異世界転生は甘くない

@moozuukuusuu

最終話 異世界転生は甘くない

気が付くと、真っ暗な空間に光が浮かんでいた。

「目を覚まされましたね?」

「あなたは死んだのです」

そうだ。俺は交通事故にあって死んだのだ。

「あなたは生前、目立って善いことを行ってきたわけではありません」

「が、同時に悪いことも行ってきていません。」

「ですので、転生する権利があります」

死後の輪廻転生というのは宗教ではよくあるうたい文句だ。

しかし、こんなに簡単に輪廻転生していいものなのか?

「当然です。すべての人間がその道を究められるものではありませんから」

「道を究めたものしか転生できないのでは、生物の数が極端に減ってしまうでしょう?」

そういうものなのか。

しかし、俺には気になっていることがあった。

同じ世界に転生するのか否か、

転生した後に特別な力を授かったりできるのか。

「まず、転生する世界には周期がありますので、前世の世界には転生しません」

「また、当然、赤ん坊からやり直しですから、記憶は引き継ぎません」

どのような世界に転生するのか教えては?

「教えたところで赤ん坊からですよ?」

俺の今の人格は?

「異なる人生を送れば、今のあなたと同じ人格ではなくなるでしょうね」

なんてことだ。それでは、全く普通の人生を送ることになってしまうではないか。

「一応、死ぬ直前の状態からも転生可能ですが、オススメはしませんよ?」

なぜ?

「その世界のことを何も知らず、言葉もわからない、0からどころかマイナスからのスタートになるのですよ?」

・・・でも、前世の世界の知識が役に立つということもあるのではないだろうか。

「人によってはそういうこともあるかもしれませんが、あなたは、なにか専門的な知識をお持ちなのですか?」

・・・特にないな。普通の高校生だった。

「それでは、さっそく転生の準備を―」

ま、待ってくれ。特別な力を授けてくれたりはしないのか?

「・・・今のあなたは転生前の魂だけの存在です。祝福を施そうにも施す肉体がありません。」

それもそうだ。では今のまま転生し、その後に力を授けてくれないだろうか?

「・・・・・・それもオススメしません」

どうして?

「例えば、肉体を強化するとします。」

「超回復という言葉をご存知ですか?」

いいや。

「人間の肉体は傷つくと、元よりも少しだけ多めに再生するのです。」

「体を鍛えるというのは、筋肉を意図的に傷つけ、徐々に強くしていくことなのです」

なるほど。

「急に体を動かすと、どうなりますか?」

筋肉痛とか、悪いとケガをしたりする。

「そう。その通りです。」

「短期間で肉体を急激に強化するのであれば、一度あなたの体を破壊することになります」

「そして同時にあなたの肉体の回復力を大幅に向上させる」

超回復を利用して、肉体を強化するということか。つまり―

「死ぬほど痛いですよ?下手をするとショック死するかもしれません」

「更に言えば、回復力を促すということは、細胞分裂を促すということですので、寿命が縮まります」

・・・それは勘弁だな。

魔法とか、超能力とか、そういうのは?

「はぁ・・・もう言ってしまいますが、あなたの転生先の世界には魔法が存在します」

それも何か問題が?

「魔法が存在するといっても、人間自身が魔法の力を備えているわけではありません」

「人間が精霊と契約をし、魔法を行使するという術式となります」

なるほど、そういう設定の作品もあったな。

「精霊1人1人の力は、それほど大きなものではないため、強大な魔術師はたくさんの精霊と契約を行っています」

「ここが問題なのですが、精霊は同じ属性を持つものでも、個々に性質が異なります」

それで?

「ですので、個々の精霊の性質もわからないものが一度に大量の精霊と契約をすると大変なことになります」

具体的には?

「精霊同士が反発しあい、魔法が暴発、最悪死に至ることになるでしょう」

・・・では強大な魔術師はどうやってたくさんの精霊と契約をしているんだ?

「新たに契約する精霊のことを熟知し、既に契約している精霊と反発しないよう、細かな調整を行いながら、契約の数を徐々に増やしているのです」

「そうだ。あなたの前世の世界でいうところの、会社のようなものですよ」

つまり、魔術師が会社、精霊が従業員ということか。

そして、魔術師が管理職などの仕事を全て行っていると。

「そういうことです。特に精霊は子供のようなものが多いので、一つ誤ると大変なことになってしまうことも多いのです」

で、では前世の世界の品物を持ち込むという方法は?

「・・・電気、ありませんよ?」

で、では―。

「諦めが悪いですね・・・。普通に転生することの何がそんなに嫌なのですか?」

そういえば、なぜだ?

巷でそういう話が多いから、そういうものだと思ってしまっていた。

「どのような環境に生まれるかはわかりませんし、幸せな人生を送れるとも限りません」

「でも、だからこそ、皆が幸せになろうと努力をする」

「必ず報われるということもないし、望んだ結果が得られるとも限らない」

「でも、私はそんな人間が大好きです」

表情はわからないが、きっと、とてもいい笑顔をしているのだろう。

ああ。くそ。そんな風に言われたら、普通に転生してもいいと思えてきてしまうじゃないか。

「心は決まりましたね?それでは転生の準備をさせて頂きます」

来世の俺はどんな人間になるのだろう?

前世の俺よりも、多少はマシな人間になるのだろうか?

そのことを見届けることはできないけれど、後者であることを祈ろう。

「あ、人間に転生するとも限らないですよ?」

・・・・・・・。

どうか、人間に生まれ変われますように。

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