第22話異世界行って、苦労せずに貰ったチート能力で無双したいけど、冷静に考えたら我が儘の極みだよな。ここはやっぱり自前の能力に限る


死の武器商アンダー・コレクターの基地から帰還して、数日が経過した。

死の武器商アンダー・コレクターから、決められた魔道具レリックは届いたし、ヴァルケン達も無事に戻ってきた。


俺はこの一週間をどう過ごしていたかというと、まあ、頑張った。

ポテチ片手に、異世界物の映画を鑑賞して、ライトノベルも読み漁った。ついでに数多のモンスターを狩って狩って狩りまくった。

これで俺に死角はない。


「あんたは遊んでただけでしょうが」


真美が俺の頭を軽くペシペシと叩く。


「勝手に俺の純情ピュアピュアハートを読むなよ。照れるだろ」

「……それ、本気で言ってる?」


真美がソファーで寝転びながらゲームをしている俺に驚愕の表情を見せる。


「冗談に決まってるだろ」

「そうよね。タチの悪いブラックジョークよね」

「お二方とも、仲がよろしいようで」


ヴァルケンが茶化すように口を挟む。その手には、ポットとティーカップが二つ乗っている。


「コーヒーか?」

「ええ、コンビニで買った物ではございませんが」

「うるせえよ。どうせコロンビア産だろ?」

「いえ、キリマンジャロの豆だそうですよ。六華様がくださいました」

六華りっかか、どうせ使いっ走りだろうな。可哀想に」

「私もそうなのですが」

「それはそれ、これはこれだ」


ヴァルケンは笑みを浮かべながら、「そういう事にしておきます」と言い、キッチンへと下がっていく。

そして、不意に立ち止まり口を開く。


「真美様の世界へは本日向かうのですか?」

「そうだな、今日行くぞ。他の連中にも一時間後にはリビングに降りてくるように伝えといて」

「かしこまりました」


だが、ヴァルケンはそのままキッチンへ向かう。恐らく、念話で伝えたのだろう。


「いいの?」

「何を今更、もう遅いぞ。それにしても、その質問は今日だけで何回目だよ」


真美が申し訳なさそうに、上目遣いで俺に尋ねる。

ソファーから起き上がると、空いたスペースに真美が座る。


「以前も言ったかもしれないが、俺にもいろいろとやらなきゃいけない事があるからな。そのついでだ。あくまでも、真美の手助けは二番目だからな」

「分かったわ、少し気が楽になった。少しね」

「そうか、それならよかった。少しな」


笑いを噛み殺したような表情をしている真美は、覚悟を決めた眼差しで話を変える。


「私は、今回どんな結末になっても目を背けない」

「そうかい。何があろうとも真っ正面から受け止めるってか?逃げるのは楽だぞ」

「そこは頑張れって言う所よ」

「それは知らなかったな」


惚けた口調の俺に、真美は頬を可愛らしく膨らませながらも、次第に優しい笑みへと変わる。


「ありがとう」

「こちらこそ」


俺は真美に微かにではあるが思わず見とれる。

何故なら、あまりにも儚げなで美しかったからだ。

だからこそ、俺は告げる。


「真美、お前には夢か理想はあるか?」

「えっ?……まあ、無いと言えば嘘になるわね」


脈絡の掴めない俺からの質問に真美は疑問を隠せていない。


「ならば、今のうちに捨てておけ」

「どうしてよ?」

「夢も理想も、追い求めると追い求めただけ遠ざかる。理想は全てを無慈悲に殺していくだけだからな」

「それはあなたの経験?」


真美からの純粋な曇り一つ無い疑問に思わず失笑する。


「ごめんなさい、今のは余計だったわね。忘れて」

「その通りだな。忘れよう」


ことばを発しづらい微妙な空気の中、他の同居人達がリビングに集まるのを待つ。

勿論、最初に来たのはヴァルケン。

キッチンで食器などの整理だけをやっていたのだから、早く終わって当然とでも言いたげな表情をしている。

その後にやって来たタマリとオリヴィアとレオウェイダは、この家にやって来た時と同じ衣装で降りてくる。

タマリは巫女服、オリヴィアは純白の軍服に軍帽、レオウェイダは漆黒の甲冑。

衣装などは魔術で一瞬で着替える事も可能だが、やる気の現れだろう。


「ラースとテラが遅いな」


俺の言葉にリビングにいる全員が階段へと視線を向ける。


「私が確認して参ります」


ヴァルケンがポキポキペキペキと指を鳴らしながら満面の笑みで階段を上がっていく。


「後五分で出発だ。お前ら、ちゃんと準備はできてるか?おやつは五百円までだぞ。破ってないだろうな?」

「おやつは帝様だけですよぉ」


俺の言葉にタマリがつっこむ。


「俺は取り寄せアポートがあるから、関係ないんだよ。ところで真美」

「どうしたの?」

「地球にやって来た時に来ていたドレスアーマーは持っていかないのか?」


真美は得意気に笑う。


「私は、この一週間で指定した衣装に着替える魔術を覚えたのよ!だから、わざわざ持っていく必要はないわ!」


馬鹿だコイツ。


「もっと有効的な魔術を覚えろよ。洗脳とか大規模攻撃とかいろいろあんだろ?」

「私はクリーンで潔白に生きてるのよ」

「お前は政治家かよ。魔王だろ?もっと邪悪に生きろよ。クリーン?潔白?いっそ、勇者にジョブチェンジした方がいいんじゃないのか?」

「何で勇者よ、馬鹿にしてるの?」

「馬鹿にしてるって、勇者って言ったら凄いんだぞ」


俺を軽く睨む真美に弁解する。


「だって勇者って好きなだけ魔王の配下を虐殺して、好きなだけ暴れて、その尻拭いを他人押し付けれる素晴らしい職業なんだぞ。期待されるって特典がなければ俺だってなりたいよ」

