第5話 日々

翌日、時計の針が15時を過ぎる頃に、夕依はまたしても制服姿でやってきた。

今日は外に出るつもりはないらしく、おとなしくテレビゲームの前に座って、コントローラーを握ってはこちらに何かを訴えてきた。僕は訴えられるままに、仕方なく電源を付けてカセットを選ばせた。

夕依はアクションゲームが絶望的に下手だった。よくあるコースを選択して身を守りながらゴールを目指すゲームでは、あり得ないほど時間をかけて、何度も死にかけながらゴールする。というのも、プレイを見ている限り、目についたもの全てに近づこうとする夕依は、このゲームにおいてゴールに辿り着くよりもコースをくまなく冒険することに楽しさを見出しているようだった。

今度はRPGゲームのデータを1つ空けておこうか、きっと気に入るだろう。なんて考えながら、僕もじっとしていられなくて昔使っていた方のコントローラーを繋げ足した。


「あ、まって、落ちるこれ。」

「そこさっきも落ちてたよね。さすがに学ぼうよ。」

「ちょっと、笑わないでよ。あ、あの右上のアイテム何?」

「とってみなよ、夕依に使えるかな。」

「なんかむかつくな。とれた! うわ、なにこれ!」


普段静寂に包まれているこの部屋に、2人の笑い声が溢れかえった。楽しかった。でもそこには、ほんの少しの罪悪感もあった。夕依の制服を見るたびに、考えられずにはいられなかった。


「ねえ。学校に来いって、言わないの。」

「ん、言ってほしいの?」


僕は口を噤んだ。分からなかったから。

学校に来いって言ってもらえれば、安心できるのか。夕依に言われたら、僕は行くのだろうか。行けるのだろうか。


「行きたいなら行けばいいし、行きたくないなら無理しなくていいんだよ」

彼女はこちらを見ずに、呟いた。

不登校の後輩の家に突然上がり込んでくる先輩としては、無責任な言い方だと思った。でもそれが僕には嬉しくて、コントローラーを固く握りしめていた手から自然に力が抜けた。

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