逆ハーレムではないと言っても貴方は信じないんですよね?


 私とアンジェリカの怒号の響きが途切れ一瞬訪れた静寂の中、徐々に勝ち誇った様な笑顔が小鳥ちゃんに浮かぶのを私はまるでスロー再生したかのように見ていた。そしてゆっくりと小鳥ちゃんの口が動く。ああ、もう嫌な予感しかしない。


「やっと認めてくれましたね。それなら」


 勝者特有の得意げな色をのせた小鳥ちゃんの言葉を途中で遮る様にマチルダが続ける。


「ただ君は一つだけ、間違っている。我々は何か特殊な力などで想いを強制させられている訳ではない」


 それは君も分かっているだろ? と真面目な顔と地声で、案に小鳥ちゃんの浄化が効かなかった事が証明だとあげつらう。小鳥ちゃんの眉が不愉快そうに寄せられた。


 しかし困った。これをどうやって正常な流れにすればいいのか皆目見当がつかない。オネエさん達に知恵を借りようと左のキャサリンを見れば顎に人差し指を当てて思案中。右のカトリーナはポーカーフェイスのまま私と視線を合わせようとしない。聞くなと言う事か。右斜め後ろは意図的に振り返らなかった。なんか怖いし。残るは頼れるアンジェリカだがさっきから背後で一切動く気配がない。確実に鬼の形相を浮かべていそうだが覚悟を決めて振り返って、私は目を見張った。


 アンジェリカが苦悶の表情を浮かべて身動ぎ一つせず立っている。


 アンジェリカ!?


 大丈夫かと心配の声をかけるが、私の声が発せられることはなかった。沈黙の魔術かと慌ててアンジェリカに顔を向けると、アンジェリカは視線だけでマチルダを指す。そして私は悟った。アンジェリカ、拘束と沈黙のダブル掛けだわ。まあ魔術師のアンジェリカなら魔術抵抗力高いだろうしなんとかするだろう。そう自分を納得させて前に向き直って、テーブルに肘を付き私は両手で頭を抱えた。


 どうすんだよこれ!


 小鳥ちゃんとマチルダの会話は、小鳥ちゃんの発言が遅れがちになっている事からマチルダが優勢のようだ。いやどっちが勝ってもそれは真実じゃないんだけどさ。本当どうすんのこれ!?


 キャサリンやカトリーナ、バーバラが口を挟まないのはこの会話に何を言ってももう無駄だから。今更、それもこれも全部誤解で私達は本当に女同士としての友情や家族愛的なものしかないんですよ~あっはっはっとか言ったところで誰が信じるかってんだ!


 頭を抱えたまま心の中で罵詈雑言を全方向に浴びせていると小鳥ちゃんの切羽詰った声が上がった。

 

「でもっこんな関係は間違ってます!」


「間違っていようがなかろうが、それこそ君には関係ない事だ」


 鋭さが含まれた声音でマチルダがすぐに反論する。正直マチルダのその言葉にスッとした。誤解を受けるのはしょうがない事だと分かっていても、聞く耳を持たない他人になぜここまで勝手な正義を押し付けられなくてはいけないのか。

 最初はマチルダが悪乗りをしたのかと思ったが、もしかしたら違うのかもしれない。この流れは誤解を解く事は出来なくても、小鳥ちゃんを追い出す事が出来る最短の方法のような気がする。


 そろそろ私も、泥をかぶる覚悟を決めなくちゃな。



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