第7詠唱 臆病な魔女(中編)
少女に連れられたイザベル一行は、臆病者の森を出てすぐ隣にある森の中に作られた、魔女達が住む村に来る。コケやキノコが大量に付いているかなり年季の入った5人ぐらい住めそうなツリーハウスが、まるで木に実った果実の様に呟くように建ててあり、空を見上げると流れ星の様に黒いローブを着た魔女達がせわしなく行き来していた。
「なんで地面に家を建てないの?」
「地面は危ないから」
すると「昔は地面に家や畑があったのよ~」とドミニカの背中に、若い女性の幽霊の様な高い声が当たる。
「キャ―――――!」
イザベルの背中に隠れるドミニカに、女の子がぽつんと棒立ちし、クスクスと不気味に笑っていた、前髪を垂らし髪の長いその姿は、魔女というより幽霊である。
「だ、誰なの?あなた」
自分の顔よりも遥かに大きい黒いリボンを頭の頂点に着けた女の子に「あ、エルマちゃん」と少女はボソッと言うと「エルマお姉さんでしょ~?エルッカちゃ~ん」とゆらりゆらりと近づいて背中に抱き着く、二人が並んだら、少しだけエルッカの方が大きいぐらいだった。話を聞くにこれでも今年で204歳だとか。
「魔女は人よりも歳とるのが早いから人間の歳だと20歳くらい?」
イザベルが聞くと「人間は賢いのね~」と何も言っていないエルッカを撫でる。
「あなた達は誰に様なのかしら~?」
「お、おばあちゃんにお話があって連れて来たの」
「カトリネ様ねえ」
するとエルマは「こっちよ~」と案内をした。
案内されてる途中、あらゆる方向の木陰から魔女達の視線を感じる。この村はかなり広いのか、後ろを向くと村の入り口に立ててある看板が見えなくなっていた。
「周りは警戒してるみたいだけど、なんでエルマさんは私たちに優しいんですか?」
「さっき水晶で見てたからよ~」
相変わらず「フフフ~」と気味悪く笑う、彼女曰く魔女の中で他種族と生きている魔女と、今まで通り信頼できる魔女としか関わらない魔女がいるらしい。
「まぁ、他種族と生きている魔女はまだ数人なんだけどね~」
「「へ~」」
村の奥へ進むと、一際太くて大きい大木があり、見上げると人が20人は入れそうな横長のツリーハウスがあった。その真下の地面にはロープも何もついていない木の籠かごが置いてあり、全員乗ると魔法仕掛けになっているのか、音もたてずスーと上へ上がる。
「あれ?なんか土の色が違くない?」
イザベルが指差す地面は、そこで戦いがあったのか、まるで絵の具が付いたパレットの様に土の色が所々違くなっていた。
「本当だ、こんなに荒れてるってことは......戦?いやでも周りの木々は綺麗だし」
ドミニカがあれこれ考えていると、後ろからエルッカが恥ずかしそうにズボンを引っ張る。
「あ、あの、あれはゴブリンが来t......」
「後できっとその説明をカトリネ様が説明するわ~」
エルッカの遅い説明を途中で止めてドアまで着くと、エルマは人差し指を魔法の杖の様に軽やかに振り扉を開けた。
「このドアは決められた魔法でしか開けられないドアなのよ~、さあ入って~」
ツリーハウスの中は、魔女というより狩人かりうどの様な感じで、壁にはあらゆる種類の動物の顔の標本が掛け飾られていて、床には無数の虎の頭付き毛皮カーペットが這いずり回るように、あらゆる方向を向いてひかれていた。
「魔女の部屋だからドクロとかがあると思ったら......意外と派手だね」
天井についている電気以外は全てアナログで電機は使ってなく、部屋の中央には囲炉裏があり、いかにも森の家といった感じだ。
全員が囲炉裏を囲むように置かれた座布団に座ると、ルル―を抱きしめているエリッカは「おばあちゃんを呼んできます......」と言い残し、てくてくと小走りで、ある部屋に入って行き、バランスボールぐらいであろう水晶に正座で乗っているおばあちゃんと、若い眼鏡の女性を連れてくる。
