第63話強襲される学園


「帝、お前今までどこに居たんだ!?」

「学内に居た」

「それは知ってる」


乱戦の中央で他の生徒から自分に注意を引き付けるように戦う伊織を助太刀したが、正直俺が来なくともなんとかなりそうだった。


「伊織、あのイカれたマシンは四機あるぞ。そっちもなんとかしないとな。それと、翔達はどうした?」

「知らん、はぐれた」

「はぐれた?」


この状況下でははぐれても仕方がないな。

だが、可能な限り早く合流したい。


「スマホで呼び出せ!」

「了解だ」

「真美、連中を黙らせろ」

「分かったわ」


真美が両手を合わせる。

そして、その両手の隙間から黒い蛇のような紐状の何かが姿を見せる。


「行きなさい、蛇縛ウナ・クラバッタ!」


黒い蛇はテロリストの男達を拘束し、締め上げる。


「前から思っていたが、ただ者じゃないんだな」


伊織はそう言いながら、スマートフォンを操作する。


「あっ、翔達は講堂周辺に居るらしい」

「講堂って言うと、説明会の会場か。まさか、勢い余って一人で暴走したんじゃないだろうな?」

「そんな馬鹿な事をすると思うか?」


思ってなければ聞いてねえよ。

馬鹿。


「俺達が向かおう」


俺の言葉に賛同するように、伊織と真美は頷いた。


「止まれ!」

「邪魔だ」


突き放たれたナイフをかわすと同時に男の顔を横へ押し飛ばす。


「容赦無いわね」

「少なくとも味方ではないからな」

「帝、二時の方向に居るぞ」

「分かってる」


翔も俺達に気が付いたようで軽く手を振った。


「帝くん、無事だったのね」

「まあな。生命力が俺の取り柄だからな」


講堂から出てきた会長が生徒会役員を引き連れ、周囲を警戒しながら話を続ける。


「恒四郎くんが、襲撃者の対処に向かっています」

「そして会長達が講堂を避難場所にして警護をしていると」

「そうよ」


ここまでやれば大丈夫と思ったが、対策課の到着はまだだ。国家上層部と揉めてんのかね。


「俺もちょいと行ってくる」

「帝くん?待ちなさい!生徒会長としてあなたを行かせる訳にはいきません」

「俺は委員長より強いぞ」

「行かせてやればいいんじゃないですか?後は自己責任って事で」


金髪の生徒会役員が嘲るような笑みを浮かべながら賛同する。


「ありがとう、海先輩」

「森だ。森栄太だ。人の名前くらい覚えておけよな」

「そんじゃ行ってくるわ」

「おい、待て帝」


走り出した俺に伊織達がついてきた。


「何でついてくるんだ?」

「琴音が原因の一つだからな」


正確に言えば、巻き込まれただけなんだけどな。


「それより、香川って言ったっけ?大丈夫なのか?」

「少なくとも、伊崎のお仲間を倒したって経歴があるだろ。五十嵐よりは使えるって」

「帝さん、それはないですって。俺の方が強いですよ」

「そんな事はあり得ないのだがね」

「こんなパッと出の新入りより弱いなんて認められないッスよ」

「知らねえよ、勝手にしろ。敵さんがやって来たぞ」


各々が眼前に迫る敵を叩き伏せる。

ここら一体のテロリストは同士討ちを避けているのか銃器を使わず、ナイフなどの刃物が主な装備らしい。


「数が多いな。これだけの数、どこから沸いて出たんだ?」

「帝、口よりも手を動かせ」

「分かってる」


回し蹴りを敵の頭部に命中させながら周囲の様子を確認する。

伊織と翔は異能力を使わずに素手で危な気無く対処しており、香川は昨日見た金属のアームからビームを放ち、ブレイドを振り回して八面六臂はちめんろっぴの活躍をしている。真美は、魔術で適当にあしらっている。

最後に五十嵐は──


「ウオォォ!」


雄叫びを上げながら、テロリストを殴り飛ばしていた。

いつの間に身に付けたのか、右の手には銀色に光るガントレットを装着している。


余裕そうだな。


「五十嵐、ここを任せるぞ」

「へっ!かかって来いやぁ!」


聞いてないな。先に行くか。


「帝、大丈夫なの?見るからに危なっかしいんだけど」

「そう思うんなら残ったらどうだ?」

「遠慮しておくわ。なんとかなりそうだもの」

「魔王様のお墨付きとは光栄だろうよ」

「もうっ!その話は学校じゃ禁句って言ったわよね」

「そうだったかも」


銃声が鳴り響く方向に進む。


「あれが例のバトルマシンか。腕がなるのだがね」

「香川、あれ以外にも三機残っている。それに、その周りに居るのは異能力者か?厄介な組み合わせだな」

「どうする?」

「どうするって伊織、全員で纏めてかかるしかないんじゃないか?時間がもったいないが猶予も無い。迷うなどもっての他だ」


真面目にやれば数秒で片が付くが、周囲への被害を考えるとなると止めた方いいだろうな。

それにしても、委員長はどこに行ったんだ?あんな鉄屑、ちゃっちゃとスクラップにしとけよ。


銅像が機体に超速でぶつかった。


「はっ?」


異能力の発動兆候とも言える魔力の流れを感じなかったぞ。


「そこのお前、ここは我に任せるのだ!」


振り返ると二人の男子生徒を引き連れた中性的な容姿をした生徒。

赤いマントに黒い眼帯、テラの同種らしい。すなわち厨二病。一見、ボーイッシュな美少女にも見えるのだが、男子の制服を着ている事から男子なのだろう。けれど、こういった方々は全員ではないだろうが特殊な趣味を持っているとテラ本人が言ってたからな。

