第16話 どうかお考え下さい


 翌日。

 殿下はほぼ毎日ウェリス家にいらっしゃるので、今日も例外なく訪問されるだろうと踏み、フリージア様をご招待しました。どうして殿下が私の家に来ているの、とか言う疑問点は「友達ですから」の一点張りで突き通しました。


 そして読み通り、家にやってきたジルフォード殿下。

 私とフリージア様でお出迎えをすれば、殿下は「ん?」と一瞬眉を顰めましたが、直ぐにキラキラ笑顔に戻りました。でも……何処か不自然に感じるのは私だけなのでしょうか。


 メンバーが集まれば庭園でお茶会です。

 イリーナを呼んでお茶を淹れて貰います。アッサムにしたのですが、殿下やフリージア様の口に合うでしょうか。



「あら……アッサムね」


「えぇ、そうです。お気に召して頂けましたか?」


「そ、そういうわけではなくってよっ!」



 フリージア様は耳を赤くしてそっぽを向いてしまいました。なるほど、彼女は典型的ツンデレなのですね。でもちゃんとこの紅茶を好んでくれたことは分かりますよ。先ほどからティーカップに口をつける度に僅かですが頬が柔らかく緩んでいるのですから。


 ニマニマしながらフリージア様を盗み見ていると、視線を感じ斜め左を見れば、こちらも穏やかに笑みを浮かべながら見ている殿下がいました。……えぇ、私を見ている殿下が。


 殿下、今のフリージア様は萌えポイント盛沢山でしたよ!見ないでどうするの!


 私も口元に作った笑みは崩しませんが、目の奥で気づかれないようにジト目で睨んでおき、どうしたら目の前の二人が話せる環境を作れるか画策します。



「殿下は如何ですか?」


「あぁ、王城でいつも飲んでいる紅茶にそっくりだ。美味しいよ」


「光栄にございます」


「だからほっとしたよ。リズと私が結ばれて王宮入りした時に、リズの口に合わないものだったら私としても辛いからね」



 私もフリージア様も一瞬で凍り付きました。


 な に 爆 弾 発 言 し て く れ ち ゃ っ て い る の か し ら こ の 王 子 様 は ?


 おかげで折角お近づきになれたフリージア様が涙目でこちらを睨みつけてきますし、私は殿下に少しイラっとしますし、散々です。乙女心がさっぱりな殿下はこれはきちんと教え込まなければいけませんね。これではフリージア様が傷つきます。


 そんな私の思いに気づいていないのか、はたまた気づいているのに気づいていない振りをしているのかは分かりませんが、しれっと優雅に紅茶を嗜む殿下。後者である確率が圧倒的に高いです。



「……殿下?」



 思ったよりも低い声が出ました。



「何だい、愛しい私の婚約者殿。リズから話しかけて貰えるとは嬉しいね」


「わたくしは、殿下の婚約者になるとは一言も申し上げてはおりませんわ」



 私の言葉に紅茶を飲む動きを止めたジルフォード殿下は、カップを静かにテーブルに置くと、冷笑を浮かべ私に向き直りました。足を組んでこちらを見据える殿下はなかなか迫力がありますし、これからの発言は不敬罪にとられる可能性は十分にありますので、私自身かなりビビっています。


 ですが。ですが。ですが。


 私は私なりの信念があります。

 それがどんなにちっぽけでくだらなくて、他者ならどうでもいいと感じることでも、私にとってそれはかけがえのないもので。

 それを捻じ曲げるような性は生憎持ち合わせてはいません。私は頑固なのです。



「リズ。君は私の婚約者だ」


「いいえ。違いますわ。候補ではあるかもしれませんが、殿下の婚約者では断じてありません。誤解のなきよう」


「ジゼル」


「……殿下。仮にわたくしが婚約者だとして、それはいずれ解消または破棄となるでしょう。ならなかったとしても、それは底冷えたものとなる筈なのです」



 殿下から表情が抜け落ちました。睨みも、笑いも、嘲りもない、無機質なその顔に、隣のフリージア様は肩を震わせました。私もフリージア様の理想の王子様像を目の前で崩して傷つけていますから、殿下と同類ですね。自分にも嫌気がさします。


 私は、殿下の婚約者になりたくないし、



 なってはから――――。




「殿下、どうか周りに目を向けて、ご聡明なご判断を―――」






 *****


 やっとタグの「訳アリ」出せましたー!


 こじれにこじれていますね。

 どうかジルには頑張って欲しいところです。




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