とある殺し屋の理想的な結末
@bagu
エピローグ・下
射線から逃れる。
撃たれるより前に、懐の銃を抜いて撃つ。
銃身を払い除け、当身で制する。
どれも簡単に出来た。造作も無いことだ。だが、やらなかった。
銃弾が3発、放たれた。
1発は腹を貫通し、大腸をズタズタにした。2発目は肋骨をすり抜け、右肺を傷つけながら心臓を掠めて背中を抜けた。3発目は外れた。右のこめかみを僅かに抉りながら、背後の壁にめり込んだ。
呻きながら、ベッドに腰を降ろした。出血がシーツを赤く染める。これは致命傷だ。経験から言うならば、5分と保つまい。
悪くない最後だ。
真剣にそう思った。迎える結末として、これ以上は無いだろう。
いつか、相応の報いを受けるべきだ。そう考えてこれまで生きてきた。覚悟を決めたあの時から。無意味な死を。あるいは、誰かにとっての、意味のある死を与えられるべきだと。
震える手で、日記帳を手に取った。挟み込んであった栞を全て引き抜いた。
「なあ、日記でも……付けろよ。きっと……役に立つからよ」
手に持っていた日記帳を差し出した。手が震えて、もうあまり力も入らない。
人を殺した人間を待つ世界は、残酷なものだ。社会を転がり落ちて、最後はこのように死ぬ。そのような世界であって欲しいと、ずっと願っていた。
だから、もし死に方を選べるならば、それは幸せなことなのだろう。そう。これは自らが望んだ死だ。
この日記帳を押し付けてきた人間の気持ちが、今なら分かる気がした。
後悔は無い。
後悔は、無い。
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