第23詠唱 黄金の死神
― 第二地区(地下)
時は数時間戻りリリィ達の視点へ
「私はフォルコメンワルキューレ、リリィ・バレッタです」
リリィの方を見るとニコリと笑い「以後お見知りおきを」と一礼すると黄色く透き通る四つ葉のクローバー型の宝石が先に付いたタクトを右手に出現させた。
「そして、さようなら」
持ってるタクトを横に振ると地面や建物の壁などあらゆる場所からいばらのツルが伸びて襲い掛かる。
「ルルーリリィちゃんを頼む」
「オーケー!」
ショックで固まってるリリィを抱きかかえるとドミニカが双剣を構えてツルを切りながら逃げる。
「最悪な敵と遭遇しちゃったな」
「とりあえず逃げましょ」
「出来るといいけどな」
後ろから凄い勢いで迫りくる光線を二人は真上に飛んで避ける、がドミニカがリリィと名乗るワルキューレに思いっきり蹴られてコンクリートでできた家を壊しながら遠くまで飛ばされて行った。
「影の者なんで戦わないんですか?」
ルル―の前に立ちはだかるとリリィに言う。
ワルキューレからあふれ出る強い殺気と魔力にルルーは圧倒され足がすくみ
動けなくなった。
「私の影武者と聞いたから期待したんだけど、ただの子供のようですね」
フフフと笑う姿はどことなく母であるアシュリーに似ていた。
「大丈夫、リリィはルルーが守る」
その瞬間リリィは似たようなセリフを言い自分を守った人の事を思い出す。
「それは、それだけはダメ......」
ようやく我に帰ると落ちる様に抱きかかえられているルル―の体から離れる。
「もう、誰も失わない!」
腰に着いてる魔石のブロックを着けているベルトのバックルに差し込む。
「やっとやる気になりましたか」
「襲ったこと後悔させてやる、マジカルトランスミュタション!モード、ファントム」
差し込んだブロックを横に倒すと黒く光る粒子に包まれて一瞬で鎧ドレス姿に変わる。剣と半分割れてる盾を構えると力強く地面を蹴りワルキューレとの間合いを縮めた。
「そんなに魔力を消費して良いんですかねぇ」
リリィが切ろうとすると見えないバリアーでガードされる、その瞬間にタクトを軽く振り四つ葉のクローバーの先から金色に光る刃が伸びて刀に変わる。
「リリィ逃げろ!勝てる相手じゃない」
ドミニカは相手の背中から切りかかろうとするが、気づかれていたのガードされる。
「軽いですね」
軽々と交わるドミニカの剣を払い切りかかった。
「やめろー!」
ドミニカの前に一瞬で現れると盾でガードする。
「クッ!」
ワルキューレの持つ刀は細身だが大剣よりもガードした時の衝撃があり腕の骨にひびいた。
「ドミニカさんは早く変身して逃げて!」
「自分の心配をした方が良いですよ」
リリィの腹部に拳を思いっきりめり込ませ真上に高く飛ばす。
「カハッ!」
変身服は自分の魔力に応じて強度も変わってくる為、一発で鎧が割れる。
「もう終わりですか?」
「クソが!」
頭上に振り上げた刀を振り落とす、リリィは体を翻(ひるがえ)しすかさず盾でガードするが下に急降下した。急いで体制を立て直し足で着地が足首までめり込み膝に痛みが走って倒れそうになる。
「こんな強さで良く17年間も私を演じてこれましたね、ある意味尊敬します」
「私はお前の事なんて知らない」
また前に突っ込むがひらりとかわされると頭を鷲掴みされ地面に押し付けられたまま凄いスピードで遠くまで引きずられる。
「リリィから離れろ!」
ワルキューレの真上に雷雲が現れて雷が落ちるが避けられて地面をえぐる。
「怖い怖い」
「っつ早すぎる!」
するとその時だった、忙しなく飛んでいた第二地区の機動隊員たちがこちらの乱闘に気づき魔法を飛ばし始める。
(今が逃げるチャンス!)