「おやおや可愛らしい魔法少女こと」
大きな水晶から隣に居る眼鏡の女性に下してもらい、前に置いてある座椅子に座る。身長はエリッカよりも小さく、ほぼ二頭身でコロコロしている姿は、まるで魔女の格好をした可愛いマスコットキャラクターの様だった。
「ふふふ~紹介するわ~眼鏡を掛けた女性がアーダちゃん」
「よろしく」
「それでこの方がこの村の村長のカトリネ様よ~」
「そういうわけで、よろしく」
頭に被っている、小さな顔には不釣り合いな大きくて黒いとんがり帽子を、人差し指でクイッと上げる。
「魔女ってほとんど小さいミポ」
クスクス笑うミポルプに、イザベルは背筋を凍らせ慌てて近くにいたミポルプの口を塞ぐ。
「この子が失礼なことを、すみません」
「よいよい、魔女は栄養が全て脳みそに行っているせいで背が伸びないのじゃよ、
主たち妖精が二頭身なのもそのせいじゃ」
「ふぉっふぉっふぉ」と笑うと手をたたきエルッカにお茶を淹いれるようにサインする。
「ところで、あなた達は何故この村へ?」
この村には他種族が戦いくさ以外で来ることがないのか、メガネの女性は不思議そうに首をかしげた。
「実は今ユニコーンの角が必要で、ユニコーンを好物とする貴方達なら持っていると思ったんです。宜しければ譲ってもらえると幸いなのですが......」
「なるほど、しかし我々も実はユニコーンを久しく見ていません、店で買うと金が10キロ必要になる程価値が上がっていて」
お盆に湯気の立ったコップを人数分乗せたエリッカは、まるで綱渡りでもするように、慎重しんちょうに歩いてこちらへ来ると、一人一人魔法で配ればいい者の、丁寧に手で配った。
閉鎖的な種族でも、礼儀はしっかりしているようだ。
「お、おばあちゃん、私はお姉ちゃん達に助けて貰ったの、だから......」
捨てられた子犬のように潤んだ瞳でカトリネの顔を覗き込むと「まあまあ、安心せいババアもそんな意地悪じゃないわい」とホッホッホと笑いエルッカの頭をポンポンと撫でた。
「譲るのは良いが、物が物じゃ......だからババアの頼み事を一つ聞いてもらおうかのぉ、それで良いか?」
イザベルとドミニカはお互い嬉しそうな顔で見合わせると、「「もちろんです」」とカトリネを見て答える。
「若いっていいのお」と言い背中に背負っている大きな杖を手に取ると軽く叩く。
「ココどこニィ?」
水晶に映し出されたのはとある洞窟だった。
部族でも住んでいるのか入り口の壁には、赤いペンキか血かで描かれた不気味な絵が沢山描かれていた。
「実は年々魔女が減ってきていてな、死んだ魔女と一緒に行動していた者たちから聞くとみんな口をそろえて“ユニコーンが復讐しに化けて来た”と言うのじゃよ、水晶に移っている場所はこの森の北のはずれにある洞窟で、いつの間にか誰か住み着いたのか落書きが描かれていたのじゃ、恐らく魔女の死の原因もここにあると思うのじゃよ」
「じゃあ依頼はこの洞窟探索、怪しいものは討伐ですか」
「そういうことじゃ……が主の連れは平気かのお?」
カトリネがすこし意地悪そうに笑うと、イザベルは急いで両肩をつかみ青ざめたドミニカを激しく揺らす。
「はっはい!私は大丈夫であります!」
意識を取り戻したドミニカは敬礼をする。
「この子は昔から怖いのが苦手でして、でもそれ以外なら平気なので大丈夫です!」
「まあ安心せい、エルマとアーダを同行させよう村一番の魔女じゃよ」
エルマとアーダはそれぞれお辞儀をする。
「恐らくこの二人しか手を貸すものが居ないだろう、だからもしものことがあっても助けに行くことは出来んからな?」
「「はい!」」
「では頼むぞよ」
* * * *
再び臆病者の森に入るイザベル一行は、冬にもかかわらず生温い霧に包まれながら水色に光るキノコを目印に歩いていた。
