第186話 ダルク女王

 皆でピラミッドの裏側へ回ってみたが、入り口っぽい物は一切無い。残りの一面も丹念に調べてみたが、他の面と同じで、白い大理石の化粧石で隙間無く埋められている。

 地球のピラミッドは、化粧板は剥がされてしまっているけれど、ここのは完全に保存されている。出来るなら、上にある天井とその上の城も全部退かして、太陽光の元で見てみたいものだと思った。



 「どうしよう?謎空間から中へ入ってみる?」


 「うーむ、そうじゃなあ、せっかく此処まで来て、ただ見学して帰るだけというのも何じゃし、入ってみるか。」



 私は、再び全員を謎空間へ収納し、ピラミッドの壁を貫通して内部へ入ってみた。

 内部は、殆どが石で埋められているのだけど、所々に空洞の様な物がある。坂道の様な通路が、何本か通っているみたい。だけど、両端が塞がっていて、何処にも抜けられなかったり、石棺みたいな物が在るけど、中身は空っぽだったりして、まったくもって意味が分からない。

何なの、一体……、これ程設計者の意図が分からない構造物も珍しい。



 「これは、ダルク女王の墓と言われているそうだけど、実際は、墓なんかじゃ無いのかも?」



 私は、地球のピラミッドでも感じた、同じ疑問を呟いた。多分だけど、私の想像なんだけど、これは、何かの装置なんじゃないかな……

 私の言葉に、皆が私の顔を見た。



 「ちょっと、ソピア! どうしたの? それ……」


 「え? 何が?」


 「酷い汗よ、それに……」



 ケイティイーに指摘されて初めて気が付いた。顔を手で拭うと、びっしょりと濡れた。

 まるで頭からバケツで水を被ったみたいにずぶ濡れだ。他に集中していたため、自分の体調が悪い事に全然気が付かなかった。

 あれ? 具合が悪いぞと気が付くと、途端に背筋がゾクゾクして、頭もボーッとして来る。あ、これヤバイやつだ。


 皆を連れて謎空間に入ったまま倒れる訳にはいかない。

 急いで天井を突き抜け、ピラミッドの先端の出ていた1階の空間に出ると、皆を謎空間から出した。



 そこまでは、何とか覚えている……


 ………………


 …………


 ……








 気が付くと、私は真っ白な空間に寝ていた。

 あれ? お師匠やエイダム様達は? ケイティーは? 誰も居ない。

 ただ、真っ白で、上も下も分からない空間の、空中に浮かんでいる。

 私の目の前に光源が有る。きっと、明るさは100万ワットだ。

 そこからとても強い光が出ているのだけど、不思議な事に眩しくは、無い。

 その光の中から、右手を上げた人が出て来た。きっと、光の国からの使者だ。



 「ウルトラマンではありません。」



 そんな感情の無い口調で否定しなくても良いのに。もう、いけずな人。



 「いけずでもありません。」



 うーん、冗談が一切通じないぞ、何だこの人? てゆうーか、この人、神様的なアレだよね。普通さ、転生物で神様っつったら、一番最初に出て来ない? そんで、チートな能力をくれるんでしょう? 何でこんな今頃になって出て来るんだよ。



 「私の名は、ジャンヌ。あなたの先代です。あなた、ちょっと危なっかしいので、少し忠告して差し上げようと出てきました。」」


 「ジャンヌ? フランス人っぽくない? あ、例の転生者かな?」


 「ああ、多分それです。私は、地球ではフランスに住んでいました。あなたと同じ、転生者ですよ。」


 「あれ? という事は、国の開祖の、ダルク女王ですか?」


 「あああ、それそれ! 中世レベルの世界に、中世の人間をぶち込んだって、大した事出来ないわよねー! 本当に、私、先代に文句言っちゃったわ。」


 「へ、へぇ~……、そーなんだー。」



 えー、先代さんって、こんな感じの人なんだー。

 あれ? そう言えば、ジャンヌだと、ジャンヌ・ダルク!? ジャネットじゃなかった? えええー!! まじでかー! 意外な所でビッグネーム出てきちゃったな。ちょい役臭いのに。