「やっぱりバカにしてるじゃない」


真美は拗ねたように唇を尖らせる。


「ある程度仕事したら、一生遊んで暮らせそうだな。勇者って」

「私の世界の勇者はそうでもないわよ」

「そうなのか?なら、やめとこう」

「それが懸命よ。私の世界で──」


真美は言葉の途中で口を閉ざす。


「どうした?」


俺は真美の視線の方向を見れば、全てを理解できた。


頭を痛そうに撫でるラースと大きなリュックサックを背負い、期待に顔を輝かせたテラがヴァルケンの後ろから階段を降りてきている。

少なくとも、テラは反省していないな。冒険したくてたまらないって表情をしている。

ヴァルケンはいつもの燕尾服を着ているが、ラースとテラはありふれたTシャツを見に纏っている。これから異界へ行く格好ではない。


「全員揃ったし、行くか」


俺はポケットから元覇王の王鍵ドミネートキーを取り出す。そして、宙へ差し込み回転させる。


「ちゃんと起動したな。流石は俺の魔道具レリック


金の鍵が差し込まれた虚空が円状のゲートが現れる。


「仕様が変わったわね」

「いろいろと改造させたからな」


真美の疑問に端的に答える。


俺はゲートを通り抜けると異界へと足を付けた。


「これが真美の世界か。普通だな」


俺の後を追うように次々とゲートを通った真美達を見る。


「普通で悪かったわね。でも私の故郷よ」

「この魔王城擬きがか?いまいち迫力に欠けるな」


俺達の眼前には魔王城と言われれば首を傾げてしまうような城塞がそびえ立っている。

西洋と日本の城を折衷して作り上げたような建築物。

はっきり言って微妙。

俺の予想としては、雷鳴轟く暗闇に、天まで届きそうな禍々しい城塞と攻撃的な城壁が頭の中で建立されていた。


「現実なんて、所詮こんなもんだな。期待して悪かったな」

「失礼ね!」


真美の右ストレートが俺の腹を打つ。

その鮮やかな手際に、ラースとオリヴィアとレオウェイダが称賛する。


「帝様、これからどうしますか?」


ヴァルケンの言葉に、俺は立ち直る。


「真美のヘルプと俺の任務、どちらもこなさなければならないからな」

「では、別行動ですか?」


俺はヴァルケンに頷く。


「ならば、私は帝様と参ります」

「いや、ヴァルケンは真美のヘルプに行ってくれ。纏めれる奴が必要だからな。テラとレオウェイダも真美のヘルプだ。後は俺と来い」


各々は俺の言葉に従うように了承の意を示す。


「ヴァルケン、終わったら連絡してくれ」

「かしこまりました」

「行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


俺は再び鍵を虚空に差し、ゲートを開く。


「帝、行き先は分かってんのか?」


ラースの小声での問いに、心配するなと返す。


一週間もの間、何もしていない訳がない。確かにグータラしていた事も認めるが、真美の世界の場所を特定し、その世界の国や場所を使い魔を使い、調べていた。

そして、既に白凰優馬の居場所も掴んでいる。直で行くつもりはないけど。


「今回は、いろいろ楽しみながら行こうぜ。白凰を殺していく終わりじゃないからな。適当にブラついて掛かった獲物を引っ捕らえればいい」

「ねえ帝、その獲物が引っ掛からなかった場合はどうするのでしょうか?」

「その時は、餌を俺達から何かに変える。情報を引き出そうとしたら尻尾の先っちょくらいは出すだろ」

