆発の威力を身を挺して吸収したのだ。そのせいでお腹あたりは視聴者にお見せできない感じになっているが……僕のことだしほっとけば治るだろう。強盗さんも爆発被害はそれほどなく、軽度の火傷程度。気になるのは赤霧さんだったが……


「あ、玄武にい生きてたんだ。」


 カウンターの物陰に隠れていたようでほぼ無傷。あれ、重傷なの僕だけ?


「髪切ったんだみたいなノリで言わないでよ……」

「あはは、ごめんごめん。でもなんかスッキリしたしっ、今日も仕事頑張るぞー!」


 余計に被害でそうで怖いですね……僕は新しいバイトを探そうと固く心に誓った。

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