第3話 離してください
お茶会がスタートした瞬間にご令嬢たちの目つきがガラリと変わりました。まさに獲物を狩る肉食動物のようです。それほどまでに王子様がお好きなのでしょう。
殿下はニコニコと笑顔を振りまいていますが、ご令嬢達にもみくちゃにされていて服がよれてしまっていて、少し同情してしまいました。
殿下に話しかけるご令嬢達は皆、王子様の為に綺麗に着飾って頑張っているのが良くわかりました。あの笑顔を向けてもらう為に、お返事を頂く為に、印象に残してもらう為に。皆必死で、本気で好きな人に振り向いてもらおうとしていました。私はここにいてはいけない人だ、と只「帰りたい」という自分の欲求抜きでそう思いました。彼女たちに失礼だと思ったからです。
そうなれば早急に挨拶だけして帰るのが得策なのでしょうが、あの中に割り入っていくのは相当な勇気がいります。行こうとしても彼女たちに睨まれるのが怖くて動けないでいました。
グラシエ公爵と話をしている父様の方にちらりと視線を送ると、父様もハーレム状態の殿下と肉食令嬢たちを見て顔を引きつらせていました。父様は「おいで」と口を動かして手招きをしたので、私は嬉々と父様の元へ行きました。
「どうしましょう、ご挨拶出来ません」
「あの中に入っていくのは無理だよな」
父様は私の頭をポンポンと撫でて苦笑いをしました。私も苦笑いで返します。そこに少し離れて待っていたグラシエ公爵が話しかけてきました。
「こんにちは、ジゼルちゃん」
「御機嫌よう、グラシエ公爵様」
「それにしてもあの中に入っていけるフリージア嬢は凄いな」
「我が娘は中々の度胸を持っていると思ったよ……ジゼルちゃんは殿下とお話しできたかい?」
「いいえ、まだですの……」
「そうか」と顎に手を当てて考える素振りを見せた公爵。すると、とんでもないことをおっしゃいました。
「じゃあちゃんと二人でお話し出来る様にしてあげるね」
……え?
父様はその意味をちゃんと理解できたようで、「ふふふふ…私も同行しよう」と公爵の提案に乗っかりました。父様は私の味方じゃなかったのですか……?!
二人で話すことは何もありません。出来れば接触したくもないのに。
二人は王子殿下の元へ行くかと思いきや、国王陛下や王妃様のところへと向かいました。何を話しているのか全く分かりませんが、王様も王妃様はにっこりと笑って頷いていました。話し終えると、国王様らが立ち上がれられました。王妃様をエスコートしながらゆったりとした足取りで王子殿下のところに向かっています。
そのことに気が付いたのか、王子様に群がって熱烈なアプローチをしていたご令嬢たちはそれをピタリとやめて、さあっと道を譲ります。それにほっとした表情を王子殿下がしていたのを私は目撃してしまいました。
「ジルフォード、楽しんでいるか?」
「……ええ。積極的で可愛らしい《肉食な》ご令嬢達と話すことが出来て、大変……有意義です《困っています》」
王子の心の声が聞こえてしまいました。どんまい。
「そう、それはよかったわね。全員と話は出来たのかしら?」
「いえ……なので、落ち着いて話をしたいのですが……」
なんだ、この演技感。芝居か。
王妃様はにっこりと笑って言いました。
「そうね。きっとその方がゆっくりお話しできると思うわ。是非そうしなさい。わたくし達はお邪魔ですから退場させて頂くわね」
王妃様と王様は庭園からいなくなってしまいました。
ご令嬢たちは、王子様と一対一でお話しできるとなって、目がとんでもなくギラついています。私はというと、殿下に挨拶出来ると分かってほっとしました。挨拶できなければ家に帰れませんからね!
王子様のお誘いを皆さんそわそわして待っています。
私は早く帰らせてくれーという念を殿下に送りました。
ぐるりと令嬢を見渡した殿下は私を見て花開くように笑いました。私の念が伝わってくれて、挨拶をとっとと済ませてもらえるようです。とても素晴らしい王になること間違いなしです。
殿下は私の前に来て、仰々しく誘いました。
「ジゼル嬢、二人でお話しませんか?」
お美しいお顔だなぁと思いつつ、差し出されたその手に「喜んで」と手をのせると、殿下は私の腰をグイと引き寄せました。
で、で、で、殿下。婚約者でもない私とこんなに密着していいのですか?
ほら、ご令嬢たちに睨まれました。いらぬ火の粉を浴びたくないのですよ。
皆さま勘違いしないでくださいね、私婚約者候補になる気はさらさら無いの!
お父様が睨んでおります。ええ。
お父様、相手はこの国の王子です。もう少しその威力を抑えてください。周りの衛兵さんがビビってます。
そうして私達はいつの間にか用意されていた、少し隔離されたところにあるテーブルにつきました。
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