美しく残酷な世界

イルゼ

【彼女の運命】

第1話#プロローグ

「よし、授業はここまで…宿題しっかりやってくるんだぞ」


先生のその一言により、今日の最後の授業が終わりを迎える

周りの生徒達は次々に帰りの支度を始める

私もまた、その流れに乗り帰りの支度を始めた

毎日退屈な人生を送るのには飽きた

自分の行きたい学校を選べ?

そのために勉強をして視野を広げろ?

くだらない…何故人間は努力をしてまで痛い目を見なければならないのか

私には理解できない、いや、元からしようともしてないのか?

まぁそんなことはいい

毎日退屈な人生を送っている私にとって、学校などという馴れ合いの場が鬱陶しく感じる

特にアイツに関わられると…


「あ、トキちゃーん!」


誰かが私を呼ぶ、この声の主は分かる…

噂をすれば…とはこのことか


「今日は何の用?わざわざ違うクラスなのに会いに来なくていいって何度も言ってるじゃない」


人々からすれば、わざわざ友達が来てくれたのに、なんて言葉を言うんだ…と思うだろう

友達になった覚えも、馴れ合いを始めた覚えもない

そもそも、何を基準に友達などと言うのだ

2回会ったら友達か?本当にくだらない

私は1人が気ままでいい

なのにアイツと来たら…


「またそんな冷たいこと言う〜ひっどいなーもう!」

「私は別にあなたと友達になった覚えはないわ」


周りの目線はいつも通り冷たく、冷徹だ…

私の何がいけない…事実を述べているだけだ


「もう、友達とは思わなくていいって言ってるじゃん?うちはトキちゃんと話をしたいからここに来たの!」

「私はもう帰る…あなたのお喋りに付き合う気は無い…」

「えぇ〜酷いよ〜」


私はそそくさと、廊下を出た

アイツに話しかけられながらも、帰りの支度は怠らない

すぐに帰れるように準備をしていた

だがアイツもまた、その事を想定して既に準備を終えていた

1度自分のクラスに戻り鞄を手にし、私のあとをついてきた


「またそうやって冷たく私にあたるをするんだから」

「何がいけないのかしらね…」

「イケナイとは言ってないし〜、いつまで氷の女王ホワイトクイーンなんて呼ばれるつもりなの?」


氷の女王ホワイトクイーン──

私の二つ名となっている

所詮、くだらない人間が付けた名だ

私は何一つ気にしていない

だが、それをネタにしているのかアイツはしょっちゅう私に関わりを持つようになった


「トキちゃんはこのくだらない日常を変えたいんだっけ?」

「えぇ、そうね、でもそんなこと出来やしないのは私にもわかるわ」

「もう、またそうやって夢を諦める…」

「何がいけないのさっぱりだわ」


私は早く話を終わらせたいのに

何度も何度も話しかけてくる

本当にくだらない人間…ほら、あっという間に外にまで出てしまった

何時靴にはきかえたのかすら私にはわからない

帰りに話すようになってから時間の感覚がよくわからなくなっていた

でも、不思議と悪い気はしなかった


「今日はあのたい焼き屋さん寄ろうよ!!」

「何度言えばわかるの?私はあなたと話す気なんて──」


そう、また冷たく当たりながら、横断歩道を渡ろうとした…

だが、隣には猛スピードで向かってきたトラックが、私たち二人を轢いた…


キーッと、音を立てながら急ブレーキで止まるトラック

だが、周りの人の多さに怖気付いたのか、そのまま猛スピードで逃げていく

あぁ、本当にくだらない人間なのね…


私と2人で死ぬなんて…コイツも本当に不運ね…

私と一緒に帰らなければ良かったのに…

あぁ…意識が…持たない…

このまま…私は死ぬのね…

まぁ、…このくだらない…人生に…終止符を打てるのなら…それもまた…本…望……ね…


「起きて…」


誰かが、私に語りかけてる?


「ほら、起きて…」


これは、私に話しかけてるの?


「ほら、起きて…早く…」


起きてって…全身骨折で痛い──

あれ、ここはどこ?…病院ではない…

ふかふかのベットなんかじゃないし…骨折した所は…痛くない…

明らかにわかる…ここは、私のいた世界じゃない!!


「早く起きて…トキ…」


トキ…それは、私の名前…

その声の主は…アイツのはず…

なら、私とアイツは──


大きく反動をつけ、私は起き上がる

そして、目を開いた

ゆっくりと視界が広がり、その見える光景は、私の鼓動を、はやく、打つ

目の前は私が事故にあった場所ではなかった

都会にいた私はその珍しい景色を

眺めることしか出来なかった

ここはどこなのか…今の私には理解ができない

そういえば、アイツの声がした

周りにいるはず…

だが、何度あたりを見回しても…アイツの存在はなかった

私は自分自身を確かめることにした

きっとアイツは助かって、私は変なところでまた生まれた

そう解釈をするしかなかった

意外にも、事故らしき傷は見当たらなかった

あの場にいた時は、痛みと人間の残酷さを見た絶望感しか湧かなかった…

服は白を基調としたローブみたいなものを着ていた

もしやこれは魔法使い的存在?

