第2章 学園でも私は逃げる

第17話 半年ちょっとが経ちました

 あれから半年強が経ちました。


 あの3人での修羅場なお茶会以来、殿下は家に訪れなくなりました。一応は婚約者候補なので、「庭園散策会」や「お茶会」という名の「婚約者候補と殿下の仲を深めよう会」に参加はしますが、前みたく絡んできたりは一切しません。寧ろお互いにお互いを避けている気がします。


 私としてはジルフォード殿下と関わらずに生きるというのはとても嬉しい事ですし、一家全員、いえ、姉様以外は舞い上がるほど喜んでいました。


 ですが、私はこの別れ方は釈然としません。何度か、お詫びにいこうと兄様に尋ねたことはあるのですが、「ごめんね」と執務やらなんやらで、やんわりお断りされてしまったのです。それ以上は踏み込めませんのでなんとも言えませんが、謝罪もさせて頂けないのかとショックを受けました。……自業自得ですが。


 しかし、一つだけほっとしたことと言えば、フリージア様があの一件以降も変わらず王子様にアタックしていることです。私の行動で無理矢理彼女の想いを踏みにじったなんてことがありましたら、それこそショックで立ち直れません。


 変わったこともあります。

 フリージア様はあれ以来、私と殿下をちらっと心配そうに見つめるようになりました。それに私は気が付かない振りをしていますが……。


 もうすぐ学園に通う年齢となります。

 学園、とは、魔力を持つもの全員が強制的に通わされる教育機関で、私や、フリージア様、殿下も通われます。


 この間、クラス分けの為の試験を受けてきましたが、私はウェリス侯爵家の為にも一番上のクラスであるAクラスにならなければなりませんし、フリージア様も公爵家、ましてや殿下は王族ですから、彼らもAクラスでしょう。そうなれば必然的に関わることになりますから、私はそれを危惧しています。


 それ以外にも私には不安になる点があります。それは、これから先、一生抱えることとなるでしょうから憂鬱です。



「ジゼル様ぁ、旦那様がお呼びです~」


「今行くわ」



 自室で密かに溜息をついた私をドロシーが呼びに来ました。

 学園も始まることですし、おそらくでしょう。

 どくんどくんと激しく波打つ心臓を掌で押さえながら、父様の書斎に足を運びました。




 **




「父様、参りました」


「リズ」



 入室すれば、父様は温かく迎え入れてくれました。しかしその佇まいから緊張感が伝わってくるのは、話が話だからでしょう。私も、今まで気にしていなかった問題を念頭に置かなければなりません。



「……分かっているな、リズ。決して無理はするな」


「はい」


「辛くなる前に伝書鳩を直ぐに飛ばしなさい。お前の場合は転移魔法を使った方が良いかもしれないが……」


「はい」



 今までは、まだ何とかなっていたもの……いえ、筆頭魔術師の父様が傍にいたからこそ平気だったことが、学園に通って寮に入ってしまうので成り立たなくなってしまいます。自分でどうにかする為にも幼いころから魔術を学んできていた訳ですが、それがいつまで持つかどうか。



「今までも守ってきたリズだから心配はしていないが、これは誰にも言うな。例え信頼する友人でも、殿下でも、家族でも」


「はい、勿論。友人にも、母様にも、姉様や兄様にも、伝えません。……殿下にも」



 何度も私を気遣うように「無理は決してしないように」と繰り返す父様に、私は微笑みかけました。私が怖いと感じないわけではありません。ですが私はウェリス侯爵家の娘です。これくらい余裕に突破しなければならないとも思うのです。


 父様は私の顔を見て目を見張った後、泣きそうな笑みを浮かべて私をぎゅっと力強く抱きしめました。それに私も目頭が熱くなって鼻の奥がつんとします。



「リズ、必ずお前の事は父様が守るから、安心して行っておいで」


「はいっ」



 体を離した私は、涙に気づかれないように急ぎ気味に書斎を出ました。














 だから知らない。

 父様が一人で静かに息を殺して涙を流していたことを。






*****

次話から新章?です。

重い話は一旦しまって、次話はいつものノリで、軽めに行こうと思います!

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