第4話 おかしいです
「ジルフォード王子殿下、この度はこのような会にご招待して頂きありがとうございます」
私はカーテシーをしました。王子様はにっこりと愛らしい笑顔を浮かべて、「喜んでくれて嬉しいです」と言いました。……くそう。女子より肌がすべすべで、まつげも長くて綺麗ってどういうことじゃい。
そして私を椅子に座らせると、殿下は私の目の前に座りました。本当は座る前に帰ろうと思ったのですが、このキラキラ笑顔に中てられて、なんだか申し訳なくなってきて座ってしまったのです。
王宮で働く侍女はエリート中のエリートしか居ません。なので淹れてくれた紅茶がもの凄く美味しい!これはイチゴの果実をたっぷり使って淹れてあってとってもフルーティー。渋みもなくて、すっきりしているのでイチゴと喧嘩していないし。
……ってあれ。紅茶をたしなんでいる場合じゃないですね。
少しだけ後ろ髪が引かれつつも、カップをソーサーに戻した私は、ニコニコしている殿下を見つめました。
「ジゼル嬢はいつも何をして過ごしているのです?」
「……庭の散策です」
かなり、かなり、オブラートに包みました。正確には「庭でかくれんぼと追いかけっこ」が正解です。99パーセントが嘘ですごめんなさい。冷汗が止まりません。早く帰りたい。
「そうなのですね。では今度一緒にここの庭園を二人で散策しましょうか」
な ん で す と ?
いいえ、ジルフォード王子殿下。わたくし、ここには王命じゃない限りもう来ないと思いますわ。おほほほほ。
と、頬を引きつらせつつ、笑っておきました。
このままだと自分の身が危険だ、そう思った私は他のご令嬢の事を思い出し、そして閃きました。
「……他の方もいらっしゃる事ですし、わたくしはこれで失礼いたします」
そそくさと立った私の手首をにっこり笑っている王子様が掴んで離しません。目が笑ってませんよ、殿下。
「ジゼル嬢、まだ全然大丈夫ですよ。まだ10分も経ってないのですから」
「……ハイ」
怖すぎます。目で「お前に拒否権はねえよ」と言われているようです。
「ジゼル嬢、仲良くなった印に僕の事を『ジル』って呼んでくれませんか?」
仲良くなった印て……仲良くなった印……。
え、いつ仲良く……?
困惑でその思いが出ていたのか目の前の殿下の雲行きが怪しくなってきました。私は身震いをしたあと、笑って乗り切ります。
「殿下、わたくしめが殿下のお名前をお呼びするなど……恐れ多いです」
「そんな、名前で呼んで欲しいです。何だか他人行儀過ぎるでしょう?」
「殿下のお名前は殿下の婚約者の方が唯一お呼びできるものだと聞いております」
「それは嘘ですよ。そんなこと言ったら僕の友人も名前を呼べなくなってしまうし。それはそうとジゼル嬢、もう少しフランクに喋りませんか?」
無理です。
「そんな嫌そうにしなくてもー。ね?いいでしょう?」
「わ、わたくし、ご令嬢達から睨まれてしまいますわ……」
「大丈夫。そんな奴は排除するから安心してよ。あ、リズって呼んでいい?」
苦し紛れな言い訳に、殿下が美しいスマイルを浮かべながら、恐ろしい言葉をぶっかましてきて私は心の中で恐怖で絶叫です。お父様助けてください。oh,Jesus!
直感ですが、イリーナと殿下はものすごく気が合うと思います。あ、第二の殿下であるイリーナはドロシーを可愛がって(?)いたし、ドロシーは子爵令嬢だし、あら、ドロシーが適役……?
幸せそうに微笑むドロシーと殿下を考えて一人でニマニマしていて、殿下の問いをよく考えずにに「はい」と適当に答えてしまいました。「しまった」と思ってももう遅いです。目の前の悪魔《殿下》は、いやらしく「してやったり」と笑みを浮かべています。
「じゃあ、リズ。私のことはジルって呼んでね?」
「ジル……フォード殿下」
「ジル」
「……ジルフォード様」
その後も「ジル」呼びを強制してくる殿下。
……衛兵さん?私と今目が合ったのにそらしましたね?
許すマジ。
こういうのは高くつくのです。イリーナを見習ってにこやかに、かつ黒々しく退散しましょう。
「王子殿下。そろそろお時間のようです。可憐な花々が殿下のお目に触れることを待ち望んでおられますゆえ、わたくしはこれで失礼いたします。次にお目にかかれる際に、殿下と婚約者の方がお二人で仲睦まじく並んでおられることを、楽しみにしております」
最後に礼をして、きょとんとする殿下に背を向け庭園を去りました。
きっと私を品のない奴認定するか、不敬な奴認定するでしょうから、これで婚約者候補から抜けた筈です。
……ん?
不敬罪だったら、私……ピンチです。
お父様に帰ってからこの事を話したら、
「リズは何も心配しなくていいからね。父様がちゃーんと潰しておくからね(物理的に)」
と言われました。聞こえない部分も聞こえてくるのはなんででしょう。
まさかの本当に恐ろしいのは父様説浮上です。
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