『株式会社 悪意』
リーマン一号
一話 『株式会社 悪意』
メイン通りから少し離れた人気のない雑居ビル。
そこに、一風変わった会社がある。
ーー株式会社 善意ーー
従業員数わずか数名にしてあらゆる事業を手掛ける、世に言うところの便利屋。
顧客満足度100%をモットーとし、店先には多くの依頼人が列を成す程の人気店であるが、最近になって良からぬ噂を耳にするようになった。
なんでも彼らのサービスを受けた者が次々に不幸に見合わせるという・・・
端的に言って非常に眉唾ものではあるが、ミステリー雑誌のライターを務める私にとっては行幸である。
なんせ、真実であろうがなかろうが飯の種になるなら儲けもの。
私は潜入捜査さながら依頼人を偽って店を訪ねると、一人の男に応接室へと通された。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件ですか?」
「実は、人探しをお願いしたくて・・・」
私は手元に一枚の写真を用意して男に差し出そうとすると、男はそれを手で制して少しだけ口角を上げた。
「・・・芝居は結構ですよ。雑誌のライターさんですよね?」
・・・
おそらく、私の顔にはっきりと驚いた表情が浮かんでいたことだろう。
内の事務所は基本的に個人主義で、どこへ行って何をしようが面白いものが書けるなら定時報告すら必要としない。
つまり、今日私がここに来ることは私以外の誰も知らないはずで、もちろん、手帳を取り出してメモを始めるような真似はしていない。
「・・・どうしてわかったんですか?」
私が素直に白状すると男は淡々と答えた。
「簡単ですよ。便利屋なんて得体のしれない事務所に初めて来る方はソワソワと落ち着かないものですが、あなたは非常に堂々とされていました。おそらく、こういった経験を何度もされているのでしょう。それにボイスレコーダーかと推察いたしますが、応接室に通した時に右のポケットで何か操作されましたね」
刑事ドラマを思わせるほどの名探偵ぶりにさらに驚いた私は、ポケットから物を取り出した。
「経験値が仇になりましたね・・・。次から気を付けますよ。それにしても、ボイスレコーダーに関してはスマートホンとは考えなかったんですか?」
「そちらは内ポケットですね。待合室で仕舞うのを確認していました」
そこまで見ていたか・・・。
「素晴らしい観察眼ですね。では、バレてしまったので本題に入らせていただきますが、こちらの会社で少し怪しい噂を耳にしたもので取材をさせ欲しいんですよ」
「構いませんよ」
即答だった。
「当社の商売がお客様に不幸をもたらしているという噂ですよね?」
「御自身でもご存知でしたか・・・」
「ええ。よそからは「株式会社善意ではなく悪意」だなんて呼ばれることもありますから、当社としても我々の仕事ぶりをライターさんにお伝えすることで、真実を世に伝えて欲しいんです」
「なるほど。素性がバレれば門前払いの可能性を考えていたんですが、わざわざ芝居を打つ必要はなかったようですね」
私はボイスレコーダーの電源をONにした。
「では、お聞かせいただけますか?その仕事ぶりを」
「ええ。それでは、当社の経営する特別な新聞の話から始めましょうか・・・」
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