第185話 謎のピラミッド
これは何でこんなに広い空間で囲ってあるのだろう? まるで何かを貯めるタンクの内側みたいな……
そこまで考えて、はっと思った。そうだ、タンクなんだ。ガスタンクとか、そういう類の物に似ている。
では、何を貯めているのだろう?
ピラミッドを凝視していたら、その答えは直ぐに解った。
「これは、マナを貯める施設ね?」
エイダム様が、驚いた表情で私を見た。
「良く解ったな、流石は神格を宿すだけの事はある。」
目を凝らしてみると、ピラミッドの先端部分が淡く光っている。これは、ケイティー汁と同じ光だ。
「メソ汁。」
ピラミッドの先端部分から、緩やかにマナが吹き出し、この空間を満たしているのだ。
「我々歴代の王族は、このマナ溜まりを利用し、国を統治してきたのだ。」
王族の祖先は、マナを此処で補充し、魔力を増幅したり、怪我を治したり、疲労を癒やしたりして、人の何倍もの働きを可能にしたのだろう。
そして、このマナを貯めておく装置を作り、その上に城を築いた。
「うむ、概ねその通りだ。私は、このピラミッドは、初代王であるダルク女王の叡智の結晶だとばかり思っていたのだ。ダルク女王も異世界からの転生者だと言われている。」
「ダルク女王が転生者!?」
「女王が、異世界の知恵を持って、この不思議なピラミッドを作り上げたと考えていたのだが……」
「浮遊島でそれが間違いだったと知った訳か。」
ピラミッドは、ジャネット・ド・アルクがこの世界にやって来る、遥か以前から此処に在った。
あの古代の高空写真に写っていた物とこれが同じ物だとすると、王国の歴史は書き換わってしまうかもしれない。
「でも、あんなに高い空の上から見える位なんだから、こんなに小さくはないでしょう?」
ケイティーが最もな意見を言った。
「これって、ピラミッドの先端部分なんじゃないかしら?」
「だとすると、下へ降りる道が何処かにあるのだろうか?」
つまり、この足元にはもっと巨大なピラミッドの本体が隠されているのかもしれない。
見た感じ、平らな石畳に下へ降りる様な入り口は見当たらない。
私は、何処かに下へ降りる空洞が有るのではないかと思い、魔力のサーチで床下を探ってみた。実は、魔力のサーチは、それ程精密な感知は出来ないし、動かない物を見つける事は出来ないのだが、方法が無いわけではない。自分の方が動けば良いのだ。レーダーが、アンテナをぐるぐる回しているのと同じ方式だ。
私は、部屋の中を走り回りながら、サーチをかけてみた。後から考えたら、ドタドタ走らないで飛び回れば良かった。
「あった!」
一箇所、石畳の下に空洞っぽいものが在るのが分かった。
だけど、分厚い石版で蓋がされている。何処かにこれを開けるスイッチでも有るのだろうか? 魔力でこじ開けてやろうか。
「待て待て、お前は本当におっちょこちょいじゃな。例の便利空間で移動すれば良いじゃろうが。」
「あ、そうだった。てへっ!」
私は、フィンフォルムみたいに格好良く出来ないかと思い、人差し指で空間を突付いてみた。……波紋は起こらない……
あの波紋とか扉って、フィンフォルムがデザインした光学的エフェクトなのかな? 上手く行かないので、何時もの様に拳に魔力を込めて、空間を殴って割った。
エイダム様とエバちゃまは、初めて見るらしく、ビックリしていた。何でお師匠が扉から出てきた時は驚かないんだよ。
「それは、ロルフや神竜ならどんな飛んでも無い事をしても、普通にやりそうな気がするのだけど、ソピアちゃんがやると、こんな小さな子が! って、驚いちゃうのよねー。」
そんなもんなのか? フィンフォルムの扉みたいにスマートじゃなくて、かなり雑なのに。
プロの画家の隣で、幼稚園児が下手くそなお母さんの絵を描いて見せて、良く出来まちたねーって褒められてるみたいな感じがするぞ。
まあいいや、皆を謎空間へ収納して、最後に私も入って、移動開始。
さっき、サーチで空洞が見つかった場所の石畳の上に移動して、地下へゆっくり沈降してみる。
石畳の石の厚さは、およそ1ヤルト(約1メートル)、岩を通り抜けると、その下には案の定、階段が有った。
階段を数百段、階段の空間内を、階高で20階か30階分位の高さを降りると、いきなり片側の壁が無くなり、開けた空間へ出た。振り返ると、天井の穴から階段が伸びている感じだ。
