第199話 飲料用

 「ケイティー、ちょっと背中見せて。」


 「何よ? どうしたの?」



 ケイティーの背中の火傷の引き攣れた痕が綺麗に消えていた。

 二の腕の痕も見せてもらったが、こちらも消えていた。



 「あらほんと。凄いわ。」



 私のやつだと、一旦完治してしまった傷跡は、完全には消えなかったんだ。ブランガス汁凄いな。

 ケイティーは、変身術で一応消すことは出来るのだけど、魔導師では無いので、常時魔力を消費し続けるタイプの魔導は、あまり得意ではないので、隠れる部分の火傷痕は諦めていたんだ。


 体外の物を加工出来るかもという魔導は、まだ研究段階だし、それが出来たら真っ先にケイティーの火傷跡を消してあげようと思っていたのだけど、その必要が無くなった。ブランガスに感謝しなくちゃ。



 「あら~ん。感謝は、心の中で思っているだけじゃなくてぇ、ちゃんと態度で表してくれなくちゃ駄目よ~。」



 直ぐに抱き着いてくるー! 甘噛するなー!! エバちゃま、羨ましそうに見ないで!

 食堂で皆でハーブティーを頂いて、エイダム様とエバちゃまは、王宮へ帰っていった。

 私達も、各部屋に戻る。



 「えーと、じゃあ、ブランガスの部屋は……」


 「私は、ソピアちゃんと同じ部屋がい~い!」



 ガバっと抱きつかれた。助けて! クーマイルマ、羨ましそうに見ないで! 喰われそうで怖いんだから!



 「失礼ね~、喰わないわよぉ~。……たぶん……」


 「たぶんって言ったー! いやああああああ!」



 部屋のドアがバタンと閉まった。


 シーーン…………


 ………………


 ……………


 …………








 チュンチュン


 朝、食堂へ行くと、皆は既に集まっていた。



 「おはよう……」


 「どうしたの? ソピア。首筋に歯型が付いているわよ。」


 「うっうっうう……、うわあぁぁぁぁ」



 私は、テーブルに突っ伏して泣いた。何か大事な物を失った気がした。どうして助けてくれなかったの!?

 ケイティーを睨むと、ムリムリムリムリと、首を横に降った。

 クーマイルマを睨むと、ケイティーと同じ反応をした。



 「ソピア様は、自分の命を一番大事にしろと仰っしゃいました。私のために命を掛けるなと。」



 うう、ちくしょー! こんな時だけ優等生な回答をしやがってー!

 こうなりゃやけ食いだ! ばくばくばく……

 ブーーー!! 私は、口の中の料理を吹き出した。



 「辛っらー!! なにこれ!?」



 また、ヴィヴィさんが作ったのか? いや、まさかこの味は……はっ!

 私は、隣で満足そうに食事をしているブランガスの手を掴んで、調理場へ引っ張って行った。

 そして、そこに居る料理長の胸ぐらを掴み、ドスの利いた声で言った。



 「料理に、使ったなぁあああ!!」



 料理長は、顔をそむけたまま無言だ。

 それを見ていた副料理長が、ぽつりぽつりと話し出した。



 「しかし、あれは、体にとても良いのです。だけど、いかんせん辛すぎる。私達は、利用方法を色々考えて居る内に、少量ならば、その辛味と酸味が料理のスパイスとして、とても良い味を出す事が分かりまして……そのう……」


 「だけど、風呂の残り湯だよね!?」


 「衛生管理主任のヴェラヴェラ様に見てもらった所、病原菌の類は一切見当たらないと言うので……」



 キッとヴェラヴェラを睨むと、サッと視線を外した。ちくしょー、皆グルなのか?