舞い起こる砂ホコリで前が見えない中ルルーは震える足を抑えドミニカとリリィの手を引っ張り「モマン・アスタン・イスタンテ!」と唱えどこかへ消えた。
「逃げ切れた」
「ってなんて所に来てるんだ!」
地下の真上にある街の遥か上空三人は現れる。ドミニカは下へ落ちる前に箒を出すと皆を乗せた。
「ふ~助かった~」
「そうでもないみたいだよ」
真下を見るルル―にドミニカも同じ方向を見ると、街の地面に敷(し)かれたタイルが熱された様に赤くなり溶岩のように溶けると虹色の光線が周りの家の瓦礫(がれき)を巻き込んで押し寄せてきた。
「ヤバ!」
ドミニカは思いっきり体を傾けて箒を横に飛行させ間一髪で避ける。
「ドミニカそのまま逃げて!」
光線の中から球体のバリアーを張ったワルキューレを確認したルルーは急いでドミニカに言うと急発進し流星のごとく猛スピードで逃げる。
「何アイツ本当に普通の覚者じゃないでしょ!」
「そうだ、ドミニカさん第五地区の8丁目329番地、5号室イスライロウ通りに行ってください」
「了解!リリィちゃんも倒れるなよ」
(今の私の魔力で行けるかなあ......このアイラさんが改造した箒、飛行するのに普通の箒よりもバカみたいに魔力を使うからな)
実際ドミニカは魔力も限界に近づいていて視界も二重になりぼやけていた。少し休まなければ倒れるのを本人は察していたのだ。
「しかしガードしても切りがない」
ルル―は飛んでくる魔法の玉や光線をリリィと盾でガードしながら言う
「そうだルルー、幻視魔法を使って!」
「分かった!ボンヌ・シャンス・フォルトゥーナ」
すると一瞬、リリィは視界に入っている街が歪んで見えた。
「上手くいったのか?」
「上手くいったみたいだね?」
猛攻撃がピタリと止み棒立ちしているが、ワルキューレの緑色の鋭い眼光はリリィを捉(とら)えていた。
「リリィなにか言ってない?」
「確かに......」
目を凝らしワルキューレの口元を見て声に出す。
「い・き・の・び・て・ね?生き延びてね?どういう事だろう」
「さあ、でも何で敵がそんな事を」
伝い終えたからかこちらに背を向けてどこかへ飛んで行き消えていった。リリィはその瞬間今までの緊張が消えて、糸がプツンと切れた操り人形のようにルル―に寄りかかり意識を失う。
「リリィ大丈夫?」
「どうしたルルー!」
「リリィが気を失ったの!」
「まぁ魔力が少ないのに無理をしたらそうなるわな、私も限界がきたし何処か休もう」
夕陽が沈み辺りは真っ暗になり満月がぷかり浮く。
「ごめん魔力が残ってるなら光の魔法を唱えてくれない?」
ルルーは「はいよ」と唱えて三人の周りにふんわりと白く発光する光の玉がいくつも出現させ辺りを明るくさせた。
その時初めて気づいたが薄っすらと見える遠くの空に浮かぶ雲を見つける。
「宿屋なら雨水も通さない頑丈なのが良いかも」
警戒するようにドミニカに言う。
「なんで?」
「向こうの雲からアンチクリスタルと同じ感覚がしてくるの」
ルルーの指さす方をドミニカは見るが遠すぎるせいか特に何も感じず「まぁ妖精のルルーが言うんならそうするか」と言い、真下の小さな村に宿屋らしき緑の旗(はた)が屋根についているレンガ造りの建物を見つける。
「よし今日はもう遅いしあそこに泊まろう、明日の昼にはリリィの言った場所に着くだろう」
「もうそんな時間か~、ここは灯りが少ないから星が良く見えて綺麗だね」
ドミニカは上を見上げると、溜まった疲れが吹き飛ぶほど星々が綺麗に光る満点な星空が視界いっぱいに飛び込み思わず「天国にでもいるみたいだな」と言葉を漏らす。
「まだ天国を見るのは早いよ、なんせ私たちはまだ仕事が山の様にあるんだから」
と言うが、ただただ星空を眺めながら子供のように目を輝かせるドミニカにばかばかしくなりため息をつく
(まぁ、私も今だけは全てを忘れて星空を眺めるかな)
「ほんと、夜空だけはいつまでも綺麗で変わらないね」
ルルーはポツリと呟いた。
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