ネットは無力で有力
ピッ と音を立てて目の前に出ていたゲームのメニュー画面としか思えないウィンドウを手でかき消すように払い、閉じた。椅子に座ったそのままの姿勢で両手で顔を覆い、うな垂れ、大きい溜め息を一つこぼした。
砂糖なしのカフェオレが飲みたい…。
メニュー画面の隅っこに小さく表示されたGoogleのコマンドに気付いたのはついさっきだった。歓喜と興奮で焦る頭でもなんの問題も解決出来ない事が直ぐに導かせられた。
どこに相談する? 警察? 頭がイカれてる狂人扱いで終いだ。こんな非現実的な話をまともに聞いてくれる人なんて「頭がおかしい人」前提で話を聞いて、最後に心の問題や受診を勧めるのがオチだ。
だから、「いつも」遊びにいっていた常駐板に、初めてスレ立てしてみたのがついさっき。
問題解決には至らなくても、抱えた問題を吐きだして返信があるだけで正直嬉しかった。イカれてると思われていてもだ。隠さないで堂々と態度に出された方が自分に起きている現状がイカれてると認識出来て、いっそ心地よかった。
スレを覗いて気付いた日付の衝撃は想像より小さく受け止められた。
ああ、ファンタジーだからなんでもありだろう、そのくらいだった。
スレの雰囲気が「いつも」と同じで本当に時間が経っているのか疑いたくもなったが、同時に検索していた過去の新聞記事閲覧サイトでそれは真実だと判を押された。
ずっと心配だった、咄嗟に突き飛ばしてしまった息子にあの後何もなかったかという懸念は当時の新聞記事に出ていないという事で15%位安堵できた。でも確実ではない。捨てアドでも取って実家や旦那にコンタクトをとも考えたがアドレスなんか覚えてるはずない。全部、携帯かPCの中だ。それに取れたとしても相手にされるはずがない。信じてくれたとして、家族まで「狂人」扱いされてしまう可能性が高い。
結局、八方ふさがり…。
私の世界で助けを求める事は絶望的だ。でも唯一の心のバランスを保つツールにはなった。これは確定だ。
もう一度、手をかざし、ピッと音を立ててメニュー画面を開く。私のステータスを示す場所のMPが0になっている。疲れたと思っていたのはMPを消費していたからだったんだな~と思いながら、私の中でこの世界はゲームだと固定する事に決めた。
女将さんの呼ぶ声を聞きながら休憩を切りあげるべく、私は椅子から立ち上がった。は~い、と返事をしながらMPが回復しても、中途半端に会話を切り上げた自分が立てたスレがまだある事を願った。
私が、同じ世界から、同じスレに係わった人が、同じ世界に拉致された事実を知るまで、あと少し。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます