賢者が愛した二番目の僕
小豆丸
第1話プロローグ
◇
頬の冷たい感触、そして鼻腔埋める様な青臭さを感じて意識が持ち上がる。
まだ呆けた頭で目を開こうとするも、目蓋はピクリともせず薄ら白いカーテンを映したまま。
起き上がろうと腕に力を入れると、全身に入ったヒビが抉じ開けられる様な痛みが走り、それを許さなかった。
耳を澄ませど辺りに生物の気配は感じられず、ただただ自然の息吹がさ迷っているだけだ。
(ここはドコだろう…………なんでこんなところで僕は…………)
どれ程ここに倒れ伏していたのか時間も分からないが、少しばかり落ち着きを取り戻してきた思考が頭を巡った。
どうやらどこかの森の様だ。
鼻腔に感じた青臭さは、僕の片側の鼻に流れ込んだ雑草と土か。
(──んん、なんか錆っぽい臭いもする)
それを意識した瞬間、地に伏したこめかみの鋭い痛みを思い出す。──擦過傷、どころかこれは結構深く裂けているのではと思った。
このまま死ぬのだろうかと、しばらく動けずにいるとふいに声が掛けられた。
「おや、こんなところに落ちてくる者がいるとはねえ。幸運なんだか不運なんだか」
若い女性の声だ。
それは久しく発声したかの様にか細く、しかし透き通って風に乗せられ、僕の耳に届く。
「どれ、手当てくらいはしてやろうさ。傷を見せてごらん」
体の脇に膝を付く気配と、抱き抱える腕の感触を感じる。
未だ目蓋は開かないが、片方の暗闇が取り除かれた。顔面が天を向いたようだ。
ヒュッと息を飲む音が聞こえてしばらく動きが無かったが、彼女は僕を大切そうに胸に抱えると「──これは酷いね。すぐに治そう」と囁く。
そうして、彼女から仄かに香る冬の花の香りにどこか懐かしさと寂しさを感じながら、僕は再び意識を手離した。
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