第26ー1詠唱(前編) 影武者(リリィ)の誕生~運命の月夜~

「えい!やー!」


 一面に白い花が咲く場所で、黒いドレスを着た灰色の肌を持つエルフの様な少女は木剣を何回も振る。


 しかしただ振っているのではなく、武士さながらの型にはまった振り方で、構える姿は後ろに剣士が見えるほどきまっていた。


「リコリス様、またチャンバラごっこですか?」


 白い髪に白い肌の若いメイドは花の冠をリコリス(後(のち)のリリィ)と呼ぶ少女の頭にポンッと乗せる。


「もう少し女の子らしい遊びをしましょう」

「む〜アシュリーはいつもお母様みたいな事を言って、それだから肌が白くなるんだよ」

「肌が白いのは私が人間っていう種族だからです、それとは関係ありませんよ」

「ふーん、でも人間ならなんで魔法使えるの?」

「それは覚者という......まぁ魔法少女だからですよ」

「アシュリー魔法少女だったの?すごーい!」


リコリスのキラキラとした尊敬の眼差しに少し照れる。


「アシュリーはなんで城に来たの?遠いかったでしょ?」


 剣を地面に刺してアシュリーに話を聞かせてと言わんばかりに腰に抱きつく


「それは〜まぁ生きる為?っていうかなんていうかぁ......」


「将来楽に生きる為に来た」とは言えず返答に迷ってると、リコリスは「なんだ気分か」と尊敬の目からジト目に変わる。


「そんな事はありません」


 誤魔化す様にリコリスを抱き上げると「お嬢様と出会うために来ました」と笑顔で良い額にキスをした。


「アシュリー、ロリコン説......」


 心の底からドン引きしたような顔をする。


「ろ、ロリコン?そんな事どこで聞いたんですか?」

「フウちゃんから!あの子は物知りなの!」

「あの人は......ったく子供の前でそんな言葉を、良いですかお嬢様、そういう言葉は低俗な人が使う言葉なので言ってはいけませんよ?それに私は主にリコリス様みたいな女の子が好きなだけで、男の子も少しばかりは好きなのでただの子供好きなんですよ?」

「ホントに?」

「ほんとです!」


 大きく頷くと「なるほどう......」とリコリスは納得した様に何度も頷いた。


「そうですよ~」


 アシュリーは抱きしめて頰をスリスリと擦り付けた。


「アシュリーは変わってるね、私を見た人達は魔力に怖がるのに」

「こんな天使の様に可愛いリコリス様を怖がるなんて、皆どうかしています」

「てっ天使って、えへへ~アシュリーは面白い人ねえ」


すると遠くの方で「これから何をしようか」や「旅行に行きたいですねぇ」など、楽しそうに話しながら三人の魔女が正門を出て行くを見つける。


「あれ?あの人達ってお城の騎士さんでしょ?」

「そうですよ、しかしまたやめちゃいましたか」

「まったく、昔はあんな勇敢だったのに皆んなどうしちゃったの?」

「そうですねぇ、ココも平和になったのでそんなに騎士もいらないのかもしれませんね」

「平和、ねえ......なんかね、近いうちに嫌な事が起きる感じがするの、この頃このお城が燃えて皆居なくなっちゃう夢を見るし」

「大丈夫ですよ、城に残っている者達は皆昔から居る鍛えられた者達ですから」


 心配そうに話すリコリスの頭を優しく撫でる。


「流石、リコリスさm......ヘックション!」

 リコリスよりと同じ背丈のメイド服を着た女の子は、豪快にクシャミをすると反動で飛び跳ねペタンと尻もちをつく。


「あ、フウちゃんだ!」


 ブンブン手を振るリコリスに、ロングスカートを軽く摘まんで持ち上げるとペコリと一礼する。


「げ、フランチェスカ」

「ゲッとはなんだゲッとは」

「相変わらず凄い臭い」

「この匂いはユニコーンの血の匂いですよお嬢様」

「でもどうしたんですか?外に出てくるなんて珍しいですね」

「貴方を呼びに、実はリコリスお嬢様の言った話しは本当に怒りゆる可能性があるの、それで城のメイドと騎士の皆でこれから今後のお話をと……魔法少女のアンタを黒灰の魔女達の会議に参加させてあげるんだから感謝しなさいよね!」


 最後にクシャミをすると風が吹き白い花びらが舞う


「何ですかそのキャラ、まぁ良いでしょう、それで?エルシリア様には話したのですか?」

「一回話したけど信じてくれなくてねぇ~だから予知夢を見るリコリス様を交えてやろうと今からお話合いをしますがリコリス様は大丈夫ですか?」


 リコリスは少し不安そうだが「大丈夫!」と大きく頷く


「ちょっと待ってください!いくら王女と言ってもそんな話に参加させるのは負担が重すぎるし、もしも戦になったr......」

「アシュリーの言いたいことは分かるよ、重い話や血生臭い戦に子供を参加させるのは反対だと言いたいんでしょ?」

「だったら何故?」

「お嬢様は技術も魔力もそこら辺の大人いじょっじょっじょっj......ヘッブチ!大人以上だから......ヘッブチ!」


 「じょっどごべん」と鼻から氷柱の様に垂れる鼻水をティッシュでかんでから、話を続ける。


「大人以上だからリコリス様には戦と言う物を知ってもらいたいのです、簡単に言えば社会勉強ですよ、あと戦に参加させるとは一言も言ってないし」


 「話しだけだよ」とウインクをする。


「本当ですか?」

「本当本当」


 その言葉にアシュリーは煙の様なモヤモヤしたものを心の中で感じながらも、しょうがなく「分かりました」と了承した。


♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦


「メイドさん達の食事部屋でお話をするの?」

「そうですよ」

 