「つまりぃ、それまでは遊ぶって事ですかぁ?」

「ご名答」


俺はそれだけ言うと、ゲートをくぐる。

向かった先は白凰が召喚された国とはまた別の国の都市の近く。周囲には広大な草原が広がっている。


「帝、ここはどこなんだ?」

「エリルト公国って国の首都に近い草原だ」

「ねえ帝!周囲に敵対反応が複数ありますよ」

「ファンタジーのゲームで言うところのモンスターだな。油断せずに倒していけ。俺は休憩する」


取り寄せアポートで折り畳み式の椅子を取り出し、座る。


草陰から出てきたのは、粘土を人形に捏ねたような物体。最初は草陰に隠れるサイズだったが、段々と大きくなり今では三メートル程まで成長している。実際は成長なのか、ただの巨大化なのかは分からないが。

そんなモンスターが十体も俺達を囲んでいる。


「頑張れー」


気の抜けるような俺の応援に応えるように、ラースが両腕を振り上げた泥人形を蹴り飛ばす。

その泥人形は、後方の泥人形二体を巻き込みながら砕ける。


壊れた泥人形の魔力を観察したが、魔力を通した攻撃により破壊されれば、修復はしないらしい。ラースに限らず、ヴァルケンもテラも高位の存在は攻撃の一つ一つに意識していなくとも魔力が宿るため、この泥人形の天敵と言えるだろう。


タマリとオリヴィアを見れば、それぞれ呪符とレイピアを使い、泥人形を次々と撃破している。

ラース達が一切全力を出していない事と泥人形が出現している事もあり、なかなか戦闘は終わらない。

俺が戦えば状況は一変する。

だからこそ、立ち上がり口を開く。


「俺は戦いたくないから、もうちょっと頑張ってな」


よし、これでいい。

明らかにラースが、それは違う!と言いたげな顔で俺を見るが、俺は笑顔で手を振る。


テンプレであれば、誰か美女か美少女か国王とかその辺りが襲われてる所を颯爽さっそうと現れて助けるのだろうが、見渡す限り泥人形。

もうダメだ。泥人形が可愛く見えてきた。

いや、でもなかなか愛嬌のある顔だと思うよ。結構凛々しくも見えるし。……ラースに握り潰された。


タマリは呪符から狐を象った蒼白い炎達を泥人形に向かわせ、オリヴィアは地と水平にレイピアを撫でるようにゆっくりと振るうだけで数体の泥人形が切り刻まれる。

彼女達の顔には、飽きたというよりも面白い敵が出てこないかなとでも思っているようで非常に好戦的な顔付きをしている。

良いチームに分けたつもりが戦闘狂ばかり連れて来たかもしれないな。ラースとテラ辺りをトレードしとけばよかった。

俺は今になって後悔する。


「帝、終わったぞ!」


ラースが俺の方に歩きながら、琥珀のような何かを放る。


「何だ?これは」

「琥珀みたいだがな?それに触れた瞬間、泥の増殖がなくなったぞ」

「つまり、元凶はコイツか」


俺は手の中の物体を見る。

両手に収まるサイズのそれは、確かに琥珀にように見える。琥珀とは天然樹脂の化石であるが魔力は流れてはいない。だが、これには魔力が流れている。

それも一般の異能力者、数名分の総魔力量に匹敵する程の魔力が。


「帝様ぁ、それはどうするのですかぁ?」

「回収するか。使えそうだし」


死の武器商アンダー・コレクターの所に行った時と同じ魔道具レリックを装備し、死の武器商アンダー・コレクターから貰った光線銃を懐に忍ばせた俺には、これ以上の武器は必要ないように感じるが、この石をポケットに入れる。