分からん。さっぱり分からん。多分、男だな。


「綺羅、あちらさんも困ってるじゃないか。まずは自己紹介からやらないと」


右耳にピアノをしているチャラついた風貌の生徒が綺羅と呼ばれた少年に注意をした。


「それもそうなのだ。我は、1年Dクラスの六角綺羅ろっかくきらなのだ。よろしく頼むのだ!これで我らは戦友なのだ!」

「綺羅さん、流石です」


地味な黒髪の少年が惜しみ無い拍手を贈る。


いたって普通の自己紹介。どこが流石なのか検討もつかない。相手によっては喧嘩を売っているのか疑うレベルの称賛だ。


「それで俺が黛聖まゆずみひじり、こっちが広橋誠也ひろはしせいやだ。お前の噂はよく耳にしていた。そのうち顔合わせついでに挨拶に行こうかと思ってたところだ。初対面がこんな形になってしまったが、よろしく頼む」

「こちらこそ。挨拶は不要だな」

「ああ、お前の周りに居れば自然と名が広まるからな」


学内での俺の扱いどうなってんだ?


それよりも、この男はチャラついて見えるが周りがよく見えているのだろうな。

こんな天真爛漫を立体的にしたかのような六角と、自己主張を殆どしなさそうな広橋を上手く纏めている。その実、自身ではなく六角をリーダーに据えてる辺り、六角綺羅という少年に何かしらの才能を見出だしたのであろうか。


「行くぞ!我に続けぇ!」

「綺羅さん、ついていきます!」

「神月、ここは俺達に任せとけ」

「ああ、任せた」


俺達は先へと進む。

任せた以上は振り返らない。


「伊織、あいつらは大丈夫なのか?」

「心配いらないだろう。あいつらの能力の規格外さは伊崎よりも上だ」

「そうか。ならば、伊織となんちゃってトリオの判断に任せる」

「それよりも、行き先にメドはついているのか?」

「騒ぎが大きい場所に向かう」

「それって、どう考えても囮だと思うんだが」

「だろうな」


今は、フィリップス達も姿を見せていない以上、騒ぎの収拾に努める事が最も建設的だ。

連中の目的は何かを理解出来れば動きやすいのだが。


「帝、夜から連絡が来たわ」

「何だって?」

「どうやら、講堂と図書館に敵が集まってるみたい」

「講堂と図書館?」


講堂が囮か。図書館って何かあったか?

資料保管室があるが、大した文献は無かったはずだ。ならば物体か。


「伊織、図書館に強力な異能力の発動に必要な媒体があるか?」

「強力、異能力、媒体……恐らくあれか。だが……うぅん」


伊織が首を傾げる。


「帝、連中がそこまでして欲しがる物は無かったはずだ」


翔が伊織の代わりに答える。


「何があるんだ?」

「金などの宝石、動物の剥製、古い書物、ミイラ」

「ミイラってそんな物まであるのかよ。呪詛でもばらまくつもりか?」


そこまで警戒すべき物はない。

ミイラか、ミイラねえ。うぅん、微妙。わざわざこんな事までして手に入れるべき代物ではない思うんだが。


「何のミイラだ?どっかのファラオってオチか?」

「いや、ただの鼠のミイラって聞いた事がある」

「どこまでも微妙だな。それにしても鼠のミイラって、よくそんな物を保管してるな」


ただの邪魔だろ。 ミイラの保管って維持費やら大変だろうに。


「随分前に、うちが寄贈したらしくてな」


伊織のどうでもいいカミングアウトを聞き、納得した。


この騒動の作戦の立案者は神無月琴音か。

鼠のミイラの存在を知っているのは神無月家に連なる人間だけなのだろう。それに、そもそも革命家レジスタンスとフィリップスが学校にこだわる理由は無い。俺を狙うにしても、今までの傾向から考えてもう少しピンポイントに狙ってきただろう。

