第200話 サントラム高等学院
あれから数十日……
「ソピア様! 試験受かりました! あと一つです!!」
「おおっ! 凄いじゃん! これで一緒の学校に通えるね。最後の試験は何時なの?」
「三月後です! それに受かれば、二月遅れで編入できます。」
そう、いよいよサントラム学園の高等学院は、来月開校なのだ。外国からの留学生も受け入れるので、収容人数はおよそ1000人にもなるマンモス校になる。
高等学院は、寮も備えているけれど、基本的には希望者のみで、通いも認められるし、休日にハンター業を兼任する事も可能。
マヴァーラのサントラム学園と同様に、完全無料となるのだけど、その代り、試験は相当厳しく、受かってもその後の進級試験に受からなければ即退学だ。再試験のチャンスは1回だけといいう鬼仕様に加え、卒業までの関門は幾つも有って、付いて行けない者は、ガンガン篩い落とされる。
その代り、卒業出来た者は、王城勤務が約束されるという、完璧エリート養成学校となっている。もちろん、蹴ってハンターやるなり国へ帰るなりするのも自由だけどね。
サントラム剣、飛行椅子、魔導倉庫鍵の内の2つが、卒業記念品として贈与される事となった。3つともくれないんだ、ケチね。
私とケイティーは、そわそわしている。
私達は、一足早く入学は確定しているとはいえ、入学後の進級試験は普通にあるのだ。他の人より優遇されていて、途中脱落なんて成ったら格好悪い事この上ない。
いきなり学園モノ展開かよと驚かれるかも知れないが、ピラミッドの調査とマナ喰いの対策については、引き続き継続中なのだ。
というか、その辺りの調査は、お師匠とアクセルが必死に調べている。王宮側も地下のピラミッドについての調査に入っているそうだ。
「てゆーかさ、ケイティーは既に学生というよりも、教える側なんじゃないの?」
「それは、ソピアもでしょう。」
「私達って、今更学校へ通う必要性あるのかな?」
この発言に、傍で会話を聞いていたヴィヴィさんが慌てた。
お? 何か図星でも突いたのかな? まあ、私達を客寄せパンダにしようっていう魂胆は、ミエミエなんだけどね。
「そ、ソピアちゃん? ケイティーちゃん? 学院を卒業出来なければ、三種の神器は返却になっちゃうのよ?」
「私は、飛行椅子は要らないし、魔導師だから剣もそれ程必要じゃない。なんなら、戦闘なら
「私も、倉庫と延長剣以外は何とかなりそうな気がしてきた。延長剣必須かと言われたら、う~ん、だし、もしかしたら、倉庫もジンを使って再現……」
「アーアーアー!! きこえなーい! そんな事言っちゃ駄目ー!!」
ヴィヴィさんが、現実逃避し始めた。何か、今まで敢えて言わなかったけど、核心に触れてしまったか?
卒業記念品の三種の神器の内、一番欲しいのと要らないのはどれだろう? 魔導鍵 > 剣 > 飛行椅子、の順かな?
「飛行椅子、一番要らない?」
「高等学院では、魔導科では飛行術習うと思うんだよね。魔導剣術科だと欲しいかもしれないけど、2つだけとなると、鍵と剣を選ぶんじゃないかな?」
「どうなのかな? ソピアは魔力の消費なんて考えた事も無いのかもしれないけれど、飛行術って結構魔力消費が激しいのよね。魔力を使わないで飛べるなら、欲しい人も居るんじゃないかしら? 寧ろ、魔導師なら剣が要らなくない?」
「言われてみれば、そうかー。」
魔導師だと、魔導鍵 > 飛行椅子 > 剣、の順?
剣士だと、魔導鍵 > 剣 > 飛行椅子、になるのかな?