頭には三角帽子をかぶっていた

まさに一流魔法使いと言えるであろう服装だった

私は一度その場を離れようと立ち上がった

私がいた場所は見晴らしがよく、風もよく吹く丘のような場所だった

アイツの姿の代わりに先程から小さな青い物体と緑の物体と赤い物体が視界に映る

少し探検がてら、その物体の元へと近寄ることにした

その物体は、ぽよぽよしていて、ぷにぷにしてそうな感じだった

触ろうとは思わない、なんか嫌だから…

でも…人間の好奇心は抑えられない、特に今起きてることが非現実的だから…

私は勢いをつけて、人差し指をその物体に刺した

いや、ツンって…ツンってするつもりだったけど

勢い余って刺しちゃった…ぶゆって音出して…

その瞬間物体が溶けた

シュー…と蒸気を出しながら草原にベチャッと溶けた

恐る恐る覗いてみると…何か、宝石のようなものと今刺した…、今触れた物体のミニサイズの物体を手に入れた

同じ形をしていてぷにぷにする、ぽよぽよもする

ここで私は確信した、これは某有名な愛らしいスライムと呼ばれるものだということに…

ほうほう、これがスライムか…てか、こんなのが愛らしいのか?

スライム自体を見るのは初めてだ

いや、本は読むがスライムが出るものは見ないし、ゲームなんてものはしない

少しでもくだらないと思わないからやってみて、と言われたが拒否をした覚えしかない

よく見るとミニサイズの物体はとてもつやつやしていた

しばらく掌にのせ鑑賞していると

突然揺れた

ポヨンポヨンと…音を立てくるくると回り始めた


「なんだ…一体…」


正直驚いた…急に動きだしたら誰だって驚く…

そして初めて、その物体に目があることに気づいた

スライムは目があるのだと、ここでまた知ることになる

そしてそのスライムは私をじっと眺める


「こんにちは…」


なんとなく挨拶をした

言葉が通じるわけなど、ないと思いながらも会話を試みる


「……」


もちろん返事はない、だがその代わりに私の手のひらでポヨンと跳ねている

言葉が通じたのか?それともただ跳ねているだけか?

よく分からないが、もう一度話しかけてみよう…


「えっと、あなたは…スライム…ですか?」


直球すぎる質問だが、スライム相手にはこれくらいでいい

会話なんぞ通じないのだから─


「クイッ」


ぶっわっっはー…しゃべた??

しゃべたのこのこ??まじで??

ほんまに??……

やばいあまりの驚きように取り乱してしまった

違う、今の私じゃない

きっとちがう私がでてきた

そうだよ、だからそんなふうに怯えないでスライムさん


とりあえず、スライムは私の言葉が理解出来るようだった

そしてまたひとつ、私の脳内で確信したことがある


「ここは、私のいた世界とは違う…異世界か…、そして私は…転生を…したのか…」


いや、薄々気付いてはいたが、まさかとは思った

何かしらのドッキリなのではないかと思ったが

私のいた世界の技術じゃ、ここまでのリアリティは出せないだろう

マジシャンでもない限り…

いや、マジシャンでも無理か…

周りにはこのスライムだけでなく不思議な奴もいる

私は手のひらにスライムを乗せたままあたりを見回した

すると、スライムが手のひらから私の肩へと移動してきた

なんだ、動けるのか…というか可愛いなおい

そしてスライムが私に語りかける


「クイッ…クイックイッ…」


いやさ、クイッて言われてもわかんないんだわ

理解出来るわけでもな──

瞬間、何が起きたかはわからなかったが

脳内に突然スライムの言葉とおもしきものが流れ始める


「君は異世界転生をしたんだね!!僕はスライムだよ!!今は名無しだけど君が名前をつけてくれれば僕は君のパートナーとして共に生きるよ!!!」


一瞬何を言ってるのだ…と言いたかったが、確かに私は異世界転生をしているし、それに…

名無しか…私が名を付ければパートナーとなるのだな…


「君は私に忠誠を違うか?」

「クイッ」


スライムは元気よく返事をする

ネーミングセンスは問うなよ?と心でいいながら、私はスライムを手の平にのせひとつの言葉をさずけることにした


「アニ…はどう?」


私はその言葉をスライムに向けて言う

スライムの感情を読み取ろうとじっと眺める

すると、スライムが突然光だした


「クイッ…クイー」


スライムが声を出す

そして、光が収まるとスライムは──特に変化はなかった

サイズが変わるわけでも無く、ただそこには愛らしいスライムがいた


「クイックイッ…クイッ」


また脳内にスライムの言葉が浮かび上がる


「名前を付けてくれてありがとう!!これから僕は君のパートナーだ!!」


スライムは笑顔のままそう答える


「ふふ、気に入ってくれて何より…私の名前はコトノハトキ…、トキって呼んでね」


軽く自己紹介をした

私が異世界に転生し、初めて自分の名を告げた相手はスライムだった──

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