第229話 無礼なアイツ
私って、学校へ行くのが結構なおざりになっちゃってるなー……
「そう思うんだったら、扉で過去へ戻れば良いんじゃない?」
「あー、うん、その手はあんまり使いたく無いんだ。」
だって、体内時計がめちゃめちゃに成るし、私だけ人より多く働く事に成っちゃうもんね。止むを得ない時だけにしておきたい。
一般教養の分からない部分は、クーマイルマに教えて貰って何とかするしか無いな。
異世界の知識は沢山有るのだけど、こっちの世界の歴史とか地理とか文化が弱いんだよね。
まあ、試験に受かれば良いんだ、受かれば!
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
7日後……
アーリャ達を迎えに、ビオスの指定された場所に扉を開いたら、扉の前に大勢の人が膝を着いて頭を下げていた。
扉から出た私の方が驚いちゃったよ。
アーリャに何事かと聞いたら、あれから議会への報告と、各部族の賢者や派遣する人員の人選を話し合おうとしたのだけど、何時もなら面倒な仕事の押し付け合いに終始する所が、反対意見は一切出ず、寧ろ俺が俺が状態だったそうだ。
各部族から、賢者を一人ずつと、最高決定権のある大王は確定で、その他視察役員とその付き添いのお役人を若干名に、世話係と護衛を選ぶ段に成って、その世話係と護衛の枠に立候補者が殺到してしまったらしい。
殺到と言うか、ほぼ全員が手を上げてしまい、その視察と付き添いの若干名へ漏れたお役人までもが世話係をやりたいだの護衛をするだの言い出して収集が付かないので、いっそ女神様に決めて貰おうという事になってしまい、ここに集結して待っていたという事らしい。。
「えー、私が選ぶのー?」
思いっきり嫌そうな顔をしてしまった。
誰でも良いよ、じゃあ、右端から、あなたとあなたとあなたとあなた……、と指差して決めて行ったら、待って待って、並び順で選ぶなんて狡いとブーイングの嵐。
じゃあ、今の無しと言ったら、嫌ですー、一度決まったので譲りませんーと、決まった人達が子供みたいな口調で駄々を捏ねる。
どうすりゃいいのよ!
面倒臭いから全員来れば良いよと言ってみたら、ワー!! っと歓声が上がったのだが、アーリャから待て待てと、ストップが掛かった。
国の中枢が全員出掛けてしまったら、ビオスの政治が麻痺してしまうと。
まあ、そりゃそうか。
じゃあ、くじで決めちゃおう。
「待ってくだされ、どうか、この老い先短い老人に、女神様の国の景色を見させて下さらんか。どうか、冥土の土産に!」
「きたねーぞ爺! 何時もは面倒な外遊視察は若い奴が行け、若い内に見聞を広めるのは大事だとかなんとか言っている癖に!」
うちの国大人気だな! アーリャは一体、何を言ったんだろう?
「まあまあ、国際会議は、今回が第一回目として、二回、三回と開かれる予定ですから、選考に漏れた人は、次に行けば良いじゃないですかー。」
「しかし、第一陣だというのが価値がありましてな……」
そんな物は無い! 初回特典とか付いてません!
「もう、面倒臭いから、こっからこっちの人! その他の人は、次回!」
表情の明暗がくっきりと別れた。
あ、この前私に喧嘩売ってきた奴が入ってるのか。何だよそのキラキラした笑顔は!
扉の中に、選んだ人がぞろぞろと入って行き、私は扉を閉めた。
ダルキリアに到着した一行は、やや上の方を見上げて、『おおー!』と感嘆の声を上げていた。
お上りさんか!