ソロでハンターするならともかく、パーティーでの移動手段としては不便だもんね。以前にケイティーの飛行椅子に三人乗りした事あるけれど、ロッキングチェアー型だと、ちょっと複数人乗りはきついでしょ。ウルスラさんのみたいなソリ型とか、いっそ、空飛ぶ絨毯にしちゃうとか、もう一度使用目的からデザインを考え直してみた方が良いかもね。
「それよりも、私思うんだけど、太陽石のチャージはどうするんですか? 特に外国の留学生のは?」
「それなら、ソピアちゃんかケイティーちゃんのジンでちょちょいと……」
「あら~ん? ヴィヴィさ~ん、我が主をそんな商売目的で利用しようなんて、……食べるわよ?」
「ブ、ブランガス様! 冗談です! 冗談っ! じゃ、じゃあ、ケイティーちゃん……」
「私嫌ですよ。そんな何百人分もだなんて!」
そんな訳で、飛行椅子だけは技術的問題があるので保留という事になった。
多分、どうしても欲しいという人にだけ、抽選で何名かまでという事になりそう。
もちろん、ジンを提供するケイティーには、対価が支払われる事になる。
「ところで、外国からの留学生って、何人位来るのですか?」
「過半数は国外から来るわよ。」
「そうなんだ?」
「そりゃそうよ、1学年300人ちょっとの募集でしょう? マヴァーラからの卒業生は、毎年20~30人程度、5年以内の卒業生、つまり二十歳以下ね、を含めて、その全部が受験して来たとしても、最大180人、その内の半分が試験に受かったとして、90人だから、外国からは240人程度は受け入れないと定員割れしてしまうでしょう?」
「こっちが少数派になってしまうのかー……」
ギルド長みたいに40過ぎのおっさんも剣とか鍵には興味があったみたいだけど、はたして定職に就いている人がどれ程やってくるのか。商人なんかは、魔導鍵目当てで試験受けに来るかもしれないけれど、商売を放っぽって3年間通えるのかという疑問はあるよね。
商人の子供だったら通えるかな? でも、殆どは貴族の子供とかで埋まっちゃうんじゃないのかな。
「既に外交ルートを通じて、友好国には、国費留学生を派遣する様に打診してあって、それぞれ20人程度ずつエリートが送り込まれて来る予定よ。ウルスラの国からも、現地で試験を突破した、30人程度が来る予定よ。」
そうなんだ、近い国程、魔導鍵なんかの発明品の有用性が分かってて、それ目当てに応募者が殺到しているって感じなのかな?
(うーん……、ウルスラの国の場合は、どうもソピアちゃん目当てみたいなのよねー。でも黙っておこう。……)
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
そんなこんなで1ヶ月後。
サントラム高等学院の入学式。
「じゃあ、ソピア、私は魔導剣術科だから、また後でね。」
「うん、今日は入学式だけだから、午後に久しぶりに狩りにでも行ってみる?」
「そうしよう、そうしよう。じゃあ、後で。」
式の終わりに、キャンパスの噴水の前のベンチで待ち合わせしていたら、大勢の女子に取り囲まれてしまった。
「ソピア様! やっと見つけました! あの、私達、ロメニア王国の王宮魔術師なんです!」
ロメニア? はて、何処でございましょう?
『--ソピアちゃん、お隣の国の名前位、覚えて置きなさい。ウルスラの国よ。--』
「あ、あー! その節は、お騒がせしました! あの時酷い目に合わせちゃった、近衛魔術師のおっさんは元気ですか?」
「はい、もう、女神様に楯突いた愚か者として、女官連中に絶賛ガン無視され中です。」
そうなんだー……、哀れなり。でもちょっと気の毒かも。
「私達、この国に入って最初に、王宮へご挨拶に行ったのです。その時に、このアイテムを分けて頂いて……」
皆が、ポケットから淡く光る水の入った小瓶を取り出して見せてくれた。
「メソジルという……」
「てーい!!!」
私は、全員の小瓶を魔力で取り上げて、遠くに見える池の中へ放り投げた。
「ソピア様ー! 酷いですー。高かったのにー。」
「まさか、お金出して買ったの!?」
「1瓶、大金貨1枚もしたんですよー。」
泣きそうな顔になっている。まさか金儲けに売っている奴等が居たとは、ゆるせん!
『--宮廷魔導師のモラルに関わる問題ね。犯人を見つけて、返金させましょう。--』
『!--たのむよ、大金貨1枚だなんて、悪質だからね。--!』
私は、放り投げた小瓶を魔力で回収し、綺麗な水で洗浄してから、新しいマナ水を詰めて返してあげた。……呼び名、『マナ水』でいいじゃん! 今度からマナ水と呼ばせよう!
それから、皆に返金してあげた。
「ごめんね、素行の悪い宮廷魔導師が騙す様な事して。きつく叱っておきますから。」
ロメニアの魔導師の女の子達は、私の謝罪に勿体無い止めて下さいと連呼して、小瓶を抱えて嬉しそうに帰って行った。
学校内では、様付けは絶対止めて欲しいという事は、念を押ししておいた。
「大変ね、ソピアも。」
遠巻きに一連のやり取りを見ていたケイティーが、近寄って来て同情してくれた。
「ちょっとそこのあなた!」
また誰か絡んで来たー。
私は、げんなりして振り返ると、そこには気の強そうな背の高い、褐色肌の女の子と、その取り巻きみたいなのが2人居た。
うわ~、何このベタな展開。ベッタベタですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます