第14話 宣誓書を書きましょうか!



 グラシエ公爵邸に両親とやって参りました。


 馬車の中で、絶対に王子様関連だ、行きたくない、と頭を抱えていた私の肩を、父様が物凄く良い笑顔で叩いたので、水魔法を生成させて父様の頭の上からバシャーンと掛けてやろうかと思いました。……本気で思ったりなんかしてないですからね?

 やった所でトップレベルの魔導師の父様には一雫も掛からないでしょうが。





「いらっしゃいレイモンド、ロゼリア夫人、ジゼルちゃん」



 グラシエ公爵と夫人、そしてフリージア様に出迎えられました。フリージア様はもう笑うのも止めたみたいです。表情が抜け落ちていますので、本気で怒っているのがありありと分かります。


 それぞれ会話をしていた両親達は客室に向かうようです。私もそれに付いていこうとしましたが、グラシエ公爵と父様からとんでも発言をくらってしまいました。



「じゃあフリージア、ジゼルちゃんと遊んでおいで」


「リズ、いってらっしゃい」



 こめかみをひくつかせながら、分かりましたと一礼すると、「ついてきなさい」とフリージア様が目で語りかけてきたので、私は浅く頭を下げて先導するフリージア様に付いて行きました。


 案内されたところはフリージア様の私室のようです。「下がりなさい」と流し目&命令口調で侍女に言うところはかなりキマっているというか、やはり威厳のある方が殿下の妃になるべきだと再認識します。


 ……今気が付きましたが、フリージア様の部屋に私と本人の二人きり。

 どうしよう。ドアは閉まっていますし、窓も塞がっていますので、退路は完全に断たれています。



「ねぇ、貴方」



 ご自慢の美しい縦ロールを手の甲で勢いよく払ったフリージア様は、長い睫毛の生えた大きな瞳で私を睨みます。腕を組んだ時の姿勢や、そっと置かれた手の指先まで優雅で洗練されており、畏怖を通り越して崇拝するレベルです。


 ……え、違う?



「殿下に取り入って何をするつもりなのかしら?貴方如きが殿下に釣り合うなんて自惚れるのはやめておいた方がよろしくてよ?……殿下の婚約者の座に相応しいのはこのわたくしなの。邪魔者は去って下さらない?」



 うーん、清々しいほどのテンプレ。こういうセリフは何度も本で出てきましたし、驚きもしませんし、お茶会でも散々色々な所で耳にしましたし。殿下には愛情のあの字も、ましてや親愛のしの字も出てきていない私は、傷つきもなんともしません。


 むしろ「フリージア様王子妃に添える会」会長の私と致しましては、こうやってフリージア様が私を王子様から遠ざけてくれる事に加え、優秀な殿下と優秀なフリージア様が結ばれれば国は安泰でしょうから、万々歳です。何よりお似合いの二人を見るのが嬉しいのですよ。



「グラシエ公爵令嬢様、わたくしは殿下の妃にも、ましてや婚約者にもなる気は全くございません」


「はっ、この間だって殿下の色を纏って殿下にエスコートされて来ていたじゃない。王妃様にまで認められて。信用ならないわ。もし引かなければ実力行使致しますけれど覚悟はよろしくて?」



 えぇ。私も想定外でしたよ、あの時は。

 いや、弁明させて頂きますとですね、あれ、殿下のお願いという名の脅迫でしたし。フリージア様が心配なさるような点は一つもないのですが、恐らく幾ら言っても納得は去れないでしょう。どうすべきですかね。



「わたくしは絶対に殿下の婚約者にはならないとサインをいたしましょうか?」


「……え」


「そうですね、それだけではなくフリージア様を後押し致しましょう。ただ……その場合はわたくし個人の意見であってウェリス家は無関係なので力としては軟弱かもしれませんが……」


「……は……え……?」


「それでもご満足して頂けない場合は父に支持できるかどうか相談させていただきますわ」


「……は……?」


「あぁ!そうですね、わたくしの血判も押しましょう。そうすれば信じて頂けるようですから。ペンと紙と小さな針を貸して頂けますか?」



 フリージア様は双眸を見開いてぽかんとしていました。

 私なにかしてしまいましたか……?


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