あの女は、やけに俺に目をつけている。自分を救えるのは俺だけだと言っていた。それは違う。彼女を救えるのは彼女自身、俺じゃない。

俺の助けも必要なのかもしれないが、そんな物は些細な事だ。重要なのは彼女のオリジン。つまり、原点。神無月琴音の心の奥底に眠る本当の気持ち。


「面倒だな」

「そうだな、ヤバい気配が集まってきているぞ」

「……そうだな」


確かにそうだが、そっちじゃない。

集まっているのは、フィリップスの配下の異能力者達だろう。


それよりも、薄々とは感づいてはいたが同盟社とは名乗ってはいるが、団結出来ている訳ではないらしい。

なまじ力を持つ者がバラバラに動けば、事態の収束は困難を極める。

どうしてこうも面倒な連中ばかり俺の前に立ち塞がるのか。本当に嫌になる。


「と言うか委員長、あいつどこに行ったの?敵がわんさか学校に入っていく来てますよ」

「ここに居ないんだから愚痴を言っても仕方がないのだがね」


体が前触れ無く重くなった。

まるで頭を押さえつけられているようだ。


「これは伊崎の仕業か」

「居るのは伊崎だけじゃないみたいだぞ」


伊織に視線で促す。


「お仲間を連れているみたいだな」


伊崎は怒り狂ったように暴れているが、生徒には危害は加えていない。体は重いが。


「伊崎、体が重い。この能力を解け」

「はぁ?自分でどうにかしやがれ帝」


どうやら、大変ご立腹らしい。

俺にかけられた能力ではなく、伊崎の発動した能力その物を解除させる。


「帝って器用なのね」


真美が称賛を送るが、この魔術を解く事はさほど難しくはない。


「すみません神月殿、巧が拐われたらしく晴也の気分が非常に悪いのです」

「そうかい」


会長の弟である出雲が申し訳なさそうな表情で再び謝罪した。

一度建物の物陰に撤退し、図書館の様子を伺う。


「晴也、無闇に暴れても事態は好転しませんよ。協力するのが最善策です」

「ったく、しょうがねえな。分かったよ」


伊崎は舌打ちをしながらも嫌そうな表情で頭を掻いた。


「それなら話は決まりましたね。行きましょうか」

「ちょっと待ってもらっていいッスか。帝さん、置いていくなんて酷いッスよ」

「なんだ五十嵐か。任せるって言ったはずだが」


親指を上に突き上げながら仕事の完遂を伝えるその仕草は妙に腹が立つ。


「まあ、やり終えたのならいいや」

「帝、図書館にいろいろ集まっているみたいだぞ」

「すぐに突っ込まなくてよかったな。あれじゃあ、袋叩きだったぞ」

「だな」


伊織が想像でもしたのか、顔を引き吊らせる。


「ここから確認出来るだけでも機体が三機に銃器を持った奴が五十、それなりに戦えそうな異能力者が三人。図書館の中にも居ると考えると……気が遠くなりそうだ。あのクソ委員長、ルナでくつろいでるんじゃないだろうな」

「その話、何度目だ。走ってる途中だけでも二桁数は聞いたぞ。流石にそれはないと思うぜ。明らかにヤバい奴を追っかけてるんじゃないのか?」

「伊織、そうだといいんだけどな。敵はこれ以上は増えなさそうだな」

「なら、突っ込むか?」

「止めなさい」


獰猛に笑う伊崎を出雲がなだめる。


「啓太、こっちの戦力は増える見込みはないぜ。だったら、強襲を仕掛けるべきだろ」

「天城は一緒じゃないのか?」

「あのチキン野郎は講堂で警護に回ってるよ」


俺の質問に伊崎は鼻で笑う。

高柳兄弟は思い出しているのか、宙を眺めている。誰が見てもアホ面と思うだろう。


確かに、争い事を嫌いそうだしな。納得の結果と言えるな。


「問題はどうやって突っ込むかだが──」

「帝、お前が仕切るのか?」

「不服か?」

「いや、そうじゃねえが何か嫌だ」

「結局不服じゃねえか。それに何か嫌だって小学生か」

「待て待て待て待て」

「晴也、落ち着きなさい」


伊織と出雲が間に割って入る。


「作戦はどうします?我々Eクラスはあなたの意見に従いましょう」

「おい啓太、それじゃ俺のプライドとメンツが──」

「そもそも、人間のプライドやメンツなんて物は、たかが知れてますよ。価値など無に等しい。それに──」


出雲は俺を見て笑う。


「姉からあなたは非常に優秀な方だと聞いていますし」

「それは光栄だ」


雰囲気が会長と似ているな。

発せられた言葉を否定しようにも否定させないような、心のどこかでブレーキを掛けられているような気分に陥る。


「作戦も何も、どこか一点に注意を引き付けてその隙に突撃くらいしかないんじゃないのか?転移するにも、外の連中をどうにかしなければ詰みだぞ」

「ならば、自分がその役目を引き受けましょう」


出雲が真っ先に名乗り出る。


「だったら俺も残るぞ」


続いて伊織が手を僅かに上げる。

その後、五十嵐、高柳兄弟に香川が順番に手を上げた。


もしここで、俺も外で戦うと手を上げようものなら、どうぞどうぞと全てを押し付けられそうだ。


「それなら決まりだな。諸君、頑張れ」


俺は話を打ち切り、改めて図書館の周囲に展開している敵の戦力を確認した。


正直数が圧倒的に負けている為、かなり厳しいがやるしかない。

伊崎は今にも突撃しそうだしな。


「行くぞ!」


こうして、戦いの火蓋は切って落とされる。

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