「お前達、周囲に襲われてる馬車とかないか?テンプレなら、モンスターとか山賊とかに襲われてると思うが」


オリヴィアが一生懸命に周囲を見ながら口を開く。


「ねえ帝、それは夢や勘で見たのですか?それならば、もう少し詳しい説明が欲しいです」

「見たな、ライトノベルで」


ラースとタマリが故障したロボットのような挙動で俺を見る。


「どうした?」

「帝様ぁ、そんな事ぉ──」

「そうそう起こる訳がねえだろ!」


うん、確かに。

それなりに地位がある人物ならばそれ相応の護衛を付けるし、そうじゃなくとも安全なルートを最適な人員だけを用意するだろう。モンスターや山賊程度では第三者の悪意かイレギュラーな存在が介入しない限りはピンチになる方が難しい。


「帝、それなら何とか公国の首都に向かうか?」

「それもそうだな。ここから東へ二十キロメートルくらいだな」

「結構遠いですねぇ」

「ねえ帝、首都の中に転移するのですか?」

「どうするかね。歩いて行くには遠いし、転移するべきだな。疲れるの嫌だし」

「最後のはただの本音だな」


ラースの呆れのこもった呟きをスルーする。


「んっ?」


俺は、急に吹き始めたそよ風を全身で受け止めながら空を見上げる。だが、そこには何もない。

視線を周囲に向ければ遥か遠くに連なる山脈から異質で歪な気配が感じ取れる。


「ラース」

「帝、やっぱり感じるか?」


タマリとオリヴィアも山脈を見ていた。


「帝、何か来そうだな」

「それも首都の方に向かってな」

「ねえ帝、どうしますか?」

「ここで倒した方が最善だろうな。首都が襲われれば情報収集どころじゃなくなるし」

「それならぁ、ここで迎え撃ちますぅ?」

「いや、あちらさん、かなり進むのが遅いみたいだし出向いた方が手間がかからないかもな」


俺は山脈のふもとへ繋がるゲートを作り、気配の元を見る。


「コイツはデケェな」

「そうだな」


続いてきたラースが同意を示す。


十メートルを越える大きさの四本の足で地を踏む深緑色の龍が一体。

翼は退化しているのか非常に小さく、背中に申し訳程度に付いており、エメラルドのような鱗は光沢を放ち重厚な鎧のようだ。丸太よりも太く逞しい尻尾は周囲の樹木を薙ぎ倒している。

そして、地を抉る鋭く伸びた爪と力強い四肢と体躯。

蜥蜴のような口には鋭い牙が垣間見え、黒い瞳は狂気の色が孕んでいる。


「コイツの死骸で武器を作ったら面白そうじゃないか?」


龍で作る武器は、男のロマンだ。そこら辺に空を飛んでいる龍でもいないかな。


「帝様ぁ、素敵ですぅ!」

「ねえタマリ、あの猛獣のようにギラついた眼差しがたまりませんね」

「後ろ、うるさい」


地龍は狙いを俺に定めたのか、一直線に走る。

その姿はまさに猪突猛進。


「帝!俺がいくぜ!」


俺の前に立ったラースが右腕だけで地龍の進撃を止める。

周囲にはその衝撃波と轟音が伝播する。


「ハッハァ!軽いな!」


ラースは右足を振り上げ、地龍の頭を砕く。


「なかなかグロテスク」


飛び散った青い血液と脳を眺めながら呟く。


「どうだ!凄いだろ!」

「異界でラスボスだったんだからこのくらい当然だろ。さぁてと、どうしようかな。呑み込め」


俺の言葉に従うように、地表から浮かび上がった影が地龍の死骸を呑み込み、再び地中へ消えていく。


「今からドラゴン狩りしないか?」

「帝、いきなりどうした?」

「ドラゴンで武器を作りたい」


俺の言葉には何も言わず、ラースから返ってきたのは呆れた視線とため息だった。

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