田舎から初めて都会に出てきた人って、なんで上の方を見るんだろうね。
王城の係の人が、直ぐに駆けて来て、王族は迎賓館へ、その他は、セキュリティーのしっかりした、貴族区の民間の高級宿泊施設へと案内されて行った。
「ああ、疲れた。これで、第一回会議の主要メンバーは全員揃ったみたいね。」
「お疲れ様、ソピア。次は私達の仕事よ。」
王城前で、ビオスの三人組と別れ、私は午後の講義に間に合いそうだったので、学院へ向かった。
講義室に入ると、ケイティーとクーマイルマが待っていた。
「お帰りなさい、ソピア。」
「ソピア様、お帰りなさいませ。ビオスの観光はどうでした?」
「なんか、観光している暇は無かったよー。今度ゆっくり皆で行こうね。」
「そうね。」
「はい!」
授業終わりに、生徒の居なく成った教室で、クーマイルマに飛行術の説明をしていたら、学生達が一人二人と集まって来てしまった。まずいな、浮上術教える前に飛行術を教えちゃうと、大怪我しかねない。あれは、墜落防止とゆっくり着陸する為の術でもあるのだから。
勝手に覗き見している学生に、その事を伝え、ちゃんと授業で安全な方法を習うまでは、自己流でやらないようにと釘を刺しておいた。
学院の外へ出てみると、何時もより賑わっているのが分かる。
観光客で、どの店もごった返していた。
通りを歩いていると、キョロキョロとしながら、通りを行ったり来たりしている不審者が居た。
良く見ると、あいつだった。ビオスで私に絡んで来たあいつ。
「あんた、何やってるの? 行動がまるで不審者よ?」
「あ! あなたは女神様! やっと見つかった!」
私の姿を見つけると、嬉しそうに走って来た。
なんだ、私の事を探していたのか?
「教えて欲しいんだが、この国に今、我らの信仰する神である、神竜ブランガス様がおいでになっていると聞いたのだが、何処へ行けば会えるのだろう?」
「んー? あなた、ブランガスに会いたいの? あなたみたいな礼儀の成っていない者は、喰われちゃうよ?」
『!--失礼ね~、そんな不味そうな男なんて喰いません~。--!』
あれー? ブランガスは、私の目も通して見る事が出来るのか? 主のプライベートを覗き見るとは、何という不届き者じゃ!
『!--いや~ん、怒っちゃ嫌~。--!』
本来なら、私が神竜達の目を通して世界を見るべきなんじゃないのか? 本当に私の方が上位者なのかどうか怪しくなって来たな。
「喰われない様に礼儀正しくしますから、どうか、ブランガス様に合わせてくれないか? いやくれませんか? お願いします。俺、ブランガス様みたいに、炎の様な荒ぶる神竜に憧れているのだ。俺もブランガス様みたいに強くなりたい!」
えーーーー、ブランガスみたいに成りたいのー?
多分、あなたの想像しているブランガスと実物のブランガスは、180度位違っていると思うよ。
やべえ、こいつをブランガスに会わせて良いのだろうか? どちらにも不幸を呼びそうな予感しか無い。
『!--連れて来なさいよ~。ちょっと驚かせてやるわ~。--!』
『!--ちょっと待って、アーリャに相談してみるから!--!』
「ソピアー、アーリャは魔導鍵持って無いわよ?」
「あっ、そうか、でも、魔導鍵無くても私のテレパシーのパワーなら、届くかも? やってみる。」
未だ魔導鍵にテレパシーの通信機能が備わる前に、エピスティーニから王都に居るヴィヴィさんに飛ばした事がある……、あれ? あの時は、偶々ヴィヴィさんが魔導倉庫を開いたから聞こえたんだったっけ? あー、でも、同じ王都内に居るんだから、余裕で届くはず。試しにやってみよう。賢者なら聞こえるはず!
私は、王城に居るアーリャに向け、意識を集中してテレパシーを送ってみた。
『!!!--アーリャ! アーリャ! 聞こえる!?--!!!』
『--うあああああ! 頭の中に騒音が響く! 何これー!!--』
『!--あ、ああ、ゴメン、私だよ、ソピアだよ。今、テレパシーで話してるの?--!』
『--テレパシー!? 学院で習う筈のものですわね? それを何故あなたが……、まあ、出来るのでしょうね。--』
アーリャが何かを達観している様な事を言い出しだぞ。
『!--その辺りの事は今は置いといて、ビオスで私に絡んで来た男が居たでしょう? あいつと町で出くわしてね、ブランガスに会わせろって言うの。--!』
『--なんですって!? 今行きます!--』
場所も言っていないのに、
「それ位、時間帯を考えれば、下校途中の通学路だと直ぐに予測が付きますわ。ハア、ハア……」
よっぽど慌てて走って来たのかな、短距離なのにハアハア言っている。
「お? 火の賢者のアーリャじゃねーか。どうした? 慌てて。」
「どうしたもこうしたもありませんわ! ブランガス様に会わせろとソピア様に頼むなんて! また、無礼な振る舞いでもやらかすのではないかと気が気では有りません! 私も付いて行きます!」
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