 「ちょい役言うなー。火炙りの後こっちに転生してびっくりしたのは私なんだから。なのに! この物語では主役ですら無いなんて…… どうなのよ! ちょっと!」



 はいそこ、第四の壁を破らない様に。



 「神様権限です!」



 まじか! 言われてみれば、私のモノローグも誰に向かって言っているのか、良く分からない部分が多々あるのだけどね。そういう事だったのか、びっくらコン。



 「まあ、私の名前はどうでもいいです。愛称とか通称とか略称が入り混じっているので。あなたの名前も、後世にはメソピーとか呼ばれてますよ。」


 「まじか、広めてる奴を殺しに行かなければならない。」



 そんな巫山戯た会話をしていたのだけど、ジャンヌが出てきた理由といいうのは、私が危なっかしいからという事だった。

 本来なら、自ら星の謎に気が付き、その深淵に辿り着くのを見守るだけだったはずなのだけど、なにぶん、メインパーソナルが若干12歳の子供だという事で、無茶しがちなのが見ていてハラハラするからなんだって。

 で、目に見えてる危険にうっかり特攻しそうなんで、予め注意喚起をしておこうと考えたらしい。



 「その、目に見えてる危険って何なの?」


 「反位相空間体アンチフェーズ・プラスにうっかり接触しすぎだからです。」


 「アン……なんやて? それ何?」


 「反位相空間体アンチフェーズ・プラス。あなた達がマナ喰いと呼んでいるモノです。」


 「ああ、あの実態の無い魔物かー。あんなの、私のマナの光でイチコロですよ。」


 「はいそこ、ダウト!」



 ジャンヌの話によると、マナ喰いにマナの光で対抗してはいけないとの事だった。

 あれを魔物と捉えるのがそもそも間違いで、伸び縮みして生き物の様に見えるけれど、あれは、多元軸空間、つまり魔導倉庫空間と同じく、我々の居るこの四次元空間の更に上の、五次元、六次元、七次元空間の位相反転空間そのものなのだという。

 魔導倉庫空間が、もしも可視化出来るなら、あのマナ喰いと同じ様にグネグネと伸び縮みして見えるだろうとの事。


 つまり、反位相空間体アンチフェーズ・プラスとは、我々の居る、この空間とは逆位相なので、我々世界のエネルギーを喰われる。正確に言うと、対消滅しているのだという。


 私が神格の光でマナ喰いを浄化していると思っていたのは、私の膨大なエネルギーと、その反対のエネルギーが喰い合って消滅していただけなのだ。


 これは、過去に地竜が堕天現象フォールダウンした時と全く同じ過ちで、神竜の膨大なエネルギーを持ってしても、瞬く間に喰い付くされてしまった。私は、それと同じ愚を犯そうとしていたのか。


 モノには全て裏表が有る。光が有る所に影が有る! 人よ、名を問う無かれ、の様に、対と成るものが必ずあるのだ。磁力のN極とS極、電流の陽極と陰極、物質と反物質、ブラックホールとホワイトホール、そして、マナとマナ喰い……



 「ソピア、あなたが立て続けに反位相空間体アンチフェーズ・プラスと接触しているのを見て、私は恐ろしくて仕方が有りませんでした。」



 ジャンヌは、遂に黙って居られずに忠告に出てきてしまったのだという。

 言う程立て続けか? とも思ったのだけど、リーンの村、アイノの村、そして王城の地下と、割と短い期間に立て続けだったかも。

 そのせいで、自分では気付かない内に激しく消耗していたのか。



 「本当に危なかったのですよ? しばらく此処で、神気の光を浴びて回復して行って下さい。」


 「わかったよー、うーん、神光浴気持ちいいー。でも、あまり長居すると、皆が心配するかなー……」


 「その心配は要りません。あなたが倒れた時間の直後へ戻して差し上げましょう。」


 ………………


 …………


 ……








 「はっ!」


 「ソピアちゃん!」


 「ソピア! 良かった。急に倒れちゃうからびっくりしたわ。」



 地上に戻り、謎空間から出た途端に、私が倒れちゃったので、皆びっくりしたらしい。

 物凄い汗をかいているし、ウルスラさんが見た所、マナの光が物凄く弱っていると言うので、他へ運ばずにこのピラミッドの先端の空間でエバちゃまに抱きしめられたまま、眠っていたらしい。



 「あー、ごめんごめん、マナ喰いにマナを喰われすぎちゃったみたいなの。」


 「本当にこの子はー。このおばあちゃんをあまり悲しませないでね。」


 「ごめんなさーい。」



 ここで、私は、意識世界でダルク女王に出会った話をした。

 それから、マナ喰いの正体、反位相空間体アンチフェーズ・プラスの事も、全て話した。



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