 仕方無い、料理用には、ちゃんとした物を用意しよう。

 私は、大きめの寸胴鍋を取り出し、そこへ飲水を並々と満たした。ブランガスを手招きして、これにマナを注入してくれる様にお願いした。



 「良いわよ~。これに入れれば良いのね?」



 ブランガスは、鍋に右手を突っ込み、力を入れると、水が瞬間的に沸騰し、赤い光を発した。



 「だから、沸騰させなくて良いから。」


 「ん~、やってるつもりは無いのだけど~。私のマナを入れると、勝手に沸騰しちゃうみたい~。」



 そうなの? 益々危ないな。とすると、ブランガスのマナを注入すると、治る前に一旦つらい思いをしなくちゃならないのか。良薬口に苦しってやつ? 辛しだけど。

 私は、風呂の時みたいに魔力で温度を下げ、触れる程度に温度を下げた。



 「今度から、料理用にはこれを使って下さい。」



 そう念を押して、食堂へ戻ろうとした時に、はっと気が付き、キッと振り返った。



 「金色の方も全部出して!」


 「えっ? い……やあ……それは……」


 「出せ!」


 「は、はいぃ!」



 皆、ゴトゴトッと各々瓶に入ったケイティー汁を差し出してきた。



 「メソ汁」



 ケイティーがいちいち訂正してくる。



 「これで全部? そこのパティシエの人、あなたも出すのよ! そこの棚と調理台の下の引き出しに入っているのも全部!!」



 渋々だが、隠し持っていた物も全部出させた。それを全部取り上げ、全部下水に捨てる。



 「ああああ……」


 「勿体無い……」



 こちらも、料理用に使うなら別に用意します。

 倉庫からもう一つの寸胴鍋を取り出し、飲料用の水を満たして、そこへ私のマナを注入する。

 水は金色に輝いた。これは、前のやつよりかなり濃いよ。



 「おおおお! 有難うございます!」



 厨房を後にし、食堂へ戻ると、皆は既に食事を終えていた。

 皆が一斉に私の方を見る。



 「な、なによ?」


 「そんなに簡単に作れるなら、夜の勉強用にもっと欲しいです! ……そうすれば、言い付けに背いてまで隠れて飲む必要が無かったのに……」



 こいつ、堂々と飲んでるのを暴露しやがった!

 しかし、勉強用と言われちゃうと、無碍に出来ない……



 「はいはい、分かりましたよ。水筒持っておいで。」


 「有難うございます!!」



 クーマイルマは、私がそう言うのが分かっていたかの様に、既に用意してあったバケツを2つ、ドンッとテーブルの上に出した。

 私が倉庫に入れてある水筒を取り出そうとしたら、クーマイルマは魔法で水を出して、さっさとバケツを満たしてしまった。

 いつの間にか、魔法の腕まで上げてたのか、皆どんどん先へ進んでいるなー。私、置いて行かれちゃいそう。


 皆が顔を見合わせた。



 「一番どんどん先へ行っちゃってるのは、ソピアでしょ。」



 呆れた様子でケイティーにそう言われた。

 でもさ、自分で努力して得た力じゃないんだよね。クーマイルマもケイティーも、今の実力は、過去の自分の努力の結晶なんだもん、私にはそっちの方が尊いと思うよ。


 私は、倉庫に仕舞ってある水筒を人数分取り出し、マナを込めようとしたら、あれ? 既に淡く光ってるな。前に鍾乳洞内で見た時よりも光っているかも。

 更にマナを込める為に、水筒の上に手を翳して念じると、水筒の中の水は黄金色に輝き出した。



 「ソピアの黄金す……」

  「ばかやろー!! ケイティー、ぞの呼び名だけは絶対に許さないからな!」



 食い気味に全力否定した。



 「はいこれ。皆に一本ずつね。」



 水筒を配っていると、部屋の隅からも視線を感じる。屋敷のメイド達だ。

 やれやれ、この屋敷に使用人は何人居るんだっけ?

 あー、200人ですか。え?正確には221人? 水筒は、1000本持ってるからね。全員分有りますよ。


 一人一人に水筒を渡す羽目になりました。

 何だこれ? 限定品の配布会場か? こらそこ! 二回並んでるのバレてるぞ!


 ふう、余計な仕事ばかり増えるよ、もうっ。



 「人間って、面白~い!」



 ブランガスが人間の面白さに目覚めました。



 「ところでさ、イブリスは全属性の魔法を使えるって言ってたよね。もしかして、私も使えちゃったりするのかな?」


 『--はい、今のお母様も使えますよ。--』


 「マジで!!? お師匠! ケイティー! ブランガス! 私、全属性魔法使えるって!!」


 「体内のイフリートが使ってる訳じゃから、ソピアが使えるというのとは、ちょっと違うんじゃないのかのう?」


 「そうよねー、努力しないで能力だけを貰っちゃうというのは、ちょーっとずるいわよねー。」



 はい、全ラノベ作家を敵に回しました。第四の壁の向こう側へ謝りなさい。

 そのご指摘は、私だって分かってるんだよ、あえて言うなや。だから困ってるんじゃないの。




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