 リコリスが参加するのを聞かされていなかったのか、見た騎士やメイド達は緊張し始めて蛇口をひねった様に額から汗をダラダラ出し始める。


 メイド達が全員で食事できるようにと作られた部屋なだけに、最大50人で食事ができる大きな縦長のテーブルが置いてあり、集まっていた全員は囲む様に立つ、そのテーブルの中央をリコリスよりも大きな水晶が風船の様にプカプカと浮かんでいた。


「ささ、リコリス様はココに座って」


 テーブルの真ん前に座らす。


「騎士さん達は12人、メイドさん達が48人......騎士さんこんなにも減ってしまったんですね」


 少し悲しそうな顔をする。


「では、会議を開始します、議題は水晶の導いた内容の対策、まずはもう一度導きを見てみましょう」


リコリスの隣に、大人よりも高い台の上に立っているフランチェスカは指をパチンと鳴らすと透明に透き通った水晶の中でモワモワと映像が映し出される。


 水晶は未来や、やるべき事を映し出すことが出来、持ち主の技術が高ければ高いほどそれは鮮明になるのだ。


「この映像、私の見た夢と似てる」

「実はリコリス様がこれと同じ夢を何度も見たというんです、心の透き通った子供は確実に未来に起こることを夢で見ることができるので、今回は特別にリコリス様に参加して頂きました」


 周りはざわつき始めるなか一人の灰色の髪が特徴的なセミロングヘアーの若い黒灰の魔女が手を小さく上げる。


「そこの小さく手をあげてる人どうしたの?」

「あ、あのぉ、リコリス様の夢の内容をお聞きしても宜しいでしょうか......」


 おどおどと自信なさげに蚊のような小さく細い声で言うメイドのセリフに、ざわめいていた声が強風が止むようにスッと静まり今度は静寂が場を支配した。


「私の見た夢は魔女達がお城に奇襲を仕掛けてきて、お母様と私、それに全員が死んじゃう夢です」

「確かにこの頃魔女達の行動が目立ってきていますから、あり得るかもしれませんね」


 手のあげた女性は「な、なるほどう」と顎にてを手を置いて考え始めた。


「どうしたの?」

「すみません!ち、因みにいつ頃からその夢を見ていましたか?」

「5日前からです」

「な、なるほど、もっもう一つ質問宜しいでしょうか、すみません何度も!」

 

 ペコペコと何度も頭を下げて謝る


「良いですよ私はこれぐらいしか皆さんのお力になれませんから」

「でっでは、その魔女が何処から攻め込んで攻め込んでくるか覚えていますか?」

「大きな正門と裏門の上空から大穴を開けて攻め込んできます」


 すると再び難しい顔をしてうつむき考え始めた。


「おい、リコリス様にお礼は無いのか?」

「あ、すすすすみません!ありがとうございました!」

「良いですよ、それより貴方のお名前は?」

「わ、私の名前はベティ・ロージャスです」

「よろしくお願いしますベティさん、貴方は面白いですね」

「あ、ありがとうございます」

「で?何かいい案は浮かびましたか?」

「いい案、ですか......予知夢が現実になるのは大抵1週間前後の日です、5日前からという事はもうじき起こると考えて、今夜から騎士達の城外の警備をメイドを交えて厳重にしたほうが良いかと考えました」

「なるほど」


 黒灰の魔女のメイドは騎士よりも戦力になり、地位も騎士よりも上の為普段は戦闘には出ず城内の掃除をなどの雑用をしているのだ。


 この案に聞いていた皆も納得したのか、赤べこの様に上下に頷き「確かに」や「その案しかないわね」などと呟く


「なら人数の少ない騎士は城内で待機し、多いいメイドがグループを組んで城外の各場所を見張るのはどうでしょうか」

「いい考えだねアシュリー、他に案のあるひとがいないのならこの案で行きます」


 フランチェスカが周りを見渡すと全員グッドサインした。


グッドサインは黒灰の魔女達の伝統的なサインで「了解」や「任せてください」などの意味なのだ。


「では今夜から作戦は結構します、グループが決まったらメイド達全員に手紙が渡されるのでよろしくお願いしますね」


  話しがまとまりフランチェスカが解散の号令をかけようとした時、綺麗な緑のドレスを着て大きな黄色い宝石の付いたシルバーの冠を頭に乗せたエルシリアが部屋に入って来た。


「ごきげんよう、皆さん」


  思わぬ出来事に皆は急いで右こぶしを後ろ腰につけて左手を上に掲げて挨拶をした。


  優しく微笑むエルシリアはリコリスの所に行く


「お母様」

「お疲れ様リコリス、お外で遊んできなさい、フランチェスカ、この子の見守りをお願いします」


 フランチェスカは急いで地面に降りると左手を上に伸ばし「分かりました!」と言うとリコリス一緒に部屋を出た。


 ドアが静かに閉まるとエルシリアは前を向く


「あなた達にお願い......いや命令します」


 全員はゴクリと息を飲む


「リコリスはきっと魔女が襲ってきたら剣を抜いて戦うでしょう、しかしそれを守らず一人で行かせなさい」

「それってつまり見殺しにしろという事ですか?」


 一人のメイドの問いに静かに頷く


「あなた達は戦うふりをして3大陸離れた遠くの地までお逃げなさい、もちろん私の事も気にせずにです、いいですね?」

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