第31話 お出掛けです
本日2話目です。
ジゼル視点に戻ります。
もう一話、22時に投稿予定です!
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「ドロシー、私に変な所は無い?」
「はいっ!いつも以上に可愛らしくて素敵ですよ〜ぅ!」
今日は待ちに待ったクリストファー様とのお出かけの日。
ライラック色のワンピースを着て、髪はハーフアップにしてリボンを付けています。腰には大きめの、髪と同色の青いリボンが付けられています。
「レヴィロ様は、ジゼル様とどう待ち合わせるつもりなのでしょうかぁ……」
「うふふふっ、大丈夫よ。そこまではちゃんと私でも行けるわ?」
待ち合わせ場所は校舎の裏庭。
そこまでは、普通ならば寮を出て、校門の前にいる衛兵さんの横を通って行かなければなりません。勿論、校舎に入る時は制服でないといけませんし。
で、す、が。
私達は、裏技を使います。
転移です。
クリストファー様も転移を使えるようで、校舎裏にそれぞれ転移をして来よう、という事になりました。
さて、ドロシーから見送られて、私は裏庭に到着しました。既に来ていたクリストファー様は、壁際に腕を組みながら寄りかかっていました。シャツに紺ベスト、黒いパンツとラフな格好の彼は、私に気がつくと、ゆっくりと瞼を上げて笑みを浮かべます。
「こんにちは、ジゼル嬢。今日は一段と綺麗で可愛らしいですよ」
「御機嫌よう、レヴィロ様。ありがとうございます。………その、レヴィロ様も素敵です、わ」
「ふふふっ、ありがとうございます。行きましょうか」
余裕で返すクリストファー様に流石だとも思いましたが、それ以上に、これまで沢山の令嬢に言われてきたからだと思うと、苦しくて胸が痛みました。
「あの、レヴィロ様。どうやって敷地内を出るのですか……?」
彼は私を手招くと、石壁に人一人分が通れる位の穴が空いていました。丁度低木の葉の裏に隠れていて、中々気が付きにくい所ですね。
背を屈めて穴を通り抜け、少し路地を歩いて大通りに出れば、そこは沢山の人で賑わう商店街でした。
香ばしい香り、呼び込む店員の声、値切る客の声……。五感が刺激される光景に、私は目を輝かせました。それを見てクリストファー様は嬉しそうに笑い、「行きましょうか」とエスコートをして下さいます。
文房具の店に着く前に、私達は魔道具や、本、最近巷で流行っているらしいカフェに寄り道しました。クリストファー様は甘党のようで、フルーツタルトに頬を染めながらゆっくり口に運ぶ様子に、くすりと笑ってしまいました。
『………恥ずかしいですよね。やはり男でこういったものを好むのは』
『あら、そんな事はありませんわ?お菓子は美味しいですもの。………食べ過ぎには注意しなければなりませんけれど』
目を僅かに瞠ったクリストファー様ははにかんだように笑みを零しました。………いちいち素敵で心臓が鳴り止まないのをどうにかして欲しい今日この頃です。
「さぁ、着きましたよ」
レトロな外装のそこは、隠れ家的店でした。古き良き伝統を持つ老舗の佇まいに、ほうっと息を零しました。キィっと古びた木製のドアをクリストファー様が開けると、沢山の文具が目に入ります。
宝石やドレスとは違った輝きに、おもむろに足を踏み入れ一つ一つ見ていきます。縦に綺麗に並べられた羽根ペンや万年筆、インク壺に便箋等、様々な機能や形があって面白いです。
「これが気に入ったようですね」
微笑ましそうに温かな視線で見ていたクリストファー様は、私が釘付けになっていた、装飾の美しい万年筆に手を伸ばしました。そのまま流れる様に店主に話しかけ、お会計を済ませてしまったので、私は慌ててクリストファー様に駆け寄ります。
「あのっ、そんなっ、万年筆を頂く訳にも………!」
繊細な玻璃細工のついた万年筆ですから、普通の万年筆とは比にならない位値が張ります。そもそも羽根ペンと違って万年筆はお高いですし、私が万年筆を見ていたのは、そもそもの文具が魅力的だったのも勿論ですが、それ以上に、付与された魔術に興味があったからです。魔術付きのものは魔術無しのものの2倍の値段ですし………。レヴィロ公爵家が幾ら潤っていたとしても、私の為にそこまでして頂くことはありません。
う、嬉しいことは、確かですが………。
しかしクリストファー様は首を横に振って、私の掌の上にぽんと万年筆を乗せました。
「いいんですよ。僕に、これくらいジゼル嬢に贈らせて下さい」
「………あ、りがとう、ござい、ます」
そう言ってニコニコ笑うクリストファー様は、最高に格好良くてじんと身体に染み渡りました。羽根のようにふわふわと心地よい気持ちになりながら受け取ります。
次は何処に行きたいか、と聞かれていた最中、ドアのベルの鳴る声が聴こえてチラリと目を向けました。そして、その人物に身体が硬直してしまいます。
「―――――――――リズ………?」
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