頭パーンしたら糖分摂取が効果的


 宿屋に戻り、まだ何か言いたげの奥さんをご主人が椅子に座らせている。グッジョブご主人と心の中で親指を立てて、やり途中だったシーツの畳み作業に没頭した。

 手の動きと思考を分断して、考えるのはレッスが勇者一行に入ってる事で今夜勇者と落ち合う計画にどんな邪魔が入るかだ。レッスも何かしらの情報を持ってきているはずだけど、私の最優先事項は勇者との対面だ。今の状況ではレッスの存在は邪魔としかいいようがない、情報があるとないとでは生死を別けると、分かってはいるけれど!


 今の全てを理解している人物と会って話したい……それだけ。

 たった、それだけなのに。


 レッスのあの行動は勇者に私を認識させない目的が今の所濃厚な線と思われ、それで仮定し私と勇者の個人的な接触を断とうとしてるのは分かる。レッスにも何か拙い事情があるものと一先ず察するとしよう。


 でも、ちょっと待てよ?


 彼は私の「味方」なのだろうか?


 よく思い出せ、私! 今までにあったことを!! レッスが恩人なのは決定的だ。野垂れ死ぬのを助けてくれて、保護し職まで用意してくれた。女将や旦那さんも家族然と接してくれた。…………レッスは? レッスはどうだったろうか? 仕事であまり接する機会もないく、会話はあまりなかった。今回の勇者召喚に関する事が初めてレッスから貰った情報だ。


 もしあの時の行為が監視などの目的でされた行動だったら?


 わからない。

 私には分からない。

 レッスという人物の情報がほとんどない。

 知っているのは宿屋夫婦の息子としてのレッスだけしかない。

 

 敵か味方かは判断できず、「不明」としか私は言いようがない。匿り、危険を知らせてくれたのは善意と思っていたい、けど同時に最大限の警戒対象人物として接しよう。


 レッスも神殿に係わる者であるのは変わりないのだから。


 自分の足りない頭で対策を出し、手元を見ればラストの一枚だった。自室の隣にある備品室に運び、そのまましばし休憩と自分の部屋に入りベットに腰かけて手を振り、いつもと変わらない音がピッと鳴った。


 まとめサイトの方に何か進展はないかと左下の隅にあるGマークを見たら、左隣になんか

「call」のマークが増えてる!! 馬鹿な私でもこれは分かる。

 

 勇者が回線がなんたらいってたのはこれか!!


 早速そこに触れると横に新しい項目がスライドして出てきた。PCっぽい出来た機能ですね、さすが勇者様です。私のスーパーファミコンのRPGメニュー画面ぽいのとでは、マッチせず違和感バリバリです。

 愚痴りながらスライドした項目の一番上にあるフレンドに手を向けたら、今度はそこの前面に新しい画面(後ろのは全部半透明になった)が出た。ハイスペックが憎い。


 画面には「フレンド」と書かれ、勇者の顔画像まで載っている。……なぜにこの画像を登録した、勇者よ。半目で涎垂らした間抜け面の変顔とか……勇者ェェ。 

 画像下に短縮設定しますか? とあった。どうせ勇者専用回線なので直通短縮設定した。


 callボタン一つで即勇者。なんだろうこの110番並みの安心感。


 勇者のチートに嫉妬が止まらないまま今度こそまとめに行く。MP節約の為、言いたい事だけ書いて逃げてみる。


 439:>>1◆qTwB.m2f1c

 パレードwww中の勇者一行を見てきた

 無事、両方共に確認完了 あとは夜を待つのみ

 追伸、恩人の宿屋息子がイケメン兵士だった誤算が生じました

 エロイ人対策ヨロ! 暇見つけてまた来るね~書き逃げサーセンwwwww 


 次に来れるのは夕食の片付けが終わったら。

 それまでは皆に丸投げしてみよう、もう自分は頭パーンしました。


 厨房に行き、ため息が出そうになった。満室での夕食って考えただけで疲れてくる。品数はさほど多くは無いけれど量が半端ないから下ごしらえが鬱になりそうな勢い。ご主人はもう準備を初めてたから急いで指示を仰ごうと近づけば野菜の山から聞きなれた罵声。


 「サボってんじゃねーよ」


 そんな芋剥き中のバイスをまるっと無視してご主人に謝り、野菜をひたすら切る仕事を貰った。忙しくなる時間帯には帰ってきてるバイスを内心で褒め、これなら案外早く終わりそうだと感謝した。


 日が落ちた頃にもう片付けが始まった。満室等の繁忙時は夕食がバイキング式、それに伴って夕食時間が早まるとご主人が教えてくれた。実質、ご主人 バイス 私だけで個別出しの給仕までは手が回らないのでとてもありがたい。家族運営ならではのスタイルですな。


 そんなこんなで食器洗いを無心でこなしていれば、気の抜けたようなポーンという音が頭に響き、あのお姉さんの声が喋りかけてきた。


 『勇者様からcallが入りました。接続しますか? 強制接続された為、接続します』


 待ってました! とばかりに私はYesと答えようとしたのに、突然続いたお姉さんの言葉がとてつもなく異常に聞こえたのは気のせいではないだろう。


 勇者ってなんでもありなんだね。



 そんな感想から待ちに待った私の夜がはじまりました。






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