もう夜なのか空を見上げると、月がまるで何かを警告するように赤く光り、辺りを照らしている。朝よりも更に怖さが増し、幽霊やチェンソーを持った殺人鬼が出てきてもおかしくないほどだった。
「ふふふ~月が赤いなんて、まるで死んだ魔女たちが警告してるみたいね~」
楽し気に言うエルマに対し、「絶対お化け出るよ~ヤバいって~」とガタガタと震えていた。
「魔導機動隊は勇敢ゆうかんな魔法使いのイメージがありましたが、ドミニカさんを見てるいとなんかイメージが変わりますね」
赤い眼鏡を掛けなおす彼女に「わ、私は元々最下位のチーム出身だからこういうのが苦手なだけ」とドミニカは言い訳をする。
しかし、最下位のチームと上位のチームではやることが変わり、前者は基本的に街の見回りやボランティアがメインで、第18からは上位になりやっているような探索・討伐・素材集めがメインになってゆく為ドミニカが以上に怖がるのもなんとなくうなずけた。
「ふふふ~、なんか聞いてことがあるわ~数字が小さくなるにつれ上位任務が受けれるようになるとか~」
「となるとイザベルさんは上位に居たんですか?」
「いや私もドミニカと同じですよ、ただ支援魔法の実力があったから、時々上位のチームについて行く事があって慣れたんですよ」
エリカとアーダは意外と思っているのか「「ほ~」」と口をそろえて言う。
「ぷぷぷ~ドミニカは脳筋が故に上位の人たちに誘われなかったミポ」
両手を口に当てて笑いをこらえるミポルプをいつもならドミニカの拳が飛んできていたが、彼女にはそんな余裕はなく、ただイザベルの腕をつかんで震えていた。
「な、なんか狼の鳴き声が聞こえてきたミィ」
「魔物か何かのいやな気配もするミポ!」
すると遠くの方からユニコーンらしき頭の影が見る。全員は草むらに隠れて様子をうかがうことにした。
「あれって、もしかして......ユニコーンの幽霊じゃない?」
ドミニカはいつ襲われてもいいように双剣を出して構える。
「幽霊なんて科学的にありえない、あとユニコーンは緑色に目は光らないよ」
松明でも持っているのか、灯の光で全身が影になって見えたが、頭が馬っぽくて体が人間だった。恐らくイザベルは何かの見間違いだと思ったのだろう
「ちょっと話してくる!三人は念のためココに居て」
後ろ腰に着けた短剣を取り出すと立ち上がりミポルプとルル―を呼ぶ。
「ちょっと、私も行くよ」
「あなたは二人を守っといて」
そう言い残し右手に短剣を構え、左手に魔武である杖を握ると、獲物に近づく肉食獣の様にしゃがみながらジリジリとゆっくり松明灯りの方に向かっていく。
「大丈夫かなぁ……」
「いやな予感がするミポ」
さっきのユニコーンの亡霊だと思っていた影の動きは激しくなり、二人ほど同じ影が増え、やがてイザベルの「キャー」というホラー映画の主人公の様な絶叫が森全体に響き渡った。
「イザベルの声ミポ!」
「貴方達はそこで隠れてて!すぐに戻ってくる!」
早口で言うと走ってイザベルの方へ向かう
「分かったわ〜」
思ったよりも近くて走る事数分すぐ着き、顔を真っ赤にして固まってるイザベルを見つける。
「大丈夫?イザベル」
イザベルは口をパクパクしながら人差し指で向こうを指す、ドミニカはその方向を見ると反射的に「イヤ―――――!」と露出狂に出くわした時に出る悲鳴をあげた。
そこには、顔はユニコーンで、体は日焼けしたボディービルダーの様な、ムキムキの人間の体を持つ怪物がいた。その姿は、パーティーグッズの馬の顔の被り物をした全裸のボディービルダーだった。
右手には松明、左手には槍を持ちまさにどこかの民族って感じだ。
よく見たら片方の肩に太陽の様な刺青が入っていた。
「なに、こいつら......」
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