第2話 再会

 その日はよく晴れていて、カーテン越しでも眩しく日が差していた。こんな日は嫌でも“外の世界”を意識してしまう。寝るにも寝られずにゲームでもするかとベッドから出た。それがちょうど昼頃。その時、リビングにあるインターホンが弾かれたような高い音を鳴らした。今は父も母も仕事で、弟も学校だ。この時間に鳴るのはなかなか珍しい。誰だろうかと予想しながら、ゲーム機をテレビに繋ぐ。部屋を出て確認する気はない。ましてや玄関の扉を開ける気もない。自分には関係のないことだ。しかし、音は鳴りやまずにかえってその頻度を増した気がした。薄ら恐怖を感じる。

まあ誰だとしても自分に用があるはずはないので、居留守しても問題はない。そう思うことにして、ヘッドホンを付けた。少しコントローラーを操作してから、片耳のイヤーパッドを浮かせると、音は鳴り止んでいた。ほっとして画面に向き直ると、視界の端のカーテンに何かの影が映っていた。ちなみにここは一階だから、ホラー展開ではないと信じたい。窓の向こうは庭である。


しかしここまでくるともう無視できない。恐いというか、気になるのだ。息を殺して固まっていると、窓が叩かれた。コンコンというよりはダンダンと、手のひらでせわしく叩いている。ついでに声も聞こえる気がする。自分よりも少し高い女の声だ。やむ様子もないので仕方なく窓に近づき、カーテンの切れ目から覗くと、制服を着た少女が必死の形相でいる。こちらには気づいてないようだが、慌てた様子なので少し心配な気もした。不審者にでも遭ったのだろうか、いやこんな昼間にそんなわけないか。それでも気にはなるので、長い間引いていたカーテンを思い切って開け、鍵に手をかけた。


「どうし――

「冬季!!」


一瞬何が起こったかわからなかった。様子を聞こうとすると、言葉を発し終わる前にそいつは頭突きをしてきて見事に僕の下腹部にヒットした。何なんだこいつ、いやその前に、、


「今、名前、なんで僕の名前しってんの?!誰あんた!!」

「痛っ、うわ、でかくなったね冬!引きこもって何してんの?」

「痛いのはこっちだし話聞いてよ!引きこもってって、何を知ってんだよ!誰なんだよ!」

「先輩にお前ってひど!覚えてないの?私のこと」



先輩?言われてみるとこの制服は見覚えがあるが、首元のリボンが青、つまり僕の1つ上の学年か。見た目は正直あまり覚えてないが、この態度と大声はどこかで…。

小学生のときよく遊んだ友達の姉?年上なのに子供っぽくて、僕らの遊びに割って入ってきた、名前は確か――


「ゆ、夕依、、?」

「そうだよ。あはは、覚えてた?」

「何、しにきたの?」

「なんだと思う?」


聞き返して彼女はにやっと笑った。少しは大人びていてもいい1つ上の異性なのに、むしろどこか幼い、見覚えしかない笑顔だった。


「引きこもりを、連れ出しに来た!」


そうだ、吉乃夕依。

彼女はデリカシーも糞もない、鬱陶しいくらいまっすぐの変わり者だった。

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