そのまま、手摺も無い石段を、数十階分を降りる。
階段の縁から下を覗いてみると、底までの高さは、50ヤルト(50メートル)以上はありそう。
ここで、謎空間から出る? と、皆に聞いてみたら、全力で拒否された。まあ、そりゃそうだよね。
私は、階段に沿って移動するのを止め、縁から下へ垂直に降下して底へ到達して、謎空間から出た。
謎空間内から見ると、外の景色は良く見えていたのだけど、外へ出ると光が全く無い為に、真っ暗闇だった。
ヴィヴィさんが直ぐにマジックライトを点灯してくれた。
「きゃあっ!!」
ケイティーが悲鳴を上げた。
他の皆はキョトンとしている。無理も無い、アレを見た事のない人では、咄嗟に分からないかも知れない。ただの暗闇なのか、光の影なのか、それとも壁がただ煤けていて黒いだけなのか……
壁一面に張り付いていたそれが、マジックライトの光に反応して、波を打ち、動き出した。
アメーバの様に伸びたり縮んだり、膨らんだり萎んだりする、黒い煙の塊の様な物体。そう、通称マナ喰いと呼ばれる魔物だ。
実態を持たないので、物理攻撃が全く効かず、肉体を破壊する事で浄化する事も出来ない。
この中で直接見た事のあるのは、私とケイティーだけだ。二人だけが咄嗟に反応出来た。
私は直ぐにイブリスを呼び出し、皆を絶対障壁で守ってくれる様に指示をする。
魔力による障壁は、マナ喰いの格好の餌でしか無く、直ぐに穴を開けられてしまうのだが、時間稼ぎには成るだろう。
お師匠とヴィヴィさんが強力なマジックライトを灯すと、光を嫌がったマナ喰いが離れていくが、浄化するには至らない。
「はあーーーーああああああ!!」
バシュウ!シュワンシュワンシュワンシュワン……
『--キャアアアアアアア……--』
私の神格の光に曝されたマナ喰いは、嵐の中の灯火の如く、掻き消されて逝く。
思念に悲鳴の様な断末魔が聞こえた。
「ソピアちゃん、凄いわ。あんなに沢山居た魔物の影が、一瞬で消え去ってしまった。」
エバちゃまが感嘆の声を漏らした。
イブリスは直ぐに障壁を解除し、皆を外に出す。
マナ喰いが消えた後、周囲を観察すると、全て石で出来た空間なのがよく分かる。足元は、2ヤルト程の幅で、200数十ヤルトはあろうという直線の通路となっている。階段の在る側の壁は、垂直に50ヤルトは聳え、その先は石の天井となる。壁の反対側は、勾配が52度位の白大理石の斜面と成っている。
つまり、ここはピラミッドの基底部の外側なのだ。巨大な石の箱の中に、ピラミッドが入っていて、箱とピラミッドの間には幅が2ヤルト程の隙間が在るのだ。そして、ピラミッドの先端は、箱の蓋(天井)を貫通し、地上に2ヤルト程突き出しているという構造になっている。
「驚いたな、まさか城の地下がこの様な構造になっていたとは……」
「そうね、こんなにも大きなピラミッドが下に埋まっていたなんて。」
ピラミッドの多きさは、底辺の長さから計算すると、地球のギザの大ピラミッドと同じかそれ以上の規模だと思われる。
「ピラミッドを埋めちゃったのは、ダルク女王って事?」
「そのあたりの記録は一切残っていなくてな、その後の王族がしたのかも知れぬが……」
「何故記録に残さなかったので御座いましょう?」
「うむ、何か重大な秘密が隠されているのやも、知れぬ……」
調査をする為に、ピラミッドの周囲をぐるりと回って見る事になった。
私が先頭に立って歩き、ピラミッドの角を曲がった所で、影の所に隠れていたマナ喰いが、私に向かって飛びかかってきたのだが、私に届く事が出来ずに、1ヤルト手前で消滅した。
「マナ喰いの餌はマナなのに、マナの光でで浄化されてしまうって、変な話だよね。」
「蛾が光を求めて火の中飛び込んでしまう様な物なのじゃろう。」
「ちょっと、反対側の影にも潜んでそうだから、私が先に行って退治してくるよ。イブリスはここで皆を守ってて。」
「分かりました、お母様。」
私は、全力で光を発しながら、ピラミッドの回りを一周して戻って来た。案の定、裏側にも一杯居たよ。
とりあえず、目に見える場所に居たのは全部退治したけど、ちょっと疲れたな。
「一周してみたけど、入り口らしい物は無